【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第13話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.12

呉道に人質を取られたジュンヤは……。呉道と対峙するジュンヤを発見したシンゾウは状況を把握し……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

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「別に帰ってもいいんだぜ。おれは止めない」

おれが無視して帰れないことをわかった上での言葉だ。

正直、冬川のことは名前を知っているだけの存在だ。話したこともない。でも、自分の選択によって、誰かが傷つけられるのは嫌だった。それに、おれが東大寺で呉道を注意しなければ、冬川はこんな扱いを受けなかったはずだ。もう無関係とは言えない。

おれの班のメンバーではなく、冬川を人質に取った理由は、大きく分けて3つだろう。

ひとつは手っ取り早かったから。他の部屋に入って人質を取るより、同じ部屋のやつを人質に取る方が遥かに楽だ。

もうひとつは、冬川であれば、教師にリークする心配がないからだ。冬川が教師にリークする恐れがあるなら、東大寺であんなに堂々といじめみたいなことはできないはずだ。

最後のひとつは、冬川を人質に取るだけで、おれを脅すのには充分だと考えたからだ。そして、その読みは当たっている。

「何が狙いだ?」

「まぁそう話を急ぐな。もう少し状況を楽しむ余裕を持たないとな」

呉道は口の端に笑みを浮かべている。おれが精神的に追い詰められているのを、心から楽しんでいる様子だ。

背中に、トン、と重みが加わる。

ユウだ。ユウが頭をおれの背中に預けている。

「おいおい、奥山まで腑抜けちまったのかよ。そんなにやわじゃなかっただろうが」

呉道を睨みつける。

シャツが引っ張られ、背中にもうひとつ感触が加わる。

おれはユウの意図を理解した。

「おまえ……いい加減にしろよ」

呉道を睨みつけて言う。

「……ようやく昔の目に戻ったか。そうじゃないとつまらんからな」

「おれとアキラ敵に回して、ただで済むとは思ってないよな?」

「今のおまえらに昔の力はねぇよ」

それは、残念ながら事実だ。おれとアキラは高1になってから、まともにケンカしていない。間違いなく勘は鈍っている。

くわえて、今はおれもアキラも帰宅部だ。中学時代、アキラは中学運動部会の会長をしていて、そのせいで多くのトラブルに巻き込まれたが、いざという時に、運動部員の力を借りることができた。中学の頃と比べて、色々な意味で戦力的には弱くなっているだろう。

「おまえひとりなら、おれだけで充分だ」

そう言って、こぶしを握り締める。

「まさかここでやるつもりじゃねぇよな? さすがにごまかしきれないぜ?」

今はまわりに人がいないといっても、ホテル内の休憩室だ。いつ人が来てもおかしくない。ここでケンカしていれば、間違いなくホテルの人間と教師を呼ばれるだろう。

「教師が来て困るのはおまえの方じゃないのか?」

教師が、手足を縛られた冬川にたどり着いたら、危なくなるのは呉道だ。

「さっきからたとえばの話だって言ってるだろ? もしかしたら、そういうことがあるかもしれないってだけだ」

あくまでシラを切るつもりか。呉道は、中学3年間、シラを切り続けて生き残ってきた男だ。実行は他のやつにやらせて、自分は高みの見物。教師に呼び出されてもシラを切って、逆に教師を脅すこともあったと聞いている。

おれの背中からユウが離れる。

「中1の頃から変わってないのね」

おれの横に進み出たユウが言う。

「何言ってんだ?」

「私が別れようって言った次の日から、クラスメイトが私を避けるようになった。偶然だとでも言うの?」

初めて聞く話だった。もちろん偶然ではないのだろう。中1の時にユウが孤立した原因は、呉道と別れたからなのか。呉道が裏で手を回して、ユウを孤立させた。

おれに何も言わなかったのは、呉道と付き合ってたことを言いたくなかったからなのか、いや、違う。それもあるのかもしれないけれど、呉道みたいなやつに嵌められてしまったことを言いたくなかったんだ。そして、そのことをおれに言ったとしたら、おれは呉道を許さないだろうと思ったから。おれに呉道と関わって欲しくなかったから。

「偶然だろ。あの時のおまえの愛想のなさといったらなかったからな。みんな話したくなかったんだろ」

学校祭の時にユウがおれに話したことも事実ではあったのだろう。一生懸命さが空回りして、まわりと壁を作ってしまった。でも、壁を決定的なものにしたのは、目の前の呉道だ。呉道ならやりかねない。呉道が何もしなければ、ユウはまわりとぶつかり合いながら、ちゃんとやっていけたかもしれない。その機会を潰したのは呉道だ。

「呉道、おれたちはもうおまえに関わろうとは思わない。正直、ユウにしたことは許せないけど」

おれは隣に立つユウを見る。

ユウは一瞬おれに視線を合わして、うなずく。

「冬川を解放するなら、その件に関して、おれは何も言わない」

「骨抜かれちまったなぁ、村上。おまえ、なんか勘違いしてねぇか? 今、強いカードを持ってんのは、おまえじゃねぇ、おれだ」

「……どうしたら、冬川を解放してくれるんだ?」

「おれは優しいからよ、おまえらに選択肢をやるよ。おまえがおれに土下座するか、奥山がおれとよりを戻すかだ」

© kana – Fotolia

原島真蔵SIDE

僕はまだ状況を把握しきれていなかった。

何やら言い争っているらしいことはわかった。呉道は奥山とよりを戻すとか言っている。そこだけ考えれば、あの3人は三角関係で、奥山を取り合っているということになる。だとすれば、僕がでしゃばっても、ややこしくなるだけだろう。

ただ、今までの会話を聞く限り、呉道が村上たちを脅しているようにも思える。

冬川を解放と言っていたが、それはどういうことだ? 冬川と村上たちは何か関係があるのか?

村上、呉道はともに要注意人物だ。しかし、現状を見る限り、村上より呉道の方が黒に思える。さっきの松本と安藤の話によってバイアスがかかっているのかもしれないけれど。

村上の、冬川を解放しろという言葉。呉道の、おまえが土下座するか、奥山がよりを戻すかという言葉。このふたつの言葉から、村上が黒で、呉道が白という答えを導き出すのは難しいように思う。

村上と呉道が相討ちになってくれるのが一番いいと思ってはいたけれど、村上が呉道のいじめを止めようとしているのであれば話は別だ。正確には、いじめを止めようとしているかはわからないけれど、冬川を何らかの形で助けようとしているのは間違いないだろう。

冬川を助けようとして、村上たちは呉道に脅されている。

そういうことであれば、見て見ぬふりはできない。

じゃあ、どうすればいい。

教師を呼んだところで、呉道は適当にごまかしておしまいだろう。その後の冬川へのいじめがエスカレートする可能性もある。村上たちが冬川へのいじめをやめさせようとしているのであれば逆効果になりかねない。

僕が考えるべきは、村上たちをどう助けるかということよりも、冬川へのいじめをどうするかなのだろう。

呉道は、いじめをするなと言ったからといって、やめるようなやつじゃない。冬川に強くなってもらうのが一番なのだけれど、今から冬川のところに行って強くなれと言ったところで、すぐに強くなるわけじゃない。

やはり呉道のようなやつは排除しなければならない。社会のゴミだ。まわりに悪影響しか及ぼさない。

閃く。

呉道を処分せざるをえないような状況を作り出せばいいんだ。幸い、ここは学校ではなく、ホテルだ。公共の場で呉道を現行犯で捕まえれば、学校側も何もしないわけにはいかないだろう。

僕ひとりでなんとかならないこともないけれど、できればひとり協力者が欲しい。

呉道は余裕の笑みを浮かべている。こちらに気づいていないのは幸いだ。

村上と奥山の表情はここからでは確認できない。あのふたりがどれだけ粘ってくれるかにかかっているが、一度ここから離脱して、協力者を連れて来た方がいいか。それとも、僕ひとりで行くべきか。

ホテルの廊下の角に隠れながら考える。


次回:1月14日6時更新予定

第14話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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