【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第14話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.13

呉道に人質を取られ、交渉条件を突きつけられたジュンヤは……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


呉道のシナリオに乗るとすれば、おれの前には3つの選択肢があることになる。

1・冬川のことを見て見ぬふりする。

2・おれが呉道に土下座する。

3・ユウと呉道がよりを戻す。

まず言えるのは、3だけは絶対ありえないということだ。2も嫌だけれど、3はその比じゃない。おれの土下座ひとつでユウが救われるのなら、おれはいくらだって土下座してやる。

もしおれに非があるのであれば認めようとは思うが、今回の件でおれに非はないはずだ。おれが土下座をする理由はない。しかも相手が呉道というのであれば、土下座など絶対にしたくない。土下座するくらいなら、黙って殴られる方がマシだ。

じゃあ、冬川を見捨てるかと言われれば、それもない。簡単に見捨てられないおれの性格を知って、呉道は揺さぶりかけてきているのだ。

天秤にかけるべきは、冬川とおれの土下座。だとすれば、冬川の方が重い。別に冬川と親しいわけではないけれど、おれが土下座をしなかったために、他のやつが殴られたりするのは嫌だ。

だから、もし3つの選択肢から選ばなければならないとするならば、おれは土下座することを選ぶ。

呉道に対して土下座をするのは気に食わないが、それ以上に、その何倍も嫌なのは、ユウの前で土下座をすることだ。おれが嫌というのもあるし、ユウは絶対に罪悪感を覚えるだろう。ユウはユウで、おれが土下座をするくらいなら、と思ってるかもしれない。

ただ、現状であれば、まだ呉道のシナリオに乗る必要はない。逆転のチャンスはある。

今おれがすべきは、時間を稼ぐことだ。

「ユウがおまえとよりを戻すことは絶対にありえねぇよ」

「じゃあ、土下座か?」

「おれがおまえに土下座しなきゃいけないことがあるのか?」

「おれを池に突き落としただろ?」

今日、東大寺の池での1件で、教師が話を聞きに来た時、呉道はおれに突き落とされたと証言した。鹿にびっくりして呉道が自分から落ちたとリョウスケが言って、その場は保留となったが、教師はリョウスケの話を信じた様子ではなかった。

「悪いが、おれは今日、おまえの体に一度も触ってない」

「そこは触った触ってないの水掛け論にしかならないから、おれも一歩引いておこう」

事実を勝手に捏造し、自分が譲歩したように見せて、相手に負い目を与える。呉道の常套手段だ。おれにはまったく効果はない。

「じゃあ、おれがおまえに土下座する理由はないってことになるな」

「いや、もうひとつ大きな理由がある」

「なんだよ」

「おまえはおれの女を取った」

歯を食いしばって耐える。

おれの女だ?

「ユウは誰かのものじゃねぇよ。おまえのものだったことはないし、おれが自分のものにしたわけでもない。ユウはずっとユウなんだよ」

呉道は意外とでもいうような顔をしている。

「おまえが、そんなこと言うとはな」

おれは今なんて言ったんだ? 呉道の言葉にキレて、熱くなって、思っていることを思っているままに言ったから、自分が言ったセリフを思い出せない。

「ごめんジュンヤ」

ユウがつぶやく。

えっ、おれ、なんかやばいこと口走ってたのか。

ユウが怒るようなことを考えていた記憶はないけれど、内心、焦る。

おれの焦りはユウの言葉によってかき消される。

「さっきのカッコいいセリフ録り損ねた」

ユウは手を上げる。握られているのはスマートフォン。

「あんたが人質を取って脅した証拠は録音したから」

ユウが何かやろうとしているのはわかっていた。おれの後ろに隠れてユウが仕込みをしている間、おれは呉道の気をそらしていたのだ。その後、ユウの準備が整うまで、おれはボロを出さないように粘る作戦を取った。

作戦は成功したようだ。

さすがはユウ。

「どうする呉道?」

呉道はおれとユウを睨みつけていたが、しばらくすると表情を緩めた。

「どうもしねぇよ。おまえらもっと頭使えよな」

「どういうことだ?」

「状況は変わってねぇってことだよ。なるほど、おまえらはおれが何かした証拠を持っているかもしれない。だからといって、おれを止めることにそれが直接繋がるかといえば、それはまた別の話だろうが」

まさか。

おれの表情を見て、呉道は口角を吊り上げる。

「ようやくわかったみたいだな。おれの弱みを握ったところで、冬川は救われねぇんだよ。いや、むしろおまえらのせいでさらに悪化したかもな。冬川はこの先卒業まで、まともな学校生活は送れねぇかもな」

そう言って、呉道は高々と笑う。

今回の証拠を教師に提出したところで、どんなに重くても停学だろう。退学にはならない。呉道はいつか戻ってくるのだ。そして、これまでと同じように、自分はしっぽを出さないように注意して、悪事を働き続ける。特に冬川に対するいじめは、さらに厳しいものになるだろう。

「呉道……」

おれは呉道を睨みつける。

「その態度は気にいらねぇな、村上。せっかくおれが親切で選択肢を用意してやったっていうのに、そういう態度を取るなら、条件を変えよう。冬川を解放して欲しかったら、まずさっきの録音データを消すこと、その上でおれに土下座すること、そして奥山はおれとよりを戻せ。そうしたら冬川を解放してやるよ」

落ち着けおれ。こういう時こそ冷静に考えるんだ。必ず打開の策はある。

「あれっ? みんな何してんの?」

後ろから声がした。

声だけで誰かわかる。

タイミング良すぎるぜ、まったく。

ユウの視線を感じて横目で見ると、ユウはスマートフォンを持った手を上げて振る。

そういうことか。

やっぱりユウはすげぇや。

2段構えの作戦。

録音&外部へのSOS。

メールした相手は安藤か。

そして、ここに来たのは、もちろんリョウスケ。 

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原島真蔵SIDE

松本は僕の肩を叩くと、何も言わずに3人のところへ歩いていった。

僕は動かない。

僕が動いたところで何も変わらない。だとすれば、万一の場合に備えて、呉道から見えないところで待機しておくのが正解だろう。松本の出方を見る。

「クレミー、あんまおいたしちゃダメよ」

松本はいつもの軽い調子で言う。

「おまえが出てくるとこじゃないだろ」

呉道は嫌そうな顔をする。

松本の行動は読みづらい。予想外の行動をする松本は、シナリオを考えて揺さぶりをかけるタイプの呉道にとって、天敵ともいえる存在かもしれない。

「別におれが出てこなくても、そのうちアキラちゃんが来ると思うけどね。アキラちゃん来る前に解決しちゃった方がいいでしょ。でないと……」

松本はタメを作る。

「……戦争になっちゃうかもよ」

表情は見えないが、声から松本が笑っているのがわかった。

松本の言葉は冗談ではない。山下が来たら、本当に学年を巻き込んだ戦争になりかねない。山下と村上に対して、呉道は手下を引き連れて数で勝負するだろう。そうなったら山下のファンたちが黙っていない。

最終的には何十人対何十人。友達がやられているのを見たやつが友達を守るために加わっていけば、へたしたら百人以上の規模になる可能性もある。

大規模な戦闘をするわけではないだろう。日常的に行われる際限のない削り合い。山下派が多いクラスは呉道派が削られ、呉道派が多いクラスは山下派が削られる。終わりが見えない地獄。

「それとね、冬川ちゃんの身柄はもう確保したから」

「なんだと!」

「明日から冬川ちゃんはおれの班だから、そこんとこよろしく」

「そんなの認めるわけないだろ!」

「おれは冬川ちゃんだけもらえればいいんだけど、ユウちゃんが録った証拠提出した方がいいかな?」

「松本、てめぇ」

「アキラちゃん来る前に早く帰った方がいいと思うよ~」

そう言って、松本が手を振ると、呉道は舌打ちをして去っていった。

去っていく呉道の背中を見ながら、絶対このままじゃ終わらないだろうなと思う。明日は呉道の班に何かされるかもしれない。

誰かが走る足音が聞こえてくる。

おれの横を風が通り抜ける。

山下だ。

「ジュンヤ、大丈夫か?」

「あぁ、リョウスケのおかげでな」

「でしょ? 褒めて褒めて」

「松本くん、本当にありがとう」

「ユウちゃんはハニーの親友だかんね。ピンチになったら当然駆けつけるよ~」

「リョウスケ、サンキューな」

どうやら、僕の出番はなかったようだ。無事解決されたのであれば問題ないだろう。

あいつらがいなくなったら、コーヒー牛乳だけ買って帰ろう。

「ジュンヤ、飲み物だけ買っていいか?」

「あぁ」

山下は休憩室の中に入って行く。

少しして休憩室から出てきた山下の手にはコーヒー牛乳。

まさか、いや、それはさすがにないよな。

誰もいなくなった休憩室に足を踏み入れる。

自動販売機の前に行くと、まさかの悪い予感が的中していた。

コーヒー牛乳のボタンが赤く光っている。

売り切れの文字。

……そんなアホな。


次回:1月15日6時更新予定

第15話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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