【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第4話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.3

ジュンヤたちは東大寺へは進まず、リョウスケたちはチャンバラごっこにいそしむ……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


近鉄奈良駅周辺の地理を少し整理してみよう。

東大寺、奈良公園、興福寺、春日大社、新薬師寺、志賀直哉旧居、奈良国立博物館、奈良県庁、JR奈良駅、近鉄奈良駅と寺の名前や建物の名前を聞いただけで、奈良の中心部であることがわかる。

おれたちが出発した近鉄奈良駅を中心にして考えるとわかりやすい。

西に向かうと、JR奈良駅とおれたちが泊まるホテルがある。ようするに最終的には西に向かうわけだ。

北に向かうと、奈良女子大、聖武天皇陵がある。おれたちみたいに観光(厳密には校外学習)に来たやつらは、ぶっちゃけかなりの物好きじゃないと北には行かない。

観光するなら9割の人間は東に向かう。

近鉄奈良駅前の緩い坂を登ると、すぐに興福寺がある。興福寺の向かいの通りには奈良県庁。興福寺と奈良県庁に挟まれた登大路を少し歩くと、奈良公園で鹿が出迎えてくれる。奈良公園と奈良国立博物館を横目に見ながら、そのまま東へ行くと交差点がある。そこから北へ向かえば東大寺大仏殿、東へ向かえば春日大社、春日大社から南へ向かえば、新薬師寺と志賀直哉旧居がある。全部、地図で見ただけの知識だけど。

だから、うちの学校の多くの生徒が東へ向かったのは当然のことと言える。

ただし、当然の行動を取って面白いかと言われれば、それはまた別の話だ。

他の班と一緒にひとかたまりになって東大寺に向かうのなんて、はっきり言ってナンセンスだ。せっかくの班別行動なのに、まるで意味がない。

おれたちの班は計画段階から、近鉄奈良駅から南に向かう計画を立てた。

近鉄奈良駅の南には商店街が広がっている。北から南に伸びている通りなのに、なぜか東向通り。

学年みんなで東大寺に行くくらいなら、土産物屋なんかをひやかしながら、商店街をぶらぶらした方が楽しいだろうという発想。

入口の地面には、ひがしむき、とひらがなで書かれた金の文字。

三笠焼というどら焼きみたいなものを売っている店、奈良県名物柿の葉寿司の店が並んでいるのを見て、奈良に来たんだなと思う。

「三笠焼っていうのは、奈良の三笠山に形が似てるから三笠焼っていうんだよ。だから、奈良に来たら三笠焼を食べなきゃだめなんだ」

「帰りに買おう。帰りに」

三笠焼について語り始めたアキラをなだめる。

入口からすぐのところにチェーン店のスーパーがあって、奈良っぽさが薄れる。横浜でも見慣れた100円ショップとファーストフードの看板も見える。

振り向いて、ユウに話しかける。

「見たい感じのとこある?」

おれの言葉に、ユウはゆっくりと歩いていた足を止める。

「まだよくわかんないかな」

「そりゃそうだよな」

「アユミは?」

ユウが北川に聞く。

「私もまだよくわかりません」

「とりあえず歩いてみようか」

「はい」

ユウと北川は、学校祭と体育祭を通じて結構仲良くなったようだ。学校祭前まではふたりで話しているのは見かけなかった。

まぁ、ユウが学校祭前まではまわりに壁作ってたしな。高1が始まってから半年間、ユウがクラスの誰とも喋らなかったと言われても、嘘だとは思えないくらいの孤高っぷりだった。昼休みも屋上で、ひとりで弁当を食っていたくらいだ。しかも立ち入り禁止の屋上のカギをわざわざ作って。

ユウも変わったなと思う。おれの影響もあると少しはうぬぼれていいのだろうか。ユウは学校祭をひとつの契機として、まわりと少しずつ話すようになった。そして、学校祭の間、一番近くにいたのはおれだ。でも、ユウは人に影響を受けるようなタイプには思えないから、自分で考えて、何か思うことがあって変わったのかもしれないとも思う。

おれが一歩踏み出せない理由のひとつは、ユウが学校祭前みたいになってしまうんじゃないかという恐怖だ。というより、それが一番大きな理由かもしれない。たぶん、ユウがその状態になったら、おれが何を言ってもダメだろう。

学校祭の前みたいに周囲に壁を作って話さないような状態になったら、きっとユウは今後、少なくとも高校を卒業するくらいまでは壁の外に出てこないだろう。中1の時に作った壁の中に3年間閉じこもっていたくらいなのだ。

さっきまでは女子3人で並んで歩いていたが、今はユウと北川のふたりだ。

花上は花村と榎本と一緒に歩いている。会話はそんなにはずんでない様子。榎本はさっきから口を開いていない。花上と花村が頑張ってるのが、はた目にもわかる。

あのふたりが話しかけても塞ぎこんでいるのであれば、おれが何かしても効果ないだろうな。

でも、一歩引いて客観的になってみると、花上と花村は付き合っているわけで、失恋したやつがカップルに慰められている構図とも見れる。

それに前は里中も含めて4人で一緒にいることが多くて、そこから里中が転校して3人になったのだ。でも、それはただの3人じゃなくて、カップル+ひとりの3人。

失恋というのはそんなにつらいものなのだろうか? 正直、失恋したことがないからわからない。

中学の頃に付き合っていた女の子はいたけれど、その時は別に本気で好きだったわけじゃなくて、告白されてうれしくて付き合ったという感じだった。だから別れた時も失恋という感じではなかった。

榎本の場合は、誰が見てもわかるくらいの好意を里中に対して向けていたし、公衆の面前でアプローチを繰り返していた。本当に里中のことが好きなんだということが伝わってきた。

榎本が里中に好きだというところを数十回は見た。もしかしたら百回以上。1日1回は好きだとかなんとか言っていたような気がする。そんな相手が転校してしまった同級生の気持ちを想像出来るほど、経験豊富ではなかった。

なんかもう、付き合うとか付き合わないとかそういうことじゃなくて、ライフワークがなくなるというか。もっと生きる目的とか意味に近いような。

勝手な想像なのだけれど。

花上、花村、榎本の3人は土産物屋の前にいる。

土産物屋の向かいの陶器の店をユウと北川は覗いている。

最前線を歩くアキラはわらび餅とかを売っている和菓子屋の中に入っていった。杉本もアキラに続いて入っていく。

……班別行動だよな。班の中でさらに3班できてるんだけど。

アキラがまとめ役を放棄した今、おれがまとめるしかないのか。しかし、無理にまとめるのもな。でも、へたしたらはぐれる可能性もある。

ここはそれとなくスピード調整するか。

最後尾を歩く3人に近付いていく。 

「お土産は早くないか?」

おれの声に花村が反応する。

「そうだね。ここで買おうとは思ってないよ」

「とりあえず見てるって感じか」

「初日からお土産っていうのはね」

そう言って、おれと花村は小さく笑った。

原島真蔵SIDE

「シンちゃん!」

声のした方を向くと、松本が木刀を構えていた。

「じゃ~ん」

「なんだよ、それ」

「700円なのだ」

「値段聞いてんじゃねぇよ!」

松本とふたりで喋った場合、相手の方は無条件でツッコミにならざるをえない。

「木刀かっけぇ~」

「おれも買おう!」

他の班員もボケしかいないため、僕ひとりでは処理しきれていないのが現状だった。松本単体であっても手に余るのに……。

「木刀持ちながら歩いている高校生の集団って危険だろが!」

諦め半分のツッコミ。

「確かに!」

「確かし!」

「というか全員剣士ってのは、パーティ的にバランス悪いだろ」

「じゃあおれ魔法使い」

「じゃあおれ鹿使い」

「じゃあおれ海賊王」

「海賊王はなしだろ」

「せめて海賊にしとけよ」

「ってか、海ねぇし」

「海行くか!」

「さみぃつーの」

「確かに!」

「確かし!」

ため息をつくしかない。

深く吐いた息は白い。

東大寺の門の前の通りには土産物屋が並んでいた。

雪が降ってもおかしくないような寒さなのにソフトクリームを売っている店もある。店先には、松本が買った木刀と同じものが傘立てみたいものに入って売られている。長いものと短いものがあって、松本が買ったのは短い方だ。

同級生と他の観光客と鹿が通りをうめつくしている。比率としては6対3対1で、同級生、他の観光客、鹿という感じだ。

東大寺に近付くにつれ、動物園みたいな臭いがしてくる。たぶん鹿の糞の臭い。地面にはそこかしこに糞のトラップが転がっている。

近くから、叫び声と争うような音が聞こえた。

音がした方向を見ると、白人女性が手に持つ本に鹿が食いついている。鹿の噛む力は想像以上に大きいものなのか、女性が本を引っ張っても離れそうにない。隣にいる連れの白人男性も手を出せずにいる。

僕も含め、まわりにいる人たちは、女性と鹿の格闘をただ見ていたが、ひとりだけ、格闘に割って入ろうとする男がいた。松本だ。

松本が鹿に近づいて鹿せんべいをかざすと、鹿は本を諦めて鹿せんべいに食いついた。残っていた鹿せんべいを遠くの地面に撒くと鹿はそちらに行ってしまう。

うまいな、と感心した。頭のねじが一本外れたようなやつであるが、それでも一目置かれているのは、こういう時のトラブル処理能力の高さがゆえんかもしれない。

松本は白人カップルと話している。どうやらお礼を言われているようだ。

水色の服を着た女性とオレンジの服を着た男性のカップル。おそらく20代の若い2人組。派手な色の服だが、白人が着ると不自然に感じない。

というか、あいつ英語話せるのか? 

松本の口は止まることなく動いている。

ちゃんとコミュニケーションも取れているようだ。

松本は会話を中断してこちらを向く。

「シンちゃん!」

「どうした?」

「春日大社行こう!」

「は?」

チェックポイントの東大寺は目の前である。春日大社はここから15~20分ほど歩かなくてはならない。

「案内して欲しいんだって」

鹿に破られた本が目に入る。おそらく地図か観光ガイド。

ここで断るのも嫌だな。

「他のやつらはどこだ?」

「あれ? さっきまで一緒だったけど」

前方の東大寺方面にはいない、とすれば後ろか。

振り返ると、遠くの方で、木刀でチャンバラをしている一団がある。

間違いなくあいつらだ。

目の前のチェックポイントに無事辿り着けるのか少し不安になりながら、僕はチャンバラを止めに向かう。


次回:1月5日6時更新予定

第5話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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