【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第5話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.4

ジュンヤたちはティータイム、リョウスケたちは東大寺を前にUターン。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


なんで奈良に来てまで、と思いながら、おれは1杯550円のホットコーヒーをすする。

こんなに高いコーヒーを飲むのは初めてだった。これでも、メニューの中で一番安い飲み物なのだ。きっとそれなりに上質なコーヒーなのだろうけれど、正直、コーヒーの味がわかるほど肥えた舌を持っていない。

どうしてこうなったかはわからないが、うちの班はティータイムとしゃれこんでいた。

アキラが店頭に飾られた大和茶パフェを見つけた瞬間、こうなることは決まったのだろう。アキラの提案に、甘いもの好きな花上が乗っかってゲームセット。反論できる空気じゃなかった。アキラだけならまだしも、花上とかぶっちゃけあんまり話したことないし。

アキラは豪勢な大和茶パフェを頼んでいる。あんこ、白玉、きなこ、もなか、間に入っている黄緑色のやつは大和茶のアイスだろうか。値段は1000円。高校生にもある経済格差。

ユウ、北川、花上の女子3人はそれぞれ、ジンジャーケーキ(600円)、あずきとカカオのケーキ(600円)、黒糖あんみつ(800円)を頼んでいる。

他の男子は全員飲み物だけ。おれと杉本はホットコーヒー、花村と榎本はかりがね茶(600円)だ。

お座敷に座布団を敷いて座るタイプの店だ。おれたちは4人掛けの机をふたつ繋げて八人で使っている。

おれの向かいは左から榎本、花村、花上、アキラ。こっち側は左から杉本、おれ、ユウ、北川という並びだ。

「山下くん甘いもの好きなんだね」

花上が隣に座るアキラに言う。

「意外か?」

「うん」

やはりアキラが甘いもの好きというイメージはないようだ。

アキラと花上の会話を聞きながら、その隣に座る花村を見る。

こいつもこういう表情するのかと思う。

花村は誰でも分け隔てなく接する好青年だ。腹の底で何を考えてるかは、この際考えないでおく。

今おれの目の前に座る好青年は、非常にわずかながら先ほどより硬い表情をしている。

そりゃ隣にいる自分の恋人が自分と反対の方むいてりゃ不機嫌になるよな。でも、それを認めるのは男として小さいから、わざと反対側に顔をむけている。おれでもわかるレベルのわかりやすさだ。特別おれの観察眼が優れているとは思えないから、他のやつが見てもわかるだろう。

おれもユウが別の男としゃべってたら嫌だしなと考えて、カットイン。

「アキラ、ひと口くれよ」

「断る」

即答。

「ひと口くらいいいじゃねぇかよ」

「おまえにこのパフェの良さがわかるとは思えない」

「何を根拠に」

「チロルチョコのコーヒーヌガーが一番好きだとかいうやつに、このパフェを渡すわけにはいかない」

「えっ!? 村上くん、コーヒーヌガーが好きなの?」

そこに食いつくのか花上。

「こいつは味覚音痴なんだ」

おれが答えるより先にアキラが答える。

たかがチロルチョコで味覚音痴とか言われても。

「そうなんだ。それは、ちょっとね。……悪くないと思うけど」

若干引き気味に言う花上。最後のフォローで余計にえぐられた気がする。

リョウスケも安藤もチロルチョコ好きとか言ってたし、そんなに人気があるのかあの四角いやつは。

視線を感じて隣を見るとユウがこちらを見ていた。

「ジュンヤ、食べる?」

天使がいた。 ……2秒フリーズ。いろいろとヤバイ。大声で叫びながら走り出したくなる衝動に駆られる。 

「うん」

気持ちをいくらか落ちつけて、2文字だけ発する。たった2文字に結構な体力と精神力を使った気がする。

ユウはおれの方にジンジャーケーキが載った皿をずらす。

あーんを期待しなかったと言えば嘘になるけど、ユウの性格と、他のやつもいることを考えるとそれはありえない奇跡だろう。

ひとくちサイズに切って食べる。

白状すると、味とかわからなかった。

ユウの優しさだけで満腹だった。

「ありがとう」

ケーキをユウの前に返す。

それにしても、2時間くらい前に新幹線で弁当を食べたばかりなのによく食べられるな。北川なんかは特に少食だと思っていたのだけれど、甘いものは別腹というのは全女子共通なのだろうか。

さっきまでと違う空気が流れているのに気がつく。

会話がなくなった。

一番話していたのは花上だったから、その花上が話さなくなっただけなのだが。

花上は、自分も花村にケーキをすすめるべきか迷っているのだろうか、フォークを片手にうつむいている。

恥ずかしさもあるかもしれないが、ここで自分たちも便乗したら榎本に悪いと考えているのだろうと推測する。

アキラも雰囲気で気づいているだろうけれど動く気配はない。アキラはやる気が無い時は何もしない。やる気になった時の爆発力はすごいものがあるけれど。

杉本には期待できそうにないし、再びおれの出番か。

そう考えて一石を投じようとしたところ、先を越された。

「あのっ」

北川だ。

「新薬師寺、行きませんか?」

原島真蔵SIDE

近鉄奈良駅から登大路を真っ直ぐ東に歩いて、交差点を1回左に曲がれば東大寺がある。

僕たちの班は交差点を左に曲がったものの東大寺に着くことはなく、Uターンして交差点に戻っていた。

松本と外国人のカップルを先頭に、その後ろには状況を把握しようともせずに木刀で遊ぶ班員たちが続く。松本が春日大社に行くと言ったから行くみたいな適当なノリだった。東大寺が目の前にあることにも気づいてないんじゃないかと心配になる。

間違いなく他の班では考えられないカオスっぷりを監督するのが僕の仕事だ。正直、山下とか村上とか呉道とか言ってる場合じゃなくなってきたかもしれない。敵は身内にいた。

標識によれば、ここから春日大社まで800メートルらしい。ちなみに東大寺までは300メートル。

信号を渡ると、春日大社参道と書かれた石碑が立っている。参道は森の中を貫いて、春日大社まで続いている。多くの観光客でにぎわっていた東大寺前とはうってかわって、ひっそりと静かな参道だ。

はじめのうちは松本と外国人カップルの後ろについていた他の班員であったが、5分ほどすると松本を追い越して、前の方に走っていってしまった。

追うべきかどうか迷っていると、前方から声がかかる。

「シンちゃん、そんなに気張んなくても大丈夫だよ」

笑顔を浮かべた松本の、軽い、でも真面目な口調に、何も言えなくなる。

松本はそれ以上の言葉は続けずに、外国人カップルとの会話を再開する。

確かに、おれは気張っている。それは認める。でも、気張る必要があるから気張っているんだ。

それとも、気張ることは必要ないことなのか? でも、気張らなくてはならない時も人生には必ずあるはずだ。松本も、僕が生徒会長選挙に出る時に気張るなとは言わないだろう。それは勝負時だからだ。

松本が言いたいのは、常に気張り続ける必要はないということだろう。

でも、毎日を勝負時だと考えて全力で生きていれば、その方が多くの成果を残せるんじゃないか? 

勝負時は多くの人が気合を入れる。だから、勝負時に気合を入れても差はつかない。逆に毎日気合を入れて生きているという人はそう多くはないだろう、だとすれば、毎日を全力で生きていればその分差をつけられるんじゃないのか?

ひとつひとつのことは小さいことかもしれない。今日の班別活動を円滑に運営したって何がどうなるわけではないし、生徒会長になって学校を改革したって、それで国がすぐに変わるわけじゃない。そんなの小さなことだ。

自分のやっていることが小さなことだってことは、僕だってわかってる。

でも、現実を認めて、ひとつひとつ小さくても自分にできることからやっていく。今年の元旦にそう誓ったんだ。

空回りしてるかもしれない。まわりから見たら気張っているように見えるかもしれない。

でも、何かしなくちゃいけない。

やるべきこと、これをすれば国が良くなるっていう明確なことがわからないから、何かしようと常に思ってるんだ。

国を変えるというゴールがあるとして、今、この場所からそこに至る道があったとして、その道は、何も考えずに遊びまわることではないはずだ。

国を背負うなんてひとりでできることじゃないし、国を変えることが本当に可能かもわからない。もしかしたら、一生頑張って、死ぬ時に、やっぱり変えられなかったという話になるかもしれない。

そう、だから、最終的には、僕の覚悟の問題なんだ。

誤解されて、もしかしたら無駄かもしれなくて、幸せに生きれないかもしれなくて、それでも国をよくしたいのか?

春日大社への小道を歩きながら、僕はひとり考える。


次回:1月6日6時更新予定

第6話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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