青い暴走2
体育祭に向けてソフトボールの練習が始まるが、相変わらずトオルはハルカのことしか考えていない。

ソフトボールの初練習は体育の授業だった。
山下と村上は元野球部だから、この2人を中心に練習するのだろう。山下はリーダーシップのある人間だし。
グラウンドに着いたけれど、何をすればいいのかよくわかんないので山下に聞くことにした。
「グローブとか持ってこないとな」
そう言って歩き出した山下に従って、倉庫に向かった。ボールとグローブとバットとベースを運び出す。グローブはパサパサカチカチな感じだった。使いにくそう。バットはゴム製だ。安全面を考えてのことだろう。
俺とヒロタカと山下と村上で必要なものを運び出して、少しすると女子が到着した。
ここで語るべきはジャージ姿のハルカについてだろう。
下は学校指定のジャージで黒の地に赤のラインが入っている。上は体育にふさわしい服装であればいいというルールになっているのだけれど、学校指定の黒の地に赤のラインが入った長袖のジャージを着ている。最近寒くなってきたからだろう。夏であれば、みんな思い思いのTシャツを着る。今はみんな長袖を着ているけれど、身体を動かして暑くなってきたら半袖になるだろう。
いや、そんな話はどうでもよくて、ハルカだよ、ハルカ。ヤバイよ、あれは。何を着ても似合うことは知ってたけど、学校指定のジャージまで似合うとか神だよね。今日初めて見るわけじゃないんだけど、週に3回しか体育の授業はなくて、ということはハルカのジャージ姿を見れるのは週に3回しかなくて、それってかなり貴重じゃん? まぁ、それを言うなら、ハルカの制服姿も週に6回しか見れないから貴重といえば貴重なのだけど、それを言うなら、私服姿はもっと貴重で、正直、遊ぶ時とか待ち合わせの時点でかなりヤバイ。
「ハルカー」
「何?」
「ジャージ、超似合ってる」
俺は親指を立てる。
「いつも着てるでしょ」
「そうなんだけど、毎回惚れ直す」
俺が言うと、ハルカは片手で頭をおさえる。
「ジュンヤもあれぐらい言ってみろよ」
俺の後ろから山下の声がする。
「いや、あれはさすがに無理だわ」
村上が答えるのを聞いて、村上って彼女いるんだ、と思う。もしくは好きな人が。
「ところで、杉本は来るの?」
俺は山下の方をむいて聞く。
「そろそろ来るだろ。とりあえず、キャッチボールしてるか」
「ヒロタカ、キャッチボールやろうぜ」
俺が言うと、ヒロタカは意外とでも言うような顔をする。
「里中さんとじゃなくていいのか?」
「ハルカとはいつもしてるから」
「私がいつあんたとキャッチボールしたの?」
ハルカからツッコミが入る。
「四六時中、心のキャッチボールしてるじゃないか」
「キャッチボールしてるつもりだったの? 私はドッチボールだと思ってたんだけど」
「ドンマイ。トオルのボール、よけられてたみたいだよ」
「ハルカ、愛してるよ」
「タイミングが意味わかんないし。恥ずかしいから、そういうこと言わないでくれる?」
「ヒロタカ、ちゃんとキャッチボール成立してるじゃないか。何を言ってるんだ」
俺がそう言うと、ヒロタカとハルカは顔を見合わせる。
ヒロタカが俺の方に向き直って言う。
「トオル、なんか、色々ドンマイ」
俺とヒロタカがキャッチボールを始めると、俺の隣には澄香ちゃんが来た。
キャッチボールの組は、俺、ヒロタカ組、ハルカ、澄香ちゃん組、山下、村上組、奥山、北川組の4組に分かれていた。
男女4人ずつなんだからこうなるよな、と思う。杉本が来たらどこに入るのだろうと思うけれど、たぶん山下、村上組だろう。どういう仲か知らないが、種目決めの時の山下の発言から考えるに、そこそこ仲が良いのだろう。一緒に話しているところを見たことはないけれど。
てか、俺から見て、11時の方角にハルカがいて、澄香ちゃんにボールを投げてるのはわかるんだけど、ハルカが投げるモーションに入ると、つい目がいってしまう。
ハルカの投球フォーム、カッコいいなぁ。いわゆる女の子投げってやつじゃなくて、なんだろう、肩が回っているとでもいうのだろうか、俺は野球が専門じゃないからよくわからないけれど、かなりいい感じの投げ方をしているのはわかる。ボールの軌道も山なりじゃなくて、真っ直ぐ相手の胸元にいく感じだ。まぁ、ハルカの運動神経がいいことは前から知ってたけどさ。あれだよね、惚れ直すよね。そんなことを考えながらキャッチボールをしていると、かなり遅れて杉本が現れた。180を超える高身長だ。顔つきも雰囲気もなんか大人っぽくて、私服を着ていたら大学生とかだと思うかもしれない。
杉本は、不良視されているわりに、ちゃんと学校指定のジャージを着ている。腰パンしているとかでもない。実は、俺はだいぶ前からある仮説を立てている。杉本は不良じゃないんじゃないかという仮説だ。確かに学校はよく休む。でも、テストの成績はいい。たぶん、単位が取れるように計算しているんだと思う。たまに見かけると難しい本を読んでいたりする。ここまで言うと言い過ぎかもしれないけれど、学校の勉強が簡単すぎるのかもしれない。まぁ、あくまでも可能性の話だけれど。というか、私立高校の不良って、不良といってもそんなに大したことないと思う。小学校の頃の友だちで公立高校に通っているやつの話とかを聞くとそう感じる。
「杉本、準備できたら俺と代わってくれ」
山下が声をかけると、杉本は右手を上に挙げて振った。了解ということだろう。
杉本が近づいて来るにつれ、肩から何か下げているのがわかった。
杉本はベンチに座り、肩の袋を下ろし、中の物を取り出す。グローブだ。キャッチャーミットだ。
グローブを手にはめ、開閉する。遠目にも柔らかいのがわかる。新品じゃなくて使い込んだものみたいだ。杉本は野球部なのか?
杉本はベンチから立ち上がり、山下からボールを受け取り、村上とキャッチボールを始める。一見してわかる。素人じゃない。
ってことは、うちのクラスって、野球経験者3人? それってかなり強くね? しかも、俺もヒロタカも運動神経はいい方だし、女子も、北川はちょっと弱そうだけど、他の3人はうちのクラスでも5本の指に入る3人だろう。
それから3分くらいだろうか、キャッチボールを続けて、そろそろあきてきたなって頃になって、山下から声がかかった。
「バッティングやるか」
そう言われても、どうやるの? って感じだ。俺以外もそうなのだろう。村上や杉本はわかっているかもしれないが。
「俺がピッチャーやるからひとりずつ打って、他の人は守り、で、一応ポジション考えた。キャッチャー杉本、ファーストジュンヤ、セカンド花上、サード花村、ショート榎本、レフト奥山、センター里中、ライト北川。体育祭のルールで、女子はフライをワンバウンドでキャッチしてもアウトになるってルールがあるから、外野は女子で固める。あとは適当に頑張れ。やってみてダメだったらまた考える」
山下が言い終えると、みな守備位置につく。短い間に適切な指示を出して、それの意図するところの説明もする。杉本とキャッチボールを代わった後、全員のキャッチボールを見て考えたのだろう。噂には聞いていたが、相当頭が切れるらしい。「じゃあ花上から、その後は、サード、ショート、レフト、センター、ライトみたいな感じで代わってって」
なんだか勝てる気がした。てか、改めて、メンバーが濃いなと思う。まわりを見渡して、逆に北川が浮いているという異常事態だ。まぁでも、そんなことは正直さまつなことで、俺がショートで、はからずもハルカがセンターって、かなり近いじゃん。で、センター前に飛んでハルカが取れないようなボールを俺がダイビングキャッチ。ついでにハルカの心もキャッチみたいな感じでいんじゃないでしょうか?
そんなことを考えていたら、ヒロタカの打ったボールがセンター前に。チャンス。さすがヒロタカ。わかってるね。
風のようにダッシュ。たぶん間に合う。
「任せて」
ハルカが声を出す。
えっ? マジで?
ハルカはダイビングせずに普通にキャッチ。
……なんだろうね。なんか俺、いらなくね?
実際、ヒロタカに代わって俺がバッターになって、ショートのポジションが空いて、特に何も考えずというか、ヒット打とうみたいな気持ちで打ったらショートのとこに飛んで、空いているはずなのに普通にヒロタカ取ってるし。
心強いんだけどさ。なんか寂しいじゃん。
冷静に考えて、というかメンバーを見た時点で気付くべきだったんだけど、このチームは反則に近い。
体育祭のルールで現役野球部は逆打ちということになっている。右打ちなら左で打てってルールだ。
ただし現役に限る。ただしイケメンに限るじゃなくて本当に良かったと思う。イケメン野球部は逆打ちとかいうルールがあったら面白いけど。
イメージトレーニング。
チクショー、俺逆打ちかよ。
いや、お前イケメンじゃねぇだろ。
それを言うならお前だって。
ていうか、うちの野球部ってイケメンいるのか?
……それは言わない約束だろ。
……ごめん。
すごく残念なイメージになってしまったけれど、とりあえずうちのクラスに現役野球部はいない。山下も村上も杉本も打ち放題だ。山下の考えた作戦はものすごくシンプルで、1番2番3番にこの4人を並べて、1点ないし、2点を取って守るというもの、もちろん、後続が打って3点4点と入れられれば儲けものといった感じだ。
うちのチームは、他のクラスと授業がかぶった時の練習試合を圧倒的な強さで勝ち続けた。上の学年とやっても圧勝する。30分の試合で、平均して4点は入れられるチームだし、ピッチャーの山下が強すぎる。まず打たせない。女子には抜いたボールを投げるものの、男子には経験未経験関わらず、体育祭にあるまじきボールを投げる。試合をしながら罪悪感が湧いてくるほどだった。
体育祭の前に、ひとつ大きなイベントがある。
地区大会を勝ち抜いた演劇部は県大会へと足を進めていた。もちろん俺とヒロタカは観に行くことにした。
大会当日、ハルカと話すことはできなかったけれど、ハルカの演技は神々しささえ感じさせるほどだった。いつもより気合が入っていると思った。違いがわかる男、それが俺だ。ただしハルカに限る。
ハルカが登校中も歌のチェックをしていたことを俺は知っている。県大会に勝てば全国大会に出場できる。ハルカは自分の演技に妥協しないのだ。元から一流の女優であるハルカが本気になったら、そりゃ神々しくもなるだろう。
残念ながらあと一歩のところで演劇部は全国大会出場を逃した。審査員の目くさってるんじゃないのか?
ハルカが、劇が終わった後泣いていたと、澄香ちゃんに後で聞いた。
次回:12月2日土曜更新予定
青い暴走2
2014年11月07日![]()
青い暴走
高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。