【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第8話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.7

ジュンヤたち、リョウスケたち、そして呉道は東大寺前で一堂に会する。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


「あいつら楽しそうだな」

アキラは鹿と追いかけっこをするリョウスケと原島を見て言う。

鹿の群れに追いかけられるリョウスケと原島はむちゃくちゃ目立っている。

おれたちは時間内に無事、東大寺に到着していた。

東大寺の入堂料は学校側が団体券で買ってくれているので、配布されたチケットを見せれば入ることができる。

金がかからないというのは素晴らしい。150円の鹿せんべいとか買っちゃおうかって気持ちになる。ユウと一緒に鹿にあげようかな。

そう考えて、振り向いてユウの方を見る。

ユウは険しい顔をしている。眉間にしわが寄った、出会った頃みたいな厳しい表情。

ユウの視線の先に目をやると、他のクラスの班が鏡池の近くで、鹿にノートを食わせて笑っている。

班の男子がひとり、鹿におそるおそるといった感じで近付いている。鹿の首に手を当て、足をあげる。背中に乗ろうとするものの、鹿に逃げられ、男子はしりもちをつく。その様子を見て、班の他の男子が笑う。そのうちのひとり、薄笑いを浮かべている呉道という男を見て、心底イヤな気分になる。

「マジかよ、冬川!」

森下という呉道の手下みたいなポジションの男子が、大声でしりもちをついた男子、冬川を指差す。

無茶苦茶不快な光景だった。

ユウにあんな表情をさせるなんて。相当不快なことがないとあんな表情しないんだよ、ユウは。

早足で呉道の一団に近付く。

呉道はおれに気がついたのか、薄笑いを浮かべたままこちらを向く。

「よぉ、村上。怖い顔してどうした?」

後ろのやつらもへらへらした笑みを浮かべている。人数は呉道を入れて8人か。

「見てて不快だからやめろ」

「何をだよ」

「それだよ」

呉道が手に持つノートを指差す。

「いつから動物愛護団体に入ったんだ?」

「んなもん入ってねぇよ」

「おまえも甘くなったな」

「なんだよ」

「中学の頃のおまえなら、気に入らなかったら殴りかかってるだろ」

確かに中学の一番荒れてた時期のおれであれば呉道をぶん殴ってるだろう。

「おまえごとき、殴る価値もない」

「こぶしの代わりに口が達者になったのか。奥山に鍛えられたのか?」

「なんだと?」

「奥山と付き合ってるんだろ?」

「ユウは関係ねぇだろうが」

「おまえも女子を呼び捨てするようになったのか。昔は硬派で通ってたのにな」

やばい、久しぶりにキレそうだ。ユウの名前を出されたあたりから、だいぶやばい。

「どうしたジュンヤ。ケンカなら加勢するぞ?」

目だけで横を見るとアキラが立っていた。

呉道の後ろでへらへらしていたやつらの表情がひきつる。アキラなら本当にケンカを始めかねない。ここが東大寺で、まわりに一般人がいようが関係ない。中学時代におれとアキラが起こした事件のことを少しでも聞いたことがあるなら、笑っていられる状況じゃないことはわかるだろう。特にアキラが当時の相手に植え付けた恐怖は、教師にリークする気も起こさせないほどだった。

8人いるといっても呉道以外はろくにケンカをしたことのないやつらだろう。自分たちは安全だと思っているやつら。おれとアキラの敵じゃない。

「サンキュー、アキラ。でも、奈良に来てまでケンカしたくない」

「そうか」

そう言ってアキラはポケットに手をつっこんだ。

「山下まで丸くなっちまったのか。おまえら何があったんだよ。奈良の大仏見て感化されちまったのか?」

不快だ。

どうしようかな、こいつ。やっぱり殴らないとダメか。

「ジュンヤちゃーん。助けてー」

どこかで聞いた声だと思って振り返ると、リョウスケと原島が鹿の群れを連れて走ってくる。

おれとアキラは横に飛び退く。

リョウスケの進行方向には呉道の一団がいる。

「うぁぁぁ」

リョウスケは叫び声を上げながら、斜めによける。

鹿の群れはそのまま呉道の一団に突っ込む。

呉道の後ろは鏡池だ。

直後、大きな水しぶきが上がった。

原島真蔵SIDE

なんで僕まで怒られなきゃいけないんだ。教頭の長々とした説教を思い出してため息をつく。

やはり、山下、村上、呉道は要注意だ。

僕はあの3人が口論していた近くにたまたまいただけだ。それに松本が鹿に追いかけられなきゃ、僕が呉道を注意してそれで終わっていたはずだ。そう考えると松本が悪いのか?

他の生徒が呉道と関わりたがらない気持ちもわかる。注意しに行って、トラブルに巻き込まれて、あげく教師に怒られるんじゃ割に合わない。教師は呉道をちゃんと監督できていなかったことを棚に上げて、注意しようとした生徒を怒るわけだ。教師の質の低さも間違いなく国力減退の一因であると、ここに断ずる。

東大寺もほとんど大仏しか見れなかった。

まぁいい。一度見たことがあったわけだし、過去のことにとらわれていても仕方がない。明日の法隆寺、斑鳩方面を無事に過ごせればいい。

浴場はうちの学校の生徒で溢れかえっていた。学年男子300人を一度に収容できるキャパシティはないから、クラスごとに何時から何時までと時間が決まっているのだが、それにしてもうるさい。

「はらしまー、怒られてへこんでんのか?」

うちの班の安村が話しかけてくる。

「僕は怒られるようなことなど、何もしていない」

「でも怒られてんじゃん」

こいつは道中散々騒いでいたくせに、呉道が池に落ちた時に近くにいなかったからお咎めなしだ。

「僕は松本に追いかけられていただけだ」

「違うよシンちゃん。鹿さんに追いかけられたんだよ」

松本が僕の隣に腰をおろす。

「どうやったら鹿に追いかけられるような状況になるんだよ!」

「奈良に来て、追っかけができちゃったみたいな?」

てへっと舌を出す松本。

「ったく、明日はおとなしくしとけよ」

「それにしても、クレミー寒そうだったよね」

松本は呉道のことをクレミーと呼ぶ。

1月の奈良の池に落ちたのだ。風邪を引いたかもしれない。因果応報。悪いことをすると自分に返ってくる。

「呉道も明日はおとなしくなるかもな」

「大丈夫だよ、斑鳩方面には鹿さんいないから」

確かに斑鳩方面に鹿はほとんどいない。

「奈良に来たことあるのか?」

「それは、ひ、み、つ」

ウインクする松本。

僕はため息をつく。


次回:1月9日6時更新予定

第9話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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