【連載小説】「CROSS ROAD」第7話【毎週土曜更新】

更新:2017.12.16

体育祭ソフトボールもついに決勝。果たして結果は?そして体育祭を終えたトオルは、ハルカをクリスマスデートに誘う。ハルカの返事は意外なもので……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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連載第1回はこちら


決勝戦。なんか、相手チームにリョウスケがいるあたり、ドラマの予感がするよね。

松本涼介は俺とヒロタカの友人で、山下と村上の友人でもある。無駄に濃いキャラの無駄に社交的なやつだ。

「ジュンヤちゃん、アキラちゃん、ヒロちゃん、トオルちゃん、ナオちゃん、優ちゃん、アユミちゃん、澄香ちゃん、ハルカちゃん。よろしく~。ってか、みんな友達じゃん。すげぇ偶然」

いや、おまえ以外にこの全員と友達とかいうやついねぇよ。ってか、相変わらずすげぇな。色々と。全員、ちゃん付けで呼んでるし。

「よろしく」

こちらのキャプテン山下はあくまでクール。でも、顔が笑っている。楽しそうだ。

いい試合になる気がした。

ジャンケンの結果、うちのチームが先攻になった。

相手チームのピッチャーは女子。リョウスケはショートを守っている。

投球練習。

……さっきの試合の野球部キャプテンより速い。

うちの学校にソフトボール部はない。でも、間違いなく経験者だ。

そういえばさ、野球とソフトボールって投げ方も違けりゃボールも違うじゃん。野球部だからってソフトボールが上手いという話にはならない。特にピッチャーは。でも、そう考えると、山下はすごいという話になる。相手の、おそらくソフトボール経験者の女子ピッチャーと遜色ないボールを投げている。

1番、山下。

1球目。真ん中低め。山下は見送る。ストライク。 さすがの山下もこのピッチャーは警戒しているようだ。 

2球目。真ん中低め。 山下はバットを振る。ボールはレフトとセンターの間を……抜けたー。 山下は一塁を蹴って二塁へ。レフトがボールを拾った時にはすでに二塁についていた。 

ベンチが湧く。 見ると、2試合目よりも多くの生徒が応援に来てくれていた。そっか、決勝だから、自分の種目で決勝まで残っていない生徒はみんな暇になるんだ。 

ってか、やっぱり山下すげぇよ。決める時にちゃんと決めるっていうか。

2番の村上は、2球目の内角低めの球を、体を開いて打った。ボールはサードとショートの間に転がる。

いい当たりだ。鋭い打球。 ショートのリョウスケがダイビングする。 グローブがボールを弾き、ボールは上手い具合に三塁へ。 

村上は出塁。しかし、山下は二塁から動けない。

ノーアウト一塁二塁で、バッターは杉本。

杉本は1球目から打ちにいく。 ボールはセンターに飛ぶ。フライ、だけど正面じゃない。 

センターの女子は落ち着いて、わざとボールをワンバウンドさせてボールの勢いが弱くなったところをキャッチ。そうだよね。そりゃワンバウンドキャッチでアウトになるなら、そうするよね。

次のバッター、俺。

悪いけど、打てる気がしねぇ。

「ハルカ、打ったらデートしてくれる?」

ダメモトで聞いてみる。

「ホームラン打ったらね」

……えっ?

「マジで?」

「私が嘘ついたことある?」

「ない」

「じゃあ、打ってきなよ」

やべぇ。打つしかねぇ。マジ本気出す。

バッターボックスに入る。

絶対ホームラン打つ。

1球目。ストライク。

……これは無理だわ。速すぎる。

どうすっかな~。ダメモトでバット振っとくか? まぁ、それも俺らしいちゃ俺らしいけど。

よし、決めた。ごめん、ハルカ。

2球目。真ん中。よし。俺はバットを前に出す。バント。

ボールがバットに当たり、ピッチャーとサードの間に転がる。

ダッシュ。走るしかねぇ。

間に合うか? ヘッドスライディング。

「アウト」

審判の声が耳に突き刺さる。

……カッコわりぃ。マジどうしよ。どうしようもねぇ。

ジャージの土を払い、ベンチに戻る。

ハルカになんて言おう。マジ情けねぇ。バントした上にアウトとか。マジ、チキン&ルーザー。

「はい」

目の前にグローブが出される。

ハルカだ。

「ドンマイ」

「ごめん」

「守りで取り返しなよ」

そう言って、俺にグローブを渡し、センターに走っていく。

……マジであれハルカなのかよ。いや、いいんだよ。嬉しいし。グローブ持ってきてくれた上にドンマイって……もしや、フラグか!? いや、ねぇな。でも、なんなんだろ。裏を勘ぐりたくなってしまう。 

© karagrubis – Fotolia

1回裏。

1番の女子と2番の男子がそれぞれ出塁して、ノーアウト、一塁二塁。ピンチ。

3番、センターを守っていた守備のうまい女子。ってか、リョウスケも運動神経いいはずなんだけどな。なんでまだ出てこないんだ? あのソフト女子も出てこないし、よくわからんチームだ。

1球目、抜いた球、内角寄り。 バッターが引っ張ってサード正面に鋭い打球が飛ぶ。 

ヒロタカは落ち着いてキャッチ。三塁ベースを踏む。二塁走者アウト。

一塁へ送球。間に合うか。

審判の手が挙がる。アウト。

……すげー。ダブルプレーだ。

うちのクラスのベンチが湧く。 この試合だけ見に来た女子の何人かがカッコイーとか口々に言ってる。

「ナイスプレー」

ベンチに戻りながら、ヒロタカの肩を叩く。

ベンチに戻ったヒロタカは応援団に無駄にチヤホヤされている。無駄に黄色い声援。ホント無駄に大きい。無駄というかずるくね? さっきの試合の俺のダイビングキャッチの時、こんなにギャラリーいなかったんだけど。もういいし。ハルカに褒めてもらうし。

「ハルカ、俺に声援がないんだけど」

「あんた、この回何もしてないでしょ」

「サードのカバーとかしたし」

「はいはい。ナイスカバー」

「うわぁー。すげー流された。もういいし。ぐれるし」

「勝手にぐれてれば?」

なんだこの冷たさ。決勝戦で、同点で、いい試合のはずなのに。ここは一緒に頑張ろう的なシーンだろ? なんなんだ、この冷たさは。

2回表。バッターはヒロタカ。

……三振。

……うん、ヒロタカ、おまえは頑張ったよ。そりゃさ、あの球は打てないよ。それにさ、前の回に俺がバントしたせいで内野が気持ち前に来てて、そりゃダメモトでバット振るしかないよな。

6番、奥山。

あの女子ピッチャーは女子に軽く投げるタイプなのだろうか?

1球目。さきほどとは比べるまでもないほど遅い球。でも、それは奥山には楽すぎる。

奥山のバットはボールを完璧にとらえ、ボールはサードとショートの間を抜ける。

ベンチが湧く。 澄香ちゃんなんか跳びはねている。

「ナイスバッティング!」

俺は叫ぶ。

ワンアウト一塁。

7番、ハルカ。 

「ハルカー!」

名前だけ叫ぶ。よくわかんないけど、テンション上がってきたぜ。

「ハールカー!」

俺の声は届いているのだろうか? ベンチの後ろからの声援にかき消されているんじゃないだろうか? よし、もう1回。

「ハールカー!!」

「うるさい」

ハルカが振り返って言う。それほど声を張っているわけではないのに、声援の間を縫って、ベンチに突き刺さった。

俺は黙る。

ベンチも黙る。

グラウンドが静まり返る。

……すげー。

「トオル、おまえのせいだぞ」

隣に立つヒロタカが言う。

澄香ちゃんも頷いている。マジで? 俺のせいなの?

1球目。ピッチャーはまたしても緩い球。

ハルカも初球打ち。一二塁間を抜く。

ハルカー、と叫びたいのをこらえる。我慢、我慢。

ベンチの他のメンバーも盛り上がっていいのか微妙な雰囲気が漂っている。

「ナイスバッティング!」

そんな緊張を破ったのは、リョウスケ。相手チームのショートをしている男がなぜかハルカをたたえている。KYな発言だな。空気を読まないも、緊張を破るも、KYだなとどうでもいいことを考えた。

ってか、ずるくね? 俺だって、俺だって、ナイスバッティングとか言いたいし。

「リョウスケ、ずるいぞ!」

俺が叫ぶと、リョウスケは人差し指を目の下に持っていき、あっかんべーをする。

「澄香ちゃん、カモーン」

リョウスケはバッターの澄香ちゃんに自分のところに打つように要求する。

「ヒロタカ、このままじゃリョウスケに負けるぞ」

「いや、負けるとかないし」

「花上、かっとばせー」

ヒロタカの向こうから山下が声を上げる。顔がニヤついている。あぁ、なるほどね。

「澄香ちゃん、ガンバレー」

「はっなうえ! はっなうえ!」

村上も山下と俺に便乗して、節をつけてコールを始める。

花上コールにベンチの後ろのクラスメイトも乗っかる。

ワンアウト一塁二塁。同点。

盛り上がってきたぜ。約1名乗り切れてないやつがいるけど。

「おまえが盛り上がんねぇでどうすんだよ」

俺が言うと、ヒロタカは顔を上げる。

「花上! 打てー」

花上コールに若干かき消された感があるけれど、ヒロタカにしては頑張った方だろう。

1球目。真ん中に柔らかい球。澄香ちゃんは見送る。

ボールがホームベース上を通過するあたりで花上コールが静まり、審判の、ストライクの声がグラウンドに響く。

「花上! 花上!」

ヒロタカが手拍子とともに花上コールを再開させる。

もちろんベンチ一丸となって花上コール。

「花上! 花上!」

無駄な大合唱。こういう雰囲気大好きだ。

2球目。さっきと同じくらい緩い球が真ん中に来た。

澄香ちゃんはバットを振る。バットがボールをとらえる。いい当たりだ。ライナー。ボールはレフトとセンターの間に飛ぶ。

ヒットか見えた当たりだったが、ショートのやつが飛んだ。上に、高く、ジャンピングキャッチ。

グローブはしっかりとボールをつかんでいる。ショートのリョウスケは着地し、グローブをかかげる。

アウト。審判の声が響く。

相手側のベンチが湧く。 ショートのリョウスケはガッツポーズをしている。 

「リョウスケ、空気読めー」

俺は叫ぶ。

リョウスケは再びあっかんべー。

「澄香ちゃんごめんね~」

リョウスケは澄香ちゃんに聞こえるくらいの大きな声で言う。

澄香ちゃんは笑っている。

なんかいい雰囲気だ。今までの試合で一番楽しい。

同点の場合は後攻のチームが勝つルールだ。2回裏、相手の攻撃。おそらく時間は残り10分ほど。勝ちは遠い状況だけれど、勝ち負けとか正直どうでもよくなってきていた。だって、勝ってつまんないより、負けても楽しい方がいいじゃん。

「しまっていくぞ」

山下がマウンドから声を上げる。

「おー」

他のメンバーの声がユニゾンする。ハルカの声も聞こえる。おー、とか言うんだ。新たな一面。体育祭マジいい。ハルカ×体育祭=プライスレス。

4四番バッターの女子がセカンドゴロになってワンアウト、ランナー無し。もしかしたらいけるかもしれない。

しかし、次のバッターは経験者の女子。こいつは絶対に打つ。

山下はどうするのだろう? 女子だけど、明らか経験者だぞ。それでも女子だから抜いた球でいくのか? 

1球目。山下は緩い球を投げる。まずい、絶対打たれる。

バッターは見送る。

ストライク。審判の声が響く。

なぜだ?

バッターは山下に向かって、手のひらを上に向け二度指先を返す。カモン。本気出せってことか。

山下もそれを見て笑う。 こいつら、アツイ。

2球目、今度はガチな球。 バットが空を切る。 

バッターは構え直し、一瞬ニヤリと笑い、真剣な表情になる。

3球目、真ん中低め速球。 ジャストミート。ボールは俺の遥か頭上を越えていく。 

ハルカと奥山がボールを追う。

バッターは一塁を蹴って二塁へ。

ハルカがボールに追いつく。

バッターは二塁を蹴る。

ハルカがサードのヒロタカに向けて送球。

スライディング。

ヒロタカはボールを捕り、バッターの足にタッチ。クロスプレー。

どっちだ? アウトか? セーフか?

審判の手が横に開かれる。セーフ。

相手側のベンチが湧く。

まずい。ワンアウト三塁。

そして、バッターはリョウスケ。ホントいいところに出てくるやつだ。

リョウスケは手を振ってベンチの声援に応えている。

それでも、バッターボックスに入ると、今までのヘラヘラした表情から一転、真剣な表情になる。

1球目。山下の最後の力を振り絞るような投球。心なしか今までより力が入っているように見えた。真ん中高め。リョウスケはバットを振る。ストライク。

「はぇ~」

リョウスケが奇声を上げている。

2球目。外角低め。

リョウスケはボールをそのままライトに流す。

ボールはライトに高く上がる。ライトは北川だ。リョウスケの上げたフライは北川のポジションの少し後ろまで飛ぶように見えた。 

北川は後ろに下がる。よし、いい感じだ。

北川は足を止めるかに見えたが、下がり続ける。

ちょっと待て、それは下がりすぎだって。

「前! 前!」

俺は叫ぶ。 

ボールは北川の手前に落ちる。

バウンドしたボールは、大きな弧を描き、ゆっくりと北川のグローブにおさまった。

アウト。審判の声が響く。

あっ! そういえば、女子のワンバウンドキャッチはアウトだった。

ベンチが湧く。

それ以上にメンバーが湧く。澄香ちゃんなんかは北川に抱きついている。

キャッチャーの杉本を見ると、見たこともないような優しい表情をしていた。こいつ、不良とかじゃねぇじゃん。俺は確信する。

「アユミちゃん、ひどーい」

リョウスケは悲しそうな声を出しているが、表情は無茶苦茶楽しそうだ。

チェンジだ。3回の表だ。バッターは北川。おしっ、この感じで奇跡を起こすんだ。

「北川! 北川!」

自然とベンチからコールが起こる。

北川はバットを握り締めバッターボックスへ向かう。

「打てー、北川。打てば、後は山下がなんとかするぞ!」

俺は勝手なことを叫ぶ。

ピルルルルルル。

……静まり返る。試合終了のサイレンだ。

メンバーがゆっくりとホームベースの横に並ぶ。

「0対0で同点。後攻の2組の勝ち。礼」

「ちょっと待ったー。同点だから両方優勝でしょが~」

みんなが礼をしようとしているなか、無茶を言って審判を困らせるリョウスケ。

面白いやつだなぁとひとしきり傍観した後、収拾がつかなくなる前に、俺と村上が止めに入った。山下は俺たちが止めに入るのをニヤニヤしながら眺めていた。

リョウスケの抗議もむなしく、ソフトボールはうちのクラスが準優勝という結果になった。でも、たぶんみんな楽しんだと思う。メンバーの表情を見ればわかった。

体育祭が終わっても1週間ほどは浮かれていた。決勝の試合とか、ダイビングキャッチとか、ハルカとか、ハルカとか、ハルカとか。思い出すと笑いが止まらなかった。

しかし、そう笑ってばかりいられない。俺にはやらなければならないことがあった。

体育祭が終わり、一見すると年内の行事はコンプリートしたかに思えるだろう。本当に終わったと思うようなやつは、正直残念なやつだ。

11月は確かに何もないかもしれない。しかし、そこで完全燃焼した気になるのはまだ早い。むしろここからがメインイベントだ。

カレンダーをひとつめくってみよう。12月。そう、クリスマスだ。11月も半分を過ぎた。そろそろクリスマスの予定を立てておくべきだろう。

重要になってくるのが、いかに断られないようにハルカを誘うかだ。 体育祭の時はなんかいい感じだったんだけど。次の週に学校に行った時には、あの優しさはどこへ? みたいな状態になっていたハルカ。難攻不落と思われたハルカだが、今ならいける気がする。根拠のない自信が俺にはあった。 

なんかいっそさ。ディズニーのペアチケットとか取って、ハルカが行かないなら、このチケット捨てるから、とか言えばいんじゃね? いや、そんなんじゃ断られるな。ハルカだし。

とりあえず直球でいっとくか。

演劇部の練習がない放課後。ヒロタカと澄香ちゃんは一緒に下校するらしい。

「ハルカ、一緒に帰ろ」

俺が言うと、いつもは断るハルカが、なぜか頷いた。

マジで? 

これは、これは、いけるかもしれない!

カバンを肩から提げ、教室を出る。

廊下を並んで歩く。そういえば、放課後こうやって2人で並んで歩くとかなかったな。いざやってみるとあれだね。ヤバイね。

体育祭の話、演劇部の近況なんかの話を振り、いい感じに雰囲気を作る。

昇降口を出て、校門を通り、駅までの坂を四分の一ほど下ったところで、一瞬の間ができた。

今がチャンスだ!

「ハルカ、クリスマス一緒に遊ぼう」

俺が言うと、ハルカはうつむく。

さっきまでとは完全に違う空気になった。

なんだろう? 断られるとかじゃないような気がする。ってか、断るだけならいつもみたいに断ればいいだけの話だし。

1分か2分、あるいはもっと長い時間、黙って並んで歩いた。

駅に着くまでは待とうと思う。もしかしたら迷っているのかもしれないし。だったら、せかすのはよくないし、せかした結果断られたら一生後悔する。

「ごめん、クリスマスは無理なんだ」

ハルカは、はっきりとした口調で言う。

これはもしや? と俺は思う。

「えっと、もしかして、誰かと付き合ってるとか?」

ハルカは首を横に振る。

だよね。誰かと付き合ってたら、俺が知らないはずないし、俺が彼氏だったら、俺みたいなやつぶっ飛ばしてるし。

「無理っていうのは、何か理由があるってこと?」

理由がおそらくあるのだろう。じゃなきゃ、ハルカがこんなに長い間黙るはずがない。理由、それも結構大事な理由が。

「……私、今月いっぱいで転校しなきゃいけないから」


次回:12月23日土曜更新予定

第8話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走2

2014年11月07日
大場諒介
KDP

この記事が含まれる特集

  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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