【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第22話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.21

唐招提寺にむかったジュンヤは、呉道の手下森下と対峙する。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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幕間~榎本徹の復活~

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「これは没収しておく。もしおまえらが呉道と連絡取るようなことがあれば、全員分の携帯を壊すからな」

山下は後ろを歩いていた他の班の全員から携帯とスマートフォンを取り上げると、冷たく言い放った。

俺は正直状況が把握できていなかった。何がどうなってるんだ?

山下はうちの班の方に向き直ると話し始めた。

「昨日、東大寺で呉道ともめたのは知ってると思う。そのあと、ホテルでも呉道に因縁をつけられて、今日は人質を取られて奥山はひとりで呉道のところに行った。ジュンヤは追いかけてる」

淡々とした説明。必要なことだけを端的に伝える。

「それでだ。おれたちはこれからどうする?」

そう言って山下は、班のメンバーの顔を見渡す。

場を仕切ることになれた人間の表情だ。指示を出すのが当然だとでもいうような自信に満ちている。

俺が考えていたのは、村上のことだった。

はたから見ていて、奥山のことをすごく好きなんだろうなということが伝わってきた。それはきっと、俺がハルカのことを本当に好きだったからわかったことなんだと思う。

そんな村上と奥山を引き離した呉道。

俺とハルカがそんな形で引き離されたとしたら。

俺も村上と同じように、ハルカを追いかけるだろう。でも、俺ひとりで追いかけて、果たして呉道を止められるのだろうか。

俺がひとりで呉道のところに行って、呉道を入れた班のメンバーに囲まれたら、たぶん勝てない。目の前で傷つけられていくハルカを、俺は呉道を止めることができずに、無力感にさいなまれながら見ていることしかできないのかもしれない。

違う。昔の俺はこんなんじゃなかったはずだ。ハルカがピンチの時は、死んでもなんとかしようって思ったはずだ。何にもできないかもしれなくても、最後まで何かしようとするはずだ。

村上も今、そう思って追いかけているだろう。これで呉道の思いどおりになったら、村上も今の俺みたいになってしまうかもしれない。

それはいけない。こんなところに落ちるのは、俺ひとりで充分だ。

怒りが湧いてきた。のんきに寺なんか見てる場合じゃないだろ。なんでみんな黙ってるんだ。

澄香ちゃんは、前に呉道に言い寄られてたから不安っていうのはあるかもしれないけど、だからって、同じ班のやつを見捨てるような子じゃないはずだ。

ヒロタカもそう。村上と奥山のことを意識の外に放り投げて、奈良をぶらぶらできるほど、器用なやつじゃない。

北川だって、奥山と仲が良かったはずだ。

山下は、本当なら今すぐにでも行きたいと思っているだろう。

杉本だって、気にならないわけがない。

なのに、なんでみんな黙ってるんだ?

……あぁ、そうか。俺に気を使ってるのか。だとしたら。

山下の目が俺を強く射る。正面から、その視線を受け止める。

「行こう」

気がついたら、口から言葉が出ていた。

山下が、ほぅと言うような顔をする。

「それで大丈夫か?」

山下が他のメンバーを見渡すと、全員がうなずく。短いやりとりからオーラを感じる。中学時代に運動部のやつらが黙って従っていた理由が分かった気がした。

山下はニヤリと笑って言う。

「それじゃあ、始めようか」

唐招提寺

村上淳也SIDE

唐招提寺の門から入ると、スマートフォンを確認するまでもなく、冬川の姿が見えた。

すぐ正面に見える建物の前に、冬川を含んだ集団がいる。人数は、7人。呉道の姿はない。おれの姿に気づいた班員が他の班員に声をかける。

おれは小走りに集団に近付いていく。

「村上! おまえなんでここに!」

森下が大声を上げる。いつも呉道にくっついて、マジかよとか言ってるやつ。

おれの班を監視していたやつらからは連絡がいっていないらしい。アキラがうまくやってくれたのだろう。

「おれたちを監視してたやつらから連絡がこないのか?」

おれは森下たちから5メートルほど距離を取って、相対する。

森下たちの顔がわかりやすく引きつる。

さすがに7人に同時に飛びかかってこられたら厳しいものがある。いや、冬川を除けば6人か。6人を相手すると考えずに、1人×6と考えて戦わなくてはならない。もちろん、最善は戦わずにユウの居場所を聞くことだ。

飛びかかってこられた場合を想定して、リョウスケのスマートフォンをポケットにしまう。右手の木刀は体の横に下げておく。

「おまえしか来てねぇじゃねぇかよ」

森下の悪あがき。

「おれだけ先に抜けてね。そのうちアキラたちも来る。リョウスケたちも外にいる」

と言ってはみたものの、アキラたちが本当に来るかはわからない。アキラひとりなら来るかもしれないけど、班のメンバーに迷惑をかけたくないユウの気持ちを考えて、あえて寺巡りをする可能性もなくはない。リョウスケたちが外にいるかどうかもさだかではない。

不確定要素しかないハッタリ。

リョウスケが外にいてくれるのであれば、とりあえず冬川をリョウスケに渡せば、障害がひとつ減る。しかし、リョウスケがどこにいるかわからない。

森下たちにハッタリをかました手前、電話で聞くこともできない。

閃く。我ながらナイスアイデア。

冬川に電話させればいいんだ。

「まずは冬川を渡してもらおうか」

おれの言葉に、森下はフッと口の端を上げる。

「おれたちが冬川に何かしてるように見えるか?」

冬川を見る。うつむいていて表情が見えないが、何かされているわけではない。昨日のように縛られているわけでも、殴られているわけでもない。

昨日の反省を踏まえて対策してきたってわけか。何も知らないやつが見れば、普通に班別行動しているように見えるだろう。教師が来たとしても、呉道の不在はトイレとかなんとか言ってごまかせばいい。そして、もしもの時には、冬川を脅しの材料にすることもできる。

班員のひとりがスマートフォンを操作している。

呉道に電話するのか? それは避けなくてはならない。

「そこのスマホ持ってるやつ、この後の展開を考えろよ。どう転んでも呉道はもう詰んでる。じきにアキラたちも来る。余計なことはしない方がいいと思うぞ」

おれの言葉に、スマートフォンを操作する手が止まる。

「結局おまえは、最後は山下頼みなのか」

森下がおれに向かって吐き捨てる。

確かに、おれの言葉は、アキラやリョウスケがバックにいることで成り立っている。そのことを否定するつもりはない。

力を貸してくれる仲間がいることも自分の力だとは思うけれど、そんなことは言わない。これは森下の挑発だ。相手の土俵に上がってはいけない。

余計なことは考えない。今優先すべきは、いかにして目の前のやつらを無力化して、ユウのところに行くかだ。

「冬川だけ、まずは寺の外に出ろ」

冬川は動かない。うつむいたまま、こぶしを体の横で握り締めている。

「冬川は行きたくないってよ」

森下の言葉を、班員たちの乾いた笑いが追いかける。

「こいつらと、一緒にいたいのか?」

鹿に無理矢理乗せられて、バカにされて、手足を縛られて、そんなやつらと一緒にいたいはずがない。

しかし、冬川の言葉は、おれの予想を裏切るものだった。

「……放って、おいて欲しい」

原島真蔵SIDE

「松本、行かなくていいのかよ」

僕たちは唐招提寺の南大門の前の食堂にいた。店の名前は門前食堂。ここから門を隔てて目測で100~200メートルくらいのところに村上の姿が確認できる。話している内容はもちろん聞こえないけれど、やり合ってるんだろうなというのは、なんとなくわかる。

店内に僕たち以外の客はいない。

「だいじょぶだいじょぶ。ジュンヤちゃんならなんとかするって。それに拝観料もったいないしね」

「本当に大丈夫か? さっきから動きないぞ」

村上も呉道の班のやつらも、一歩も動いていない。

「いやぁ~、ジュンヤちゃんが何やるか楽しみだなぁ」

「面白がってる場合じゃないだろ。村上が勝ちそうな雰囲気全然ないし。おまえら出てけば、すぐに終わることなんじゃないのか?」

松本は、チッチッチッと指を振る。

「違うんだよ。シンちゃんはジュンヤちゃんのことをわかってないなぁ。おれが出てっても、その場は収まるかもだけど。また次があるかもでしょ? 現にこうして昨日とおんなじようなのが起こってるわけだし。武力の行使で憎しみの連鎖を断つことはできないのよ」

「村上は、ケンカしにいったんじゃないのか?」

中学時代、山下と村上はコンビを組んで、毎日のようにケンカをしていたという印象がある。松本が木刀を渡していたし、呉道たちを全員倒すのかと想像していたのだが、松本は武力の行使はないと言う。

「ジュンヤちゃんは、ケンカ好きじゃないからねぇ」

「はぁ?」

あんだけ中学時代暴れといて、ケンカ好きじゃないとかありえないだろ。

「ガタイいいし、眼つきちょっと怖いから勘違いしてる人もいっぱいいるけど、おれより遥かに平和主義者だよ、ジュンヤちゃんは」

「いやでも、実際ケンカしてるだろ。おれも見たことあるし」

「んとね。中学時代のジュンヤちゃんはずっとアキラちゃんを止めようとしてたのね。あぁでも、たまに本気でキレてたこともあったね。そういう時のジュンヤちゃんは、正直おれでも怖いって思ったよ」

そう言って、松本は笑う。

松本はこういうことで嘘をつくようなやつではない。話を聞いて、村上の印象が180度と言っていいほど変わった。

「じゃあ、村上がいなかったら、もっと被害が大きかったってことか?」

「そうなるね」

勘違いをしているのは僕だけじゃないはずだ。学年の大半の生徒、それから教師も、村上のことを勘違いしている。

昨日、冬川のことを助けようとしていたことも、今の話を聞けば納得できる。

「村上はこれからどうするんだ?」

あの山下明の暴走をほとんどひとりで抑えてきた村上。どうやってこの状況を打開するのだろう。暴力による強行突破ではなく。

「わかんないね」

「わかんないって、おまえ」

「だって、ジュンヤちゃん、いっつも予想外のことすんだもん。予想外だからおれには真似できない」

真似できないと言いながら、松本はすごく楽しそうに笑っている。

村上&奥山VS呉道たち。人数も呉道たちの方が多いし、冬川も向こうにいる。どう考えても劣勢なこの状況で、松本は笑っている。そんなに余裕で見ていられるほど、村上はすごいやつなのだろうか。

僕は今まで正面から正攻法に戦ってきた。悪いことをしているやつには注意する。昨日の松本みたいな解決の仕方はしたことがない。

その松本に自分には真似できないと言わしめる村上のトラブルシューティングを、間近で見てみたいと思った。でも、僕が寺の中に入れば、別の状況になってしまう。松本が言うように、それでは昨日の繰り返しにしかならないような気がする。

僕は門の向こうに見える村上の後ろ姿を、ただ眺めていた。


次回:1月23日6時更新予定

第23話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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