青い暴走3
ユウからのメールを確認したジュンヤは、アキラと対策を立てる。一方、呉道に遭遇したシンゾウ、リョウスケたちは唐招提寺前のそば屋で昼食をとることに。ボリューム増でお届け!

「アキラ、ちょっと」
アキラを堂内の隅に手招きして呼ぶ。
「なんだ?」
おれはユウからのメールを見せる。
アキラは一読して言う。
「奥山が呉道に呼び出されたのか、あるいは、奥山が自分でケリをつけに行ったのか」
おれは当然呉道に呼び出されたんだと思っていたけれど、ユウが自分から行った可能性もあるのか。
「いやでも、状況から考えるに、呉道に呼び出されたんだろうな」
「状況っていうのは、昨日、おれとユウがからまれたことか?」
「それもあるけど、外にずっとあいつらいるだろ?」
本堂の外に目を向けると、何もない池の脇でフラフラしている班がいる。
「法隆寺に入ってから、ずっとあいつらおれらの後ろにいるんだよ」
「つけられたのか」
「おそらくな」
つけさせたのは、まず間違いなく呉道だろう。こんなことをするのはあいつしかいない。
ユウを追いたい。でも、ユウはきっとおれたちに迷惑をかけたくなくて、何も言わずにひとりで呉道のところに行ったんだ。だとしたら、おれがここでユウを追いかけてしまったら、ユウがひとりで行った意味がなくなってしまう。
そんなおれの逡巡を打ち砕いたのは、北川だった。
「行ってください」
おれとアキラの視線を北川は正面から受け止める。狭い堂内だ。おれとアキラの会話が聞こえたのだろう。
「だってよ。ジュンヤ」
心なしか、アキラはうれしそうだ。
「わかった。ありがとな、北川」
「はい」
「後のことはおれに任せろ。おまえは先に外に出て奥山を追え」
アキラが任せろと言うのであれば、それは絶対に大丈夫という意味だ。
「それとな、ジュンヤ。もし、おまえと奥山に何かあったら、おまえが何と言おうと、おれは呉道を潰すからな」
アキラが本気で呉道を潰そうとすれば、呉道の周囲の何十人かも巻き込まれる可能性がある。ほとんど内戦状態になりかねない。おそらく呉道に指示されておれらの後をつけてるやつらは、そんなことになるなんて想像もしていないに違いない。だからこそ呉道の言うことを聞いてしまえる。
想像力が足りないと言ってしまえばそれまでだし、責任がないかと言われればそれも違うと思うけれど、アキラは本気になるとやり過ぎてしまうことがある。中学時代に、そういう抗争に巻き込まれる生徒を見てきて、そのたびにおれはアキラを止めていた。
「わかった。アキラ、ありがとう」
でも今は、そういうアキラの言葉が心強い。高校生になると同時に、めんどくさいと言って表舞台から引退したアキラが、もしもの時は動いてくれる。
おれはアキラと北川にむかってうなずいて、本堂の外に飛び出した。
唐招提寺を後にした僕たちは、唐招提寺と薬師寺の間にあるそば屋に入っていた。
時刻は11時半前。昼ごはんには少し早いけれど、これから法隆寺に移動することを考えると、ここで食べておくのも間違いではないだろう。
テーブル席とカウンター席合わせて20席ほどの店。電気ストーブひとつで温められてしまうくらいの広さだ。
僕たちは4人掛けのテーブルをふたつ使っている。
「ところで松本、どうして呉道が来ることわかったんだ?」
「んとね。シンちゃん怒んない?」
「こととしだいによっちゃ怒る」
「じゃあ言わない」
幼稚園児みたいにそっぽを向く松本に、僕はため息をつく。
「わかったよ。怒んないから、教えてくれ」
「ホントに?」
「ホントだよ」
「ホントにホント?」
「しつこいな。ホントだよ」
「んとね。昨日、冬川ちゃんうちの部屋に来たじゃん?」
「うん」
「その時にね。ちょっと発信機つけといとの」
てへっと、舌を出す松本。
「おまっ。発信機ってどっからそんなもん」
「紳士のたしなみ?」
「どこの国の紳士だよ」
まぁでも、松本があっさりと冬川を呉道のところに返したのにも納得できた。呉道が何かやったとしても、すぐに居場所を突き止められるように保険を打っておいたわけか。
「ってことは、呉道はずっと唐招提寺にいたのか?」
「どういうこと?」
「だっておまえ、ホテルの前で唐招提寺かなって言ってただろ?」
「あぁ、あの時は、移動スピードから考えて、バスに乗ってるなって思って。法隆寺から唐招提寺の方に向かうバスね。あの時間だと、たぶん法隆寺に10分くらいしかいなかった感じだし、なんかくさいなって思って。薬師寺の可能性も考えたけど、何かするなら、薬師寺より唐招提寺の方がやりやすいかなって」
確かに、薬師寺だと見晴らしがよすぎるし、邪魔が入る可能性が高い。
「ってことは、呉道たちはなんかしてくるってことか?」
「かもねー」
「かもねって、おまえ」
「とりあえず、頼むおそば決めよ」
そう言って、松本はテーブルの上のメニュー表を手に取った。
ユウを追いかけようと思ったものの、冷静になってみると、ユウがどこに行ったのか皆目見当がつかなかった。
ユウに送ったメールも当然返ってこない。
加えて、ひとりでフラフラしているところを教師に見つかれば、めんどうなことになりかねない。自由行動ではなく班別行動なのだ。ひとりで歩くのは当然NG。おれが見つかれば、何かしらのペナルティがあるだろうし、ユウが別行動していることも自動的にわかってしまう。おれは周囲に気を配って歩いていた。
ユウも、ひとりで歩いてたんだよな? それとも呉道の班と合流したのか? いやでも、男8人の班にユウがひとりでいるのは目立つだろうし、うちのクラスの生徒も法隆寺に大勢いる。安藤もまだ近くにいるはずだ。そんな中を歩いていれば、誰かに見られるだろう。
見つからないようにひとりで歩く。これはかなり難しいはずだ。
だとしたら、おれがユウの立場ならどうする?
ユウがいなくなったのは、中宮寺に入る前だったはずだ。夢殿から中宮寺の間で、北川にトイレに行くと言って姿を消した。そこから法隆寺の方に戻るのは危ない。北には法輪寺があって、そっちに行く班も多いだろう。北もないとなれば、残るは南だ。
おれは東院伽藍の前の通りを南に下る。一つ目の角を左に曲がって隠れる。
おれたちの後に東院伽藍に来る生徒がいたら、姿を見られてしまうおそれがある。
だとすれば、そのまま南にまっすぐ進むのも危ない。
曲がった角をそのまままっすぐ歩く。
答えはすぐに見つかった。
バス停だ。ユウはバスに乗ったんだ。バスの時間をあらかじめ調べておいて、ギリギリのタイミングで離脱したんだ。
バスの時刻表を見てみる。
……1時間に1本。ユウが乗ったであろう前のバスは10分ほど前に出てしまっている。
春日大社方面行きと法隆寺駅方面行きの両方を確認する。時間からして、春日大社方面と考えて間違いないだろう。
問題は、ユウはどこで降りるのかということだ。
ここで1時間待っていては手遅れだ。先回りしなくてはならない。
考えろ。
呉道がユウを呼びだした。どうやって? 何かネタがあったはずだ。冬川は? いや、昨日、リョウスケが引き取ったはずだ。じゃあ、なんだ? また誰か別のやつか?
とりあえず、冬川の様子を確認してみよう。
3回のコールで相手が出る。
「ジュンヤちゃん? なんかあった?」
店内には、琴のBGMが流れている。
テーブルの上のスマートフォンが震える。松本のものだ。
松本は液晶を確認して出る。
「ジュンヤちゃん? なんかあった?」
相手は村上か。予想通り、呉道が仕掛けてきたのだろうか。
「うん。うん」
松本は村上の話にうなずいてる。
「冬川ちゃんなら、クレミーに返しちゃったよ」
村上の怒声が聞こえる。
松本はスマートフォンを少し耳から離す。
「でもね、ユウちゃんは唐招提寺に行くんだと思うよ。えっとね、今、法隆寺にいるんだよね? そしたら、JRの法隆寺駅に行って、そっから電車に乗って郡山駅に行って、そっから走って近鉄郡山駅で、そっから電車に乗って西ノ京。ジュンヤちゃんが頑張れば30分くらいで来れるよ」
頭の中に地図を思い描いて計算してみる。法隆寺から法隆寺駅まで1.5キロ。無茶苦茶頑張って走って5分ってところか。法隆寺駅から郡山駅まで、電車の待ち時間込みで15~20分。郡山駅から近鉄郡山駅まで約1キロ。これは一度も通ったことない道だろうから走ったとしても5分はかかるだろう。近鉄郡山駅から西ノ京駅まで待ち時間込みで10~15分。……30分は厳しくないか?
「うん。おれたちはもうこっちいるから。じゃあ、また後でね」
通話を終了して、松本は班員全員に向かって言う。
「ヒーローとヒロインはあと30分で着くみたいだから。まぁ、それまではゆっくりおそばでも食べてよっか」
「今度は何やんだ?」
「また冬川争奪戦か?」
「それとも戦争?」
「戦争反対!」
「いじめに負けるな!」
「いざ進めやキッチン♪」
最後のやつ大丈夫か? 病気じゃないか?
「今度はね。ジュンヤちゃんに任せちゃおっかなって思うんだ。ジュンヤちゃんなら、なんとかできるかなって」
店員がそばを運んでくる。松本はそれまでの話などなかったかのように、割り箸を割っている。他の班員たちも同様に。
こいつらにとっては、これが日常なのだろうか。間違いなくトラブルに巻き込まれているように思うんだが。
「シンちゃんも早く食べないとのびちゃうよ」
僕は気張っているのかもしれないけれど、こいつらは気張らなさ過ぎだと思う。
でも僕は、昨日の松本と他のメンバーの働きを知っている。
松本は村上に任せると言ったけれど、僕はこいつらの動きを生で見たいと、心の隅では思っていた。
次回:1月21日6時更新予定
青い暴走3
2015年01月01日![]()
青い暴走
高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。