【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第1話【毎朝6時更新】

更新:2017.12.31

「青い暴走」シリーズ第3部「ロマンティックが終わる時」第1話。毎朝6時更新。舞台は奈良校外学習。3人の高校生の視点から語られる群像劇。村上淳也は、いまだに恋人とキスできていなかった。原島真蔵は、円滑な校外学習運営を目指していた。榎本徹は、転校してしまった里中春花のことを引きずっていた。それぞれの思いが、古都奈良で交錯する!

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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プロローグ~榎本徹の述懐~

しんどい。正直しんどい。つらい。こういう言葉しか出てこない。

寝る前、起きた直後、ひとりで電車に乗っている時なんかが特につらい。

つらすぎる。覚悟はしていたけれど、想像以上だった。

今になって振り返って、というか冷静に考えればすぐにわかることだった。

ひとりでいる時はほとんど常にハルカのことを考えていて、ハルカが視界のうちにいる時はハルカーって感じで、この1年のほとんどはハルカだったといっても過言ではない。

テレビではカウントダウンが始まった。

なんでみんなあんなに楽しそうなんだろう?

5,4,3,2,1.

あけましておめでとー。

……みんな元気だなぁ。

別に幸せそうでむかつくとかは思わないし、みんな幸せだったらいいなと思うけれど。

ただ、これから1年やっていける気がしない。何をしたらいいのかわからない。

ハルカと会わなくなって1ヶ月。連絡すら取っていない。ハルカはSNSなんてやらないし、メールとかはするとしたらパソコンで、でもパソコンのアドレスとか持ってないみたいだったし、作ってまでメールする相手がいるとは思えないし、じゃあ文通? ありえないだろ。俺はかなり積極的にしたいけど、ハルカにとって俺がそこまでして連絡を取るべき人間ではなかったという話で、というか、たぶんそこまでして連絡を取るべき相手なんて、ハルカにはいないわけで。

俺はあの時、ハルカと最後に一緒に帰った日に、結構色々考えているつもりで、その時はよかったけど、今になってみると、なんでパソコンのアドレス作ってとかそういうこと言わなかったんだよと思う。1日1通とかでもよかったじゃないかと思う。俺はハルカがいなくなった後のことを全然リアルに想像できていなかった。

ハルカに幸せになって欲しいとかそういうことを考えていて、それは別に問題ないと思うけど、そっちばっかり考えていて、ハルカがいなくなった後、自分がどうなるかってことをよく考えていなかった。考えていたつもりだったけれど足りなかった。想像以上に俺は弱かった。

今でもハルカのことが好きだなと思うし、会えないことがしんどいとも思うけど、忘れたくはないとも思う。その部分はハルカと最後に会った日から変わっていなくて、忘れるくらいならしんどい方がいいと思うけど、それにしてもしんど過ぎる。これからどうなるのかまるでわからない。先が見えない。

ハルカ以外の人を好きになる自分も想像できないし、何年後かにハルカと再会するとかいうのも想像できない。再会したとしても、何を話せばよいのだろう。会っていない間のこととか話すのかもしれないが、このままだと、ハルカと会えなくてしんどかったくらいしか話せることがない。このまま時が止まってしまいそうな気がする。

学校に行って、バイトをして、高校を卒業して、大学に行って、就職して、そうやって生きていくのだろう。でも、そんな人生に何の意味がある? ハルカがいない人生に。

恋愛が全てだとは思わない。そんなことは絶対にない。

でも、ハルカは俺にとってほとんど全てだった。恋愛とかそういうことを越えて、全てだった。意味であり、理由であり、動機だった。

学校がある間はまだよかった。ごまかせていた。ヒロタカたちと話して、ハルカに会いてぇー、とかそんなこと言って、笑って、でも冬休みになってひとりの時間が増えた瞬間に、潰れた。

たぶん今の状況をヒロタカに話せば、話を聞いてくれたり、アドバイスをくれたりすると思う。ヒロタカはそういうやつだし、俺とヒロタカの関係はそういう関係だ。

でも、今の俺の状況を本当の意味で救えるのは、ハルカだけだと思う。

甘えだと思うけれど、それが事実だ。本当は自分自身でなんとかしなくてはならないのだろうけれど、今の俺にはなんとかしようという気がまったくない。

たぶんみんなこう言うだろう。時間が解決してくれると。

仮にそうだったとしても、解決してくれるまで耐えられる気がしない。というか、仮にとかじゃなくて、解決してくれる気がしない。

ハルカに出会う前の俺はこんなんじゃなかった。恋愛とかそんなに考えたことがなかったし、誰かと付き合ったこともなかった。

別に恋愛はしなくても生きていけると思う。でも、ハルカがいないとダメなんだ。ただ生きているだけになってしまう。

ハルカという存在は俺にとって完璧で、たとえば、これから誰かと付き合ったとしてもハルカと比較してしまうと思うし、それは相手にすごく失礼なことだと思うし、ハルカに匹敵する人がいるとは思えない。これから俺はひとりで生きていくんだろうなと思う。

これからの人生で楽しいことなどあるのだろうか? それを考えると、楽しくない人生なら死んだ方がいいんじゃないかとか思う。でも、ハルカのためにも死ぬわけにはいかない。失恋で自殺とかカッコ悪すぎるし、ハルカが離れた直後に俺が死んだら、俺に近しい人たちはハルカが原因だと思うだろうし、事実、それが一番大きな理由だし、ハルカ自身もそう考えるだろう。

じゃあ、死なないとしたら、これからどうやって、何を考えて生きていけばいいのだろう?

© Paylessimages – Fotolia

村上淳也SIDE

「おまえ、まだキスしてないのかよ」

親友であるはずの男の心ない言葉に、おれは無言をもってこたえた。

隣を歩く山下明のニヤけた顔を見て、言うんじゃなかったと早くも後悔する。学校ではクールぶってるくせに、こういう時だけ本当に楽しそうに笑いやがる。どうやってセットしてるのかわからない完璧に整った髪型。ファー付きのハーフコートをはおった背筋は姿勢よく伸びている。

「まぁ、ジュンヤちゃんらしいといえばらしいけどね」

おれのフォローに回ったのは松本涼介。こっちも楽しそうに笑ってる。でも、リョウスケが楽しそうなのはいつものこと。どっかの誰かみたいに、おれをからかう時だけじゃない。長い髪にパーマをかけていて、身長はそんなに高くない割にロングコートを着こなしている。 

おれとアキラとリョウスケは中1の時に同じクラスになった。中高一貫の私立校だから、それからずっと同じ学校に通っている。もうすぐで付き合いも丸4年になる高1の冬。

「おれだって、する予定だったんだよ」

そうなのだ。本当は、今頃ファーストキスを済ませているはずだったのだ。

ちょっとありきたりだけれど、クリスマスにファーストキスをする予定だった。10月から付き合い始めて2ヶ月、それでも遅いとアキラは言うだろうけど、個人的には悪くないタイミングだと思っていた。

クリスマスにデートして、プレゼントを渡して、自然な感じでと考えていたのだけれど、気がついたら駅で手を振っていた。階段をのぼっていく奥山優の姿が見えなくなって、結局できなかったとため息をついた。

チャラいと思われるのは嫌だった。ユウのことを本気で好きだから、遊びだと思われるのも嫌だった。3回目のデートでキスをするとかいう法則を聞いたことはあるけれど、3回目だからキスをするという感じがして、それも嫌だった。

キスをするのが自然という雰囲気の中で、ちゃんと確かなファーストキスをしたかったのだ。

というか、みんなどうやってキスとかしてんだよと思う。キスしようとか言ってするのか? それって不自然じゃないか?

アキラとかはたぶんすごく自然な感じでキス出来るんだろうなと思う。どうやったらできるかなんて死んでも聞かないけれど。

「むこうは絶対待ってるって」

アキラが追い討ちをかけてくる。

「それはそうかもねー」

リョウスケも今度はアキラに追随する。

「わかってるんだけどさ」

男らしくない。オクテ。そんな言葉が頭をよぎる。

「ってか、それはマジで何やってんだよって感じだよ」

言葉がグサグサと刺さる。

「ユウちゃんもさ。私、魅力ないのかなとか思っちゃうじゃん」

「そんなわけないだろ!」

リョウスケの言葉に激しく突っ込む。

「だからぁ、事実がどうとかじゃなくて、ちゃんとやることやって、言うこと言わないと伝わんないよって話」

リョウスケの言っていることくらいわかってる。

伝え方がわからないというか、うまく伝えられないのだ。

日常会話で好きだよとか言うのは不自然だと思う。ってか、告白以外のどのタイミングで、好きだよとか言うんだよ。

キスしたくないわけじゃない。というか、ぶっちゃけしたい。でも、うまく言えないけれど、他の男子のしたいとはたぶん違くて、どうしてもしなきゃいけないわけじゃなくて。普通に、今まで通り、映画観て、ご飯食べて、ぶらぶら歩いているだけで十分楽しい。

キスすることでぎくしゃくした感じになって、今までの楽しさを壊してしまうことの方が怖かった。

ユウと別れたくないし、嫌われたくない。

キスしないことで嫌われることもあるかもしれないけど、ユウはそういうタイプじゃないと思うし、強引な方が嫌いなような気がする。

だから、自然なキスを目指した。

結果がこれだ。

「ってか、5人で会うのも久しぶりだよねー」

神社では、ユウと安藤葵が待っている。安藤はリョウスケの彼女。5人でカウントダウンをする約束をしているのだ。

「休日にわざわざ集まるのは学校祭の打ち上げ以来かもな」

おれたち5人は学校祭でミュージカルを自主企画した。安藤ともユウとも、その時に初めて話した。ユウとはクラスの企画も同じ班で、ベタな話だけれど、学校祭がきっかけで付き合うことになったのだ。

「学校祭の打ち上げ……あぁ、ジュンヤが告白した時か」

アキラがわざとらしく言う。

「あれから、もう2カ月経ったのかぁ」

リョウスケがしみじみと言う。

「それでいまだにキスしてないんだもんな」

アキラがオチをつける。流れるような連携プレー。

なんかキスしないといつまでも言われ続ける気がする。でも、言われたくないからキスするっていうのも嫌だ。言われ続けるのも嫌なんだけど。

「その件についてはあとでじっくり話すとして、早くしないと間に合わないよ」

リョウスケがスマートフォンを見ながら言う。

時間を確認すると、11時50分。あと10分で今年も終わってしまう。

15分前に駅で集合したのだが、話しながら歩いていたらいつの間にかギリギリの時間になってしまっていた。

「リョウスケ、安藤さんに余計なこと言うなよ」

足を速めながら言う。

「余計なことって?」

「だから……キスがどうとか」

「だいじょぶだいじょぶ。たぶん、ハニーもユウちゃんから聞いてると思うから」

「全然大丈夫じゃねー」

叫びながらダッシュ。

おれがスピードを上げると、アキラとリョウスケもスピードを上げ並ぶ。

年越し間際に全力で坂を駆け上がる高校生3人。これを青春と言うのだろうか?

「あっ、みっけた!」

リョウスケが坂の上を指さして叫ぶ。

声が聞こえたのか、坂の上の着物を着たふたりが振り返る。

「ダーリン、おそーい!」

水色の着物を着た安藤がリョウスケに向かって、わざとらしくしかめツラを作る。水色を基調とした着物には、白、赤、ピンクの花が散りばめられ、波の上で色鮮やかに舞っている。かわいらしいデザインで、安藤の雰囲気にマッチしていると思った。

「ごめん、ハニー」

今年最後のバカップルのやり取りを聞きながら、おれは自分の恋人の着物姿に目を奪われていた。

ユウは長い髪をアップにしてまとめ、花の髪飾りをしていた。着物は赤を基調としていて、膝からくるぶしにかけて斜めに入った線の下は紺になっている。とりわけ多く咲き乱れている白い花は桜だろうか? 他にも赤と黒の花が咲き乱れている。いつも以上に大人っぽいユウを見て、おれは言葉を失った。

「ハニーもユウちゃんも似合ってるね~」

「ダーリン、それは村上くんの言うセリフでしょ」

「あっ、ごめんジュンヤちゃん」

バカップルの言葉も遠くに聞こえる。 

似合ってるとかいうレベルじゃない。

ホントに自分の彼女なのか自信が持てなくなるレベルだ。2ヶ月以上夢を見てたんじゃないかって気持ちになる。

ダッシュしたせいで息が少し上がっていたけれど、それ以上に、胸に何かつかえてる感じがして、言葉が出てこない。

「おつかれさま」

大好きなユウの声。ほんの少し幼さの残るアルト。

ユウはおれが息を切らせていると思ったのだろうか。気遣いの言葉をかけてくれる。

カッコわるいな。

何か言わなくちゃ。

「ユウ、遅れてごめん。あと、むっちゃ似合ってる」

言葉にした後、頬が熱くなるのを感じる。

「ありがと」

ユウが微笑むのを見て、暖かい気持ちになる。

自分も自然と笑顔になるのがわかる。

「おれだけひとりかよ」

アキラが柄にもなく愚痴を言う。

「アキラちゃんは自業自得でしょ」

アキラは先月、何人目になるかわからない彼女と別れた。それ以来、めんどくさいからと言って、彼女を作ろうとはしていない。

アキラがその気になればすぐに彼女を作れるだろうことは、おれもリョウスケもわかっている。イケメン、運動神経抜群、おまけにどんなに暑くても汗をかかないと三拍子揃った無敵のモテ男、それが山下明だ。

「もうすぐだね」

安藤がスマートフォンを見ながら言う。

あたりを見回すと、多くの人が携帯やスマートフォンを見ている。

「今年はありがとうございました」

リョウスケが頭を下げる。

それにならって他の4人も頭を下げる。

「んでもって来年もよろしく!」

「はえぇよ。来年なってから今年もよろしくだろ普通」

おれのツッコミに笑うリョウスケ。

安藤は片手を上げて、大声でカウントダウンを始める。

原島真蔵SIDE

来年が勝負だ。

臥薪嘗胆。その言葉を胸に今年1年は雌伏して時を待っていた。

男、原島真蔵、16歳の大晦日であった。

僕の一挙手一投足が日本を変える。

1年の計は元旦にあり。

誰よりも早く必勝祈願をしなくてはならない。ポジション取りは万全だ。

5秒前から動けば、誰よりも早く鐘を鳴らせる。

あの鐘を鳴らすのはあなたじゃない。僕だ。

日本の全国民のためにも、誰よりも早く鐘を鳴らさなくては。

この国はこのままではダメになってしまう。国力を上げる。経済を活性化させる。世界で通用する人材を育成する。僕には成し遂げなければならないことが山ほどある。だが、今の僕にはその力がない。もっと勉強して、経験を積まなくてはならないと思っている。

高校時代にできることと考えた時に、生徒会長の文字が頭をよぎった。現在、高校の生徒会は機能しているとは言えない。ただのお飾りだ。自分が生徒会長になった暁には、生徒会を機能させてみせる。そう心の中で思いながら、1年間生徒会会計を務めてきた。

日本を変えるために、まずは自分の高校を変える。高校のひとつくらい変えられないやつが国を変えられるはずはない。来年1年全力で生徒会長をやって、うちの高校を理想の高校にする。生徒会長をやるには、もちろん選挙で勝たなくてはならない。

そのための必勝祈願に、寒さに耐え、神社に出向いたのだ。

高校の近くの神社とあって、うちの高校の生徒も何人か見える。

神社は多くの人でにぎわっていた。おそらく100人近くいるのではないだろうか。年越し間近特有の、高揚した空気が流れている。

その中でも一際目立っている集団があった。同じ学年の男女5人。山下明、村上淳也、松本涼介、奥山優、安藤葵。

今年の学校祭の騒動の首謀者たちだ。特に山下と村上のふたりは、来年の健全な学校運営の障害となるだろう。やつらが何かやらかそうとしても防いでやる。絶対にやつらの好きにさせてなるものか。

自分でも気がつかないうちに握り締めていたこぶしを緩める。

いけない。年越し前に嫌な気持ちになってしまった。新年はまっさらな気持ちで迎えなくては。

山下たちの方を見ると、頭を下げあっている。

松本が顔を上げて、よろしく! と言っている。

ん? えっ、もう年越したのか!?  

あいつらのことを考えていたら年越しの瞬間を逃したらしい。

神社の賽銭箱の前を見ると、まだ誰も賽銭していないようだ。今ならまだ間に合う。誰よりも早く必勝祈願をしなくては!

賽銭箱に向かって走る。

「5!」

後方から女の子の声が聞こえた。

!? なぜカウントダウンが? 手に持っていたスマートフォンを見ると、11時59分の文字。

えっ?

次の瞬間、手元に意識を集中させていた僕は、神社の石畳につまずいてこけてしまう。

顔面から派手に石畳にダイブ。

僕が石畳の冷たさと痛みによる熱さと羞恥心を感じるなか、まわりの人たちはカウントダウンを始める。


次回:1月2日6時更新予定

第2話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

この記事が含まれる特集

  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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