【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第3話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.2

奈良に到着したジュンヤたちは班別行動を開始する。一方、リョウスケは鹿に夢中で……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


新幹線を京都駅で降り、近鉄線で近鉄奈良駅まで向かう。近鉄奈良駅までは学年全体が一斉に行動する。

うちの学校は1学年500人もいるマンモス校だ。

500人がプラットホームにずらっと並んでいる。一般客から見たら、それはどのような光景なのだろう。

京都で一度降りるのであれば、京都に行く班と奈良に行く班みたいに分ければいいと思うのだが、そうすると教師陣の守備範囲が広くなり過ぎて、何か問題があった時に対処できないということだろうかと推測する。

近鉄奈良駅に着くと、そのまま班別行動になった。

おれの班は男子5人、女子3人の8人班。男子はおれ、アキラ、杉本、花村、榎本、女子はユウ、花上澄香、北川歩美というメンバーだ。

花上は花村の彼女だ。高1の4月に転校してきた。転校というよりは高校から入学と言った方が正しいのかもしれないが、うちの学校は中高一貫の私立校で、高校から入ってくる生徒は10人に満たない。感覚としては、転校してきたという方が近かった。

北川は美術部所属で、おれとユウとは学校祭で同じ班だった仲だ。班員で唯一メガネをかけている。背が小さくておとなしいやつ。

班員の8人は、体育祭のソフトボールでチームを組んだメンバーだ。ここに転校してしまった里中春花を含めた9人で準優勝した。ちなみに優勝はリョウスケのチーム。

1月の奈良は、吐く息が白くなるような寒さだった。主に顔と下半身が寒い。ジーンズの内側を寒気が包む。タイツの装備を検討してもいいレベルだ。

ポケットに手をつっこんで歩く。

おれとアキラが前衛、花村と榎本が後衛、女子3人が前衛と後衛の間に入って、杉本が遊撃というようなポジショニングだ。

ちゃんと後ろがついてきているだろうかと振り返る。

その際に私服姿のユウのところに視線がいってしまうのは仕方がないことだろう。

黒のレザージャケットに、下はタイトなジーンズとロングブーツのユウはファッションモデルのようなオーラを放っていた。

付き合い始めて2ヶ月以上経つというのに、ユウはきれいだと見るたびに思う。美人は3日で飽きると言うが、あれは嘘だ。

おれは奥山優にベタぼれだった。だからこそ、拒絶されることを想像して怖いと思ってしまう。このままではいつまでたってもキスできないとわかっていても、そう簡単には乗り越えられない壁があった。

そもそもおれは女子と話すのが苦手だ。ユウ以外の女子は基本的に全員さんづけで呼ぶ。リョウスケのようにちゃんづけで呼ぶなんてことはできない。あれはリョウスケのキャラだからできることだ。それに軽いのとかチャラいのは好きじゃない。恋愛にうつつをぬかすのは堕落だとまでは言わないが、カッコ悪いことだと思っている。

それにしても、と思う。

班別行動の意味があまりない。

同じ駅でほぼ一斉にスタートして、しかも東大寺というチェックポイントが近くにあるから、ほとんどの班が東大寺を目指すことになる。東大寺までは近鉄奈良駅から徒歩15分ほどだ。自由に動きたい班は、はじめに東大寺に行って、その後色々観て回るのだろう。

まわりを見渡すと、班の境を越えて交流している。なかには30人くらいの集団を形成しているやつらもいる。

隣を歩く親友に目を向ける。

おれの視線に気づいたのか、アキラもおれに視線を合わせる。

「じゃあ、計画通りいくか」

「だな」

原島真蔵SIDE

それにしても、この人数の多さなんとかならないのか。地元のひとたちに迷惑だろ、そして、僕が監督しづらいだろ。

村上と山下の班も、呉道の班も、今はそんなに離れていない場所にいるはずだ。というより、学年500人がほとんど同じ行動をしている。

近鉄奈良駅前の緩やかな登り坂は、同級生たちの姿で埋め尽くされていた。

比喩的な意味ではなく、先が見えない。

奈良に来たという実感が湧かない。

班別行動になっていない。

何班か空気が読めている班は、近鉄奈良駅を出てすぐの興福寺に向かっているが、ほとんどの班がまずは東大寺というコースを取るようだ。

僕は何も考えていないような行動をする人間が嫌いだ。自分が生徒会長になった暁には、そういうやつらをイチから叩き直すと心に決めている。

「シンちゃん! 見て見て! 鹿だよ、鹿!」

松本は鹿と向かい合って、自分の頭の上に指でツノを立てて、鹿っ! とか言いながら遊んでいる。ひとりで叫んで、ひとりで笑っている。楽しそうである。

松本ひとりならばよかったのにと思う。

僕と松本の班は全員男子だ。しかも普段から松本と仲がいいやつらばかりである。当然ノリがいい。

「松本、何やってんだよ。おれも混ぜろよ!」

「じゃあおれ鹿2号!」

「おれ3号!」

「おれ鹿太郎!」

「鹿っ!」

「鹿しかいないぜ!」

「シンちゃんもおいでよ~」

松本の声を聞きながら、僕はあたりを見渡す。

東大寺に向かう400~500人を大集団とするならば、僕の班は最後尾に近いところに位置していた。松本たちが前に進まず、鹿とたわむれているせいだ。

駅から普通に歩けば3分くらいの興福寺の前までしか歩けていない。

興福寺は緑の柵に囲われている。柵の向こうの芝を鹿が歩いている。後ろからのアングルから見る鹿の尻は白い。

少し歩くと、名勝奈良公園と書かれた石碑が見える。

山下、村上の班は前にも後ろにも見える位置にはいない。

呉道の班はすぐ近く前を歩いている。女子の班と合流して20人ほどのグループを形成していた。呉道が冗談でも言ったのであろうか、取り巻きの女子が笑う。

見ていて腹の立つ光景だ。

ああいう女子がいるから、呉道のようなやつが調子に乗るのだ。

「シンちゃん、怖い顔してどうしたの?」

「なんでもない」

「なんでもないなら、はいっ!」

松本はそう言って、僕に鹿せんべいを手渡す。松本の向こうには、鹿せんべい150円と赤い文字で書かれた看板が見える。売り場のまわりを鹿がうろうろしている。

特に拒む理由もないので、鹿せんべいを近くにいた鹿の口の前にかざすと、勢いよく食らいつかれた。とっさに鹿せんべいを手から放す。地面に落ちた鹿せんべいに鹿が3匹群がった。

鹿から数歩身を引いて、視線を上げる。

注意。という看板が目に入る。

《かむ。たたく。突く。突進。》

はじめは鹿をたたかないでくださいということかと思ったが、よく見ると、鹿にたたかれないように注意してくださいということらしい。

《奈良公園のシカの多くは人に慣れていますがあくまで野生動物です。時として人を攻撃することがありますので、特にご高齢の方や小さなお子様連れの方は注意してください。》

がっつりと注意が書かれている割に、興福寺の前の歩道にはあった緑の柵はなくなっている。

鹿が歩道を普通に歩いている。かなりシュールな光景だ。

歩道と車道の間に柵はあるが、鹿が乗り越えられるくらいの高さのものだ。車道にはもちろん車が走っていて、事故とか起こらないか心配になる。

「地下トンネルだ!」

そう言って、松本が駆け出す。

他の班員も松本に続く。

確かに進行方向に地下トンネルがある。

班のメンバーでただひとり歩いて向かう。あいつらと一緒に走るのは恥ずかしい。

地下トンネルでこれだけはしゃいでいるのであれば、東大寺の大仏を見たらどんなリアクションをするだろうか。

他の班員には言っていないが、僕は奈良に来たことがある。東大寺の大仏もその時に観た。小学校高学年の頃だったと思う。

どれほど大きかったかは覚えていないが、とにかく大きかったという記憶はある。他の寺もいくつか回ったが、記憶に残っているのは東大寺の大仏だけだ。それくらいのインパクトがあった。

その記憶も今回の校外学習の不満の要因のひとつになっている。

最初に東大寺の大仏を観に行くという選択は、映画をクライマックスから観るようなものだ。東大寺の大仏を観た後では、他の寺の大仏がしょぼく感じてしまうだろう。

近鉄奈良駅から東大寺が近いというのはわかる。でも、他の寺を色々観た後に東大寺に行った方がより感動することだろう。

松本のことを少し羨ましく思う。

あいつはどんなことでも楽しめるやつだ。僕と同じように一度奈良に来ていたとしても、一度目と変わらないくらい感動して、楽しめるのかもしれない。

でも、僕まで一緒になってはしゃいでしまったら、誰も監督する人間がいなくなってしまう。

それに別に監督していることが嫌なわけじゃない。誰かに頼まれたわけでもない。自分で選んだ道だ。

校外学習だけでなく、これからの学校生活、そして卒業後の人生も自分を常に律して生きていかなくてはならない。

決意を胸に、僕はトンネルに入る。


次回:1月4日6時更新予定

第4話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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