美意識としての「白」
「―骨壺から北園克衛まで―」という副題が印象的な1冊です。
グラフィックデザイナーである山口信博氏が、千葉県にある美術館「museum as it is」で行った個人コレクション展での展示品に解説を加えた図録です。日常で目にする何気ない磁器や木工品、年代物のオブジェ、雑誌やポスターなど、品の良い所蔵品が静謐な写真で紹介されています。
本書において「白」は、どのような意味合いを持っているのでしょうか。 それは本書の冒頭に据えられた「骨壺」から最後を飾る「北園克衛」の間に、焼物を造形している美しい空洞や、引き算で生まれるモダンな詩の中に、ひっそりと佇んでいます。哲学者である老子の“無”の解釈(器の本質は形を作っている外側ではなく、内側の何もない空間にある)のように、被写体を包む何もない空間や、徒然とした文章の間を漂う余白自体が、本書を形作っており、紙面に独特の印象を与えています。
本書は、そんな白という色にまつわるデザインの哲学に触れることができる品の良い一冊です。
- 著者
- 山口 信博
- 出版日
- 2006-09-01
景観を浮かび上がらす「白」
本書は、モノトーンの風景作品でよく知られている写真家マイケル・ケンナ氏による、2006年に出版された写真集です。冬の北海道を数年にわたり撮影し続け、マイケル・ケンナ氏はこの本の中で、その荘厳な自然の表情を、まるで水墨画と見紛うような繊細さで綴っています。
本書の素晴らしさは、印刷技術にあります。濃淡に艶のある墨のような黒も特徴的ですが、特に素晴らしいのが、それらを際立たせている印画紙の上に刷られた絹のような風合いの「白」です。 マイケル・ケンナ氏の捉える雪の色が、その装飾性のないストイックな構図と相まって、とても厳かな世界を写し出している一方、天然木でつくられた表紙カバーの手触りが、ページを支える手に温かみを感じさせます。
この良質なブックデザインと印刷技術によって、印刷には本来表れない景観としての「白」を、視覚だけでなく触覚でも感じ取ることを可能にしています。
- 著者
- マイケル ケンナ
- 出版日
- 2006-05-20
空間表現の「白」
専門的な分野の本はどれも趣に特徴があり、だからこそ真摯にデザインされているものがほとんどですが、本書ほどその質実さが記号的に表れている本も珍しいでしょう。
本書は、文字組版を主に生業とするタイポグラファという職種において、スイスのバーゼルで教鞭をとっていたエミール・ルーダー氏へのリフレクション(随想)を中心に、1950-60年代のバーゼルのタイポグラフィについて、彼の下でタイポグラフィを学んだヘルムート・シュミット氏が編著を手掛けたものです。 タイポグラフィという技芸を知る人にのみ読解出来る内容と思われがちですが、エミール・ルーダー氏が手がけた仕事や理念、思想についての解釈を読み込んでいくうちに、物事の本質的な側面や、文化形成、歴史意識につながるコモンセンス、世代や人種を越えて共有される教養が垣間見えてきます。それを象徴するのがスイス・スタイルと呼ばれる文字組版です。
スイス・スタイルという文字組版はグリッド(格子)上にテキストや図表を配置し、紙面のリズムをコントロールする様式です。実際はその中にも様々な文脈から派生した流れがあるのですが、エミール・ルーダー氏は、その秩序立てられた文字組版に実験的で創造的な精神を持ち込んだ人物として、同時代のデザイナーとは一線を画す影響力を持っていました。本書の紙面は、そんな彼のタイポグラフィ観を体現するような空間表現でデザインされています。その抑制の効いた文字組版のリズムは出自の異なるテキストに統一感を与えており、一冊の本としてのまとまりを生み出しています。
文字組版における白の空間表現を凝縮した貴重な一冊です。
- 著者
- ヘルムート シュミット
- 出版日