【連載小説】「CROSS ROAD」第6話【毎週土曜更新】

更新:2017.12.9

「山下、村上、正々堂々やろうぜ」。体育祭ソフトボール第2試合。相手チームの野球部キャプテンと山下、村上は何やら因縁があるようで……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
LINE

連載第1回はこちら


1回表の俺たちの攻撃は1点しか取れなかった。さすがはピッチャーがキャプテンなだけはある。山下はイラついている感じで、村上は気持ちうつむいている。

相手の攻撃、1番バッターは知らない女子。

山下の抜いたボールをきれいにセンターにはじき返す。

ノーアウト一塁。

2番目のバッターも女子。

一二塁間を抜くライト前ヒット。

ノーアウトでランナーが2人出た。これはまずい。同点であれば後攻の勝ちになってしまう。

3番のバッターも女子。あ~、なるほどね。これは完全にやられたわ。山下封じってわけね。

ここはね、なんか色々大切なものがかかってくる場面だ。試合の勝ちを取るか、男としての矜持を取るか。女子には軽く投げろなんてルールはないから別に本気で投げてもいいわけで。ようは、スポーツマンシップとか、暗黙の了解とか、そういうレベルの話だ。

山下は、前の2人と変わらず遅めの球を投げる。

いいねぇ~。山下、思ったよりいいやつじゃん。

打球を想定して構える。バッターは、まさかのバント。サードのヒロタカの前にきれいに転がる。

俺は空いた三塁のカバーに入る。ヒロタカはボールを拾うも、三塁には間に合わず、一塁に送球。

ワンアウト二三塁。

バッターは野球部キャプテン。

なんかね。頭いい作戦なんだろうけど、腹立つな。こいつとは友達になれないかもしれない。まぁでも、現役野球部は逆打ちだから、山下が本気で投げればなんとかなるか。

1球目、1試合目でみせた速球を投げる。真ん中低め、いいコースだ。

キャプテンは普通に当てた。というか、いい当たりだ。ボールは三塁線を割る。ファール。

こいつ、ホントに逆打ちなのか? ヒット性のかなりいい当たりだぞ。

少しの間考え、俺はひとつの結論に辿りつく。こいつ、両打ちかもしれない。まずくね?

ってか、このキャプテンのこと嫌いになってきたわ。うちのチームの強さも反則すれすれの強さだけどさ。山下が女子に軽く投げるの見越して、ランナーを塁にためて、自分のバットで点を取るってさ。ルール違反じゃないし、スポーツマンシップに反してるとかじゃないような気もするけど、俺は好きになれない。何が正々堂々やろうぜ、だよ。

おっしゃ! 絶対にここは抜かせん。

2球目。さっきと同じコース。キャプテンはバットを振りぬく。

ボールは三遊間へ。

ダッシュ。ダイビング。グローブを伸ばす。ボールを見てはいなかったが、グローブに入る感触がある。

立ち上がり、一塁に送球。

審判の手が挙がる。

アウト。

えっ、マジで……よっしゃー。勝ったぜ。

もちろん、試合は終了していないが、なんか色々勝った気がした。

「ハルカ、今の見た?」

センターの方を振り返り、ハルカに聞く。

「…ナイスキャッチ」

……えっ? 今、ナイスキャッチって言った? 俺にだよね? 体育祭マジック? 今日、ハルカやけに素直じゃね? 素直? 素直って言うのかこれは? なんつーんだろ。嬉しいけど不自然っていうか。ダイビングキャッチひとつで惚れるようなタイプじゃないしな。とりあえず、今は喜んどくか。

「サンキュー。ハルカのために飛んだぜ」

ハルカにむかってピースサイン。

「そういうのいらないから」

おっ、いつものハルカだ。

2回表、うちの攻撃だ。

バッターは6番奥山。

奥山は1試合目でも打っていたし、練習試合の時も打っていた。結構期待できる。期待していいと思う。

1球目。ストライク。

……速い。女子相手にも容赦なしなのか?

2球目。1球目と同じくらいの速度のボール。

奥山はバットを振る。ボールをバットに当てるもファール。でもすげぇ。当てるだけすげぇ。

打ってくれ、奥山。なんか、こんなやつに三振取られるのとか腹立つ。

3球目。加減する気はさらさらないようだ。ボールかストライクかギリギリのところに先ほどと同じくらいの速球。

当たった。ボールはサード前に転がる。

奥山は一塁まで全力で走る。間に合うか。

サードはボールを捕り、一塁へ送球。

アウト。

……なんか腹立つ。なんていうか、正義は勝つんじゃねぇのかよ。勝手に相手の野球部キャプテンを悪役にしてるだけなんだけど。女子相手に本気とか、正義の味方はそんなことしねぇだろ。いや、べつに正義の味方である必要はないけどさ。とりあえず腹が立つ。

「ハルカ、頼むぜ」

俺が言うと、ハルカは頷く。きっと俺と同じような気持ちなのだろう。気のせいとかじゃなくて、きっとそうなんだろうと思う。

1球目、やはり速球。

ハルカはバットを振らない。しかし、左足を少し前に出しタイミングを取る。打つ気が感じられた。

2球目、速球をハルカは打つ。先ほどと同様に一塁線を割りファール。

3球目も同様に一塁線を割りファールにする。

4球目、スピードが落ちる。一塁線を割るということは、右打ちのハルカは少し遅めのタイミングでバットを振っていることになる。そこにスピードの遅いボールが来ると、タイミングがあって、真ん中に飛ぶ。しかし、速球が続いて遅い球が来ると、タイミングをずらされてかなり打ちにくいはずだ。ピッチャーの狙いとしてはタイミングずらしての、ボテボテのピッチャーゴロってとこか。

ハルカは遅めの球をきれいにセンターにはじき返す。ずっとその球を待っていたかのように。

「ナイスバッティング」

俺は声を張り上げる。

ベンチが湧く。声が大きいなと思って振り向くと、うちのクラスの他の種目のやつらが数人応援に来てくれていた。

次のバッターは澄香ちゃん。澄香ちゃんも運動神経はいい方だ。

野球部キャプテンのピッチャー。さっきよりも多くの人がきみの投球を見ているわけだけど、ガチ投球を続けるのかい?

1球目。相変わらずの速球。悪役に徹するようだ。

澄香ちゃんは1球目から打ちにいく。当たった。

そこそこいい当たりだったが、ピッチャーがボールを捕り一塁へ送球。アウト。

2回裏。バッターは男が2人続いた。山下がキレキレの球で2人とも三振にする。

3回表。バッターは北川。正直あんまり期待はできない。ピッチャーがあいつならなおさらだ。でも、その後には一巡して、1番山下がいる。そして、村上、杉本と続く。ハルカが出塁したからこそのシチュエーションだ。さすがハルカ。

残り時間5分。1対0でうちが勝っている。

北川は三振に倒れたが、続く山下がヒットで出塁。

村上の打席の途中で、試合終了となった。

礼をした後に、相手のキャプテンの顔を見る。かなり悔しそうな表情をしている。たかが、と言ってしまってはあれだが、体育祭ごときで野球部の人間がそんなに悔しがるのだろうか?

「あいつも変わってねぇな」

山下が村上と話している。

「あいつ、アキラのこと嫌ってたもんな」

「おまえも嫌われてただろ」

「そりゃ、アキラとつるんでりゃそうなるわな」

「まぁ、俺もあいつのこと嫌いだけどな」

そう言って、2人は笑う。

決勝まではだいぶ時間があるので、みんなで昼飯を食うことになった。

杉本は別行動しようとしたけれど、村上が誘い、山下がなかば強引に連行した。といっても、杉本もそんなに嫌そうにはしていなかったけれど。杉本ツンデレ説。

応援に来てくれたクラスメイトはもう昼飯を食べたらしく、他の種目の応援に行ってしまった。

ソフトボールの九人は中庭に移動した。

© Scott Mirror – Fotolia

中庭には、俺たちの他にも先着のグループが何組かいた。

うちの学校の中庭は無駄に広い。へたしたら、中庭にもうひとつ校舎を建てられるんじゃないかと思うほどだ。一面にきれいな緑の芝が広がっている。

「ハルカ、エヴァーグリーンって感じだよね」

「エヴァーグリーンって意味わかって言ってるの?」

「えっと……いっつも緑?」

「……」

間違ったみたいだ。

「いや、なんかよくわかんないけど響きいいじゃん?」

「いっつも緑で間違ってないけど。恐ろしく表現が幼稚」

「間違ってないんじゃん!」

俺のキレのあるツッコミは普通にスルーされる。

芝の上に腰を下ろす。輪になって食べるとかじゃないけど、9人で固まって食べる。5と4で分かれるとかじゃなくて、9って感じでまとまっている。

ハルカはちょっと離れたところに座っていて、雰囲気が少し疲れている感じだったので、絡みにいかないことにした。

近くに北川が座っていて、そういえば今まであんまり話したことないよな? 同じ体育係なのに。そう思って、話しかけることにする。

「お疲れ様」

俺がそう言うと、北川は頭を下げる。

「1試合目はごめんなさい」

1試合目? ……あっ、あのエラーのことか。

「エラーのこと?」

「はい」

「そんなの誰も気にしてないよ。試合勝ったし」

「でも、ごめんなさい」

「謝ることじゃないんだって」

少し口調が強くなってしまう。いっつもハルカの相手してるから、こういうタイプは難しい。

話題を変えることにする。

さっきから気になっていたのだが、北川はグローブを持参しているようだ。今も黒い袋に入れられて、近くに置かれている。

「それ、北川のなの?」

俺はグローブの入った袋を指差して聞く。

「借り物です」

「誰に借りたの?」

「杉本君」

ちょっとうつむきがちに北川は言う。恥ずかしがっているようだ……って、杉本!? 落ち着け、トオル……って、これが落ち着いていられる状況か!

「北川、とりあえず落ち着こうぜ」

俺が言うと、北川は首をかしげる。

「私は落ち着いてるつもりなんですけど?」

「杉本って、あの杉本だよな?」

俺は声を落として言う。

「うちのクラスの杉本君です」

「えっと、幼馴染とか?」

幼馴染って、俺は何を言ってるんだ。いやでも、恋人とかより幼馴染とか家が近所っていう方が可能性として高い気がするし。って、恋人!? 恋人は無くね?

「幼馴染ではないです」

「えっと、じゃあ、付き合ってるとか?」

「いやいや、そんなことないですよ」

北川は顔の前で手を振っている。

なんか、すごい取り乱してるけど。とりあえず付き合ってはいないみたいだ。なぜかほっとする。

「えっと、どういう経緯で貸してもらうことになったの?」

少し深入りし過ぎたかとも思ったけれど、まだ許される範囲だろう。北川が答えたくないのであれば、これ以上聞かなければいいだけの話だ。

「練習に付き合ってもらってて、その時に貸してもらいました」

う~ん。どうして、一緒に練習することになったんだろう? なんか、踏み込んでいいのはここらへんまでな気がする。よし、話題変更。

「そっか。で、つかぬことを聞くんだけど、奥山と村上ってどうなんだ?」

「えっと、それは私の口から言っていいのかどうか」

……付き合ってるのね、あの2人……ってか、なんだよ、このチーム。えっ? ヒロタカと澄香ちゃん付き合ってて、村上と奥山も付き合ってて、北川と杉本もいい感じでって、合コンかよっ! 先生、ここで白昼堂々合コンしてる人達がいまーす。って、俺もその一味じゃん!

「榎本さんはどうなんですか?」

北川は話題を変えようと思ったのか、俺に関する話題にもっていこうとする。話すべきことはいっぱいあるけれど、その前に。

「北川、とりあえず敬語やめろ」

「えっ?」

「同級生じゃん? クラスメイトじゃん? 先輩後輩とかじゃないじゃん? だから敬語禁止。OK?」

北川はすぐには頷かない。

「じゃあ、とりあえず、榎本って呼び捨てにしてみ?」

「榎本……、くん」

……北川、実はかなりいいキャラしてんのな。榎本って一度呼び捨てにした後、迷いながら、くん、ってつけるあたりがハンパねぇよ。あぁ、なるほど、杉本もこの感じにやられたのか。杉本、わかるぜ、その気持ち。

「うん。くん付けでいいよ」

なんか、北川と話せて、体育祭いいなぁと思った。体育祭がなかったら、こんな風に話すこともなかっただろう。

「で、俺のことっていうのは? ハルカってこと?」

「はい」

「はいじゃなくて、うん」

「……うん」

やばい。俺、このノリ好きだわ。

「まぁね、話せば長くなるんだけど……」

そうして、俺は昼飯の時間をフルに使って、俺とハルカのヒストリーを北川に語った。


次回:12月16日土曜更新予定

第7話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走2

2014年11月07日
大場諒介
KDP

この記事が含まれる特集

  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る