【連載小説】「CROSS ROAD」第1話【毎週土曜更新】

更新:2017.11.4

「青い暴走」シリーズ第2部「CROSS ROAD」第1話。ひとりの男子高校生が大好きな女の子に大好きだと伝えるだけの物語。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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俺はハルカが好きだ。いや、愛してる。いや、言葉なんかどうでもいい。とにかく俺はハルカのことが大好きなんだ。好きと愛してるの違いなんかわからないけど、そんなこともどうでもいい。どちらの言葉を使っても、俺の気持ちを表現するのには足りないから。

どんな言葉を使っても表現できないことを表現したいんだけれど、俺にそんな人並みはずれた表現力なんかないから、俺はとにかく言葉を重ねる。1回で足りなければ10回言うし、10回で足りなければ100回言ってやる。

ハルカが笑えばうれしい。まぁ、あんまり笑わないけど。でも、楽しそうにしてる時は雰囲気でわかる。逆につまんなそうにしてれば、悲しくなる。ハルカが他の男と話してれば、なんか腹立つし。まぁ、あんまり話してないけど。とりあえず、かなりの割合でハルカのことを考えている。

それにしても、なんてかわいいんだ、ハルカ。いや、ハルカはかわいいというより、きれいという方が当たっていると思う。去年と比べてかなり大人っぽくなった。名前の通り、遥にあるような儚さ的なものをただよわせている。ハルカは漢字で書くと春の花になるんだけど、たぶん、ご両親もダブルミーニング的なものを狙ったのではないかと、俺は推理している。俺はハルカの名前も大好きだ。

こんなにいい感じの子が俺の彼女……。

「彼女じゃないから」

ハルカに怒られた。心の声が聞こえてしまったようだ。

「ついに俺たちは、言葉にせずともわかりあえるようになったんだね」

「あんたがさっきからバカみたいなことを口走ってるからでしょ」

「まるで俺がバカみたいに聞こえるけど」

「バカみたいじゃなくてバカなんでしょ」

「確かに俺はハルカのことになるとバカになったりすることもあるけどさ」

「何うまいこと言ったみたいな顔してんのよ」

ハルカはあきれ顔で言う。俺はハルカのこういう顔も好きだ。いや、全部好きなんだけど、こういう顔を見るためにバカなことを言っているっていう部分もあって、決してバカなわけじゃない。

「トオルはあと何年そういう感じでいくんだ?」

俺の隣の席に座っている花村ヒロタカが聞いてくる。見るからに頭のよさそうな顔をしていて、実際頭がいい。でも、おぼっちゃまみたいな感じじゃなくて、苦学生って感じでもなくて、浮世離れしてる感じもなくはないけど、頭のおかしい天才とかそういう感じでもなくて、一見普通だけど、色々普通じゃないやつってのが当たっているかもしれない。

「何年っていうか、ハルカがそばにいる限り!」

「……気持ち悪い」

「ハルカ、それは最近流行りのツンデレかい?」

「………」

「大丈夫だよ、里中さん。そばにいる限りってことは、離れてればいいってことだから」

ヒロタカが的外れなフォローをする。

「それは間違ってるぞ。ハルカが離れていくなら、当然俺は追いかける」

……なんだろう、この空気。澄香ちゃんも微妙な笑みを浮かべてるし。微妙な笑みと書いて微笑み。うん、問題なし。

でも、俺は何も間違っていないと思う。好きだからそばにいたい、これ普通のこと。どこが好きかとか聞かれても困るけど。いや、だって、ハルカとか完璧じゃん?

その完璧なハルカは、俺のむかいの席に座っている。ハルカの隣には澄香ちゃん。高校の学校祭の打ち上げでファミレスにいるのだ。

© chalermchai – Fotolia

澄香ちゃんは、すごく明るい子だ。なんかものすごくアバウトだけど。ってか面接じゃ3秒で落ちるな。自己アピールで、すごく明るいです! とか。いやでも、今は面接じゃないし、まぁいいか。

そう、ハルカを冷静とするなら澄香ちゃんは情熱で……いや、自分で言っといてあれだけど、情熱ってのはちょっと違うな。うん、だから、すごく明るい子で間違ってない。ハルカがクールビューティーだとすれば、澄香ちゃんは現役高校生! って感じで……って、いや更に意味がわかんなくなってる。現役高校生ってなんだよ! ハルカだって現役高校生じゃねぇかよ! 俺だって、ヒロタカだって。いやでも、ハルカはなんか現役高校生って感じがしないんだよね。大学生ってわけでもないし。結局、ハルカはハルカなんだよ。うん、そういうこと。って納得しかけたけど、そういえば澄香ちゃんのことを考えていたつもりが、いつのまにかハルカはハルカとか考えてるし、恐るべしハルカ。いかん、このままでは澄香ちゃんはすごく明るい子というだけで終わってしまう。うーんと、あっ、そうそう、澄香ちゃんはお兄さんと二人暮らしをしている。で、お兄さんは静司さんといって、おれとヒロタカのバイト先のマネージャーだ。親は海外にいるんだとかで、これはヒロタカの情報。いや、そういうなんか微妙な家庭環境の中、無茶苦茶いい子だよ、澄香ちゃんは。ヒロタカが惚れるのも無理ないね。おっ、いい感じにまとまったぜ。

「そうだ。言い忘れてたけど、マジで劇最高だった」

「私は端役だったけどね」

「いや、少なくとも俺にとってはハルカが主役だったね」

「私が主役だとしたら、あの劇成立しないでしょ」

劇のストーリーは、国がふたつあって、両国の同盟のために東の国のお姫様が西の国の王子と結婚することになり、お姫様が西の国に行くという話。その旅中で何者かに襲われ、警護についていた無駄に強い騎士みたいなのがお姫様を助けて、また何者かに襲われて、騎士が助けてという感じで、旅をしていく話だ。

旅をする中で、お姫様と騎士の間に絆がめばえて、あぁ、こいつらフォーリンラブだわ、って感じで、お姫様役がハルカだったら、俺ガンギレしてただろうな、とか思って……とかいうのは置いといて、ハルカは姫の母親役をやっていた。

「あの圧倒的な存在感。主役食ってたね」

「一応、ありがとう」

「どういたしまして。まぁ、最近俺に冷たくしてたのは役作りのためだったと思うけど、もういつもみたいに優しくしてくれていいからね?」

「私がいつあんたに優しく接したの」

「ビートルズも、あなたの受け取る愛はあなたの与える愛に等しいって歌ってるし」

「だから?」

「俺がこれだけハルカを愛しているのだから、俺のことも愛してくれているはず」

……沈黙。

「あれ? なんか変なこと言った?」

「トオル、そのへんにしとけ」

話題変えろってことね。りょうかい。

「そうだ、もうそろそろ体育祭じゃん? みんなで一緒にソフトボールやろうよ」

体育祭は来月に迫っていた。バレーボール、バスケ、サッカー、ソフトボールなどの球技からひとり一種目を選択する。男女混合なのはソフトボールだけだ。

「なんで?」

ハルカからの質問、もといフリ。

「ハルカと一緒にいたいから」

ため息をつくハルカ。

「俺の戦法をソフトボールで表現すると、スローボールで油断させておいてからの、高速ストレートで三振を取りにいく感じ」

「誰もそんなこと聞いてないし」

「確かにトオルは変化球投げないよね」

「俺の想いは変化球なんかじゃ伝えきれないからね」

「投げられないだけでしょ」

「まったく、俺もなめられたもんだぜ」

「トオルが変化球投げられるなら見てみたいな」

「花村くん煽らないでよ」

ここで言えっての? 学校じゃないんだよ? ファミレスだよ? 他のお客さんもいるんだよ? まぁ、ハルカが聞きたいって言うなら言うけどさ。

「ハルカ、愛してるよ」

「……トオル、それ直球」

「ん、そうか? じゃあ、愛してるぜ?」

「不毛過ぎる」

「ハルカ、それは、ふっ、もうこんなところで、困った人過ぎる、の略かい?」

「……トオル、ある意味天才だよ」

「ありがとう、ヒロタカ」

「私もそう思う」

「澄香ちゃんも、ありがとう」

そして、真打ちハルカは……沈黙。

「ハルカは?」

……沈黙。

「トオル、おまえのせいだぞ」

「俺かい?」

「私もそう思う」

「澄香ちゃん、さっきとセリフ一緒」

そして、真打ちハルカは……沈黙。

「ハルカは?」

……沈黙。

やばい、このノリで無限ループいけそうな気がしてきた。ヒロタカが俺の発言にコメントして、澄香ちゃんは私もそう思うって言って、ハルカ沈黙……。

「いやだー。そんなのいやだー」

「恥ずかしいからやめてくれない?」

「やったー。ハルカがしゃべったー」

「なんか、このバカ幼児退行してるんだけど」

「ハルカがしゃべってくれるなら、俺は3歳児になる!」

「おめでとう。精神年齢1歳成長出来たみたいね」

「ありがとう……って、俺の精神年齢2歳なんかい!」

キレのあるツッコミを入れたところでフリーズ。横からなんか威圧感を感じる。

「お客様、少々お声を落としていただいてよろしいでしょうか?」

学校祭の翌日は片付けの日になっていて、午前中にクラスの片付けをして、午後は部活がある生徒は部活の企画の片付けをして、部活をしていない生徒は帰宅ということになっていた。

ハルカと澄香ちゃんは午後に演劇部の片付けをして、そのまま演劇部の打ち上げに行く予定のようだ。ということは、今日はクラスの片付けが終わったら、ハルカともう会えないということだ。今日というか、明日から1週間秋休みだから、1週間会えないということだ。

1週間、正直結構しんどい。夏休みに比べれば短いけれど。それにしても、夏休みはきつかった。ヒロタカと澄香ちゃんと4人で遊びに行ったのは2回あったけど、それ以外会ってないし、もちろんというか、2人で遊びに行くこともなかった。そう、これまでにハルカと2人でどこかに行ったことはないのだ。

とりあえず、昔の話は置いておこう。大事なのは今であり、これからだ。秋休みだ。秋休みにいかにハルカと遊ぶか。2人で遊びたいけれど、遊ぶとしたら4人ということになるだろう。でも、正直ヒロタカと澄香ちゃんに悪いという気持ちもある。あの2人は、2人で遊びたいんじゃないかとも考える。でも、こうも考える。2人で遊ぶのには2人で遊ぶ楽しさがあって、4人で遊ぶのには4人で遊ぶ楽しさがあるんじゃないかと。だから、ヒロタカと澄香ちゃんが一緒に遊んでくれるのであれば、俺は4人で遊びたいし。とりあえず誘う。断られたら諦めるし、いいのであれば一緒に遊ぶ。

ということで、片付けを音速で終わらせて、一段落したところでヒロタカに話に行くことにした。

ヒロタカは学祭委員だから、クラス全体の監督みたいなことをしている。

「ヒロタカ」

俺の声にヒロタカが振り返る。

「急ぎ?」

「ではないけど」

「ちょっと待って」

ヒロタカは俺に背をむけて、ベニヤ板をどこに返せばいいのかという、クラスメイトの質問に答えている。

「で、トオルの用は?」

ヒロタカに聞かれて罪悪感を覚える。ヒロタカが真面目に働いている中、遊びの話などをしてもいいのだろうか?

「学祭関係じゃないんだけど」

「4人で遊ぼうって?」

やっぱり、ヒロタカは頭がいい。

「うん」

俺がうなずくと、ヒロタカは笑いをこらえるように笑う。

「ホントにトオルは里中さんのことばっかりだな」

ヒロタカはそう言うけれど、ハルカのことしか考えていないというのは、正しいあり方ではないと思う。ヒロタカの言っていることが的外れとかそういうんじゃなくて、相手のことしか考えられないようなのはダメだ、とか考えながらもハルカと遊びたいなと思っているのも事実であって、ようは俺もひとりの人間として頑張って、ハルカも頑張って、で、なんか遊んだりして、いい感じになるのがベストなんじゃないかと思うわけで。

「まぁ、それは置いといて、大丈夫?」

「俺は大丈夫だよ」

最近、ヒロタカは丸くなってきた。前から尖っているというわけではなかったけれど、前は一見丸く見えても、底冷えするものを感じるというか、本心は見せないというか、わかりにくく尖っている部分があったが、最近ではそういうことを感じない。澄香ちゃんと付き合い始めてからだろうか。

「澄香ちゃんと2人の方がいいとかない?」

俺がそう言うと、ヒロタカはまた笑う。

「4人で遊ぶの、嫌いじゃないよ」

ヒロタカは俺に気をつかって言っているとかではないと思う。もしかしたら、気をつかっているのかもしれないけど、つかっていないと俺は思う。

そういう風に考えるのも、根拠っていうんじゃないけど、まぁ、俺なりに考えがあって、たとえば、俺とハルカが付き合ったとしても、4人で遊びに行ったりすると思う。だから、ヒロタカが4人で遊ぶのも嫌いじゃないっていうのも、嘘ではないような気がする。もちろん、俺とヒロタカが同じ感性をしているとは限らないけれど。

まぁ、ハルカともし付き合ったらって仮定をしても、俺自身が一番よくわかってるんだけど、正直、今のところ望み薄だ。時々、ハルカの眼中に入っていないんじゃないかと思うこともある。でも、望み薄とかそういうことじゃなくて、単純にハルカのことが好きだから遊びたいってこと。そういうこと。

そんな感じで、とりあえず澄香ちゃんを取り込んでからハルカを攻めようとしたら、まさかの澄香ちゃんがNG。なんでも、ご両親が帰省するとかで一緒に過ごすんだとか。こうなればしょうがない。そろそろ本気を出していきますかってことで。ハルカに単身突撃。

「ハルカ、秋休み遊ぼう、2人で」

俺が言うと、ハルカは露骨にため息をついた。ため息というか、はぁ、と声に出して、息を深く吐く。

「私が断るってわかってるでしょ?」

まぁ、なかば予想はしてたよ。でも、そんなことは言わない。

「OKかもしれないじゃないか」

「じゃあ、この際だからはっきり言うけど、2人で遊ぶっていうことはありえないから」

「ハルカ、女心と秋の空って言葉を知ってるかい?」

「知ってるけど」

「じゃあ、明日はハルカの気持ちも変わっているかもしれないじゃないか」

「いや、ないから」

「それに、はからずも季節は秋」

「……ちなみに、女心と秋の空って、元々は男心と秋の空で、その言い替えでしかないからね」

「えっ、そうなの?」

「そう。だから男心も変わりやすいってこと」

なんでこんなこと知ってんだよ、ハルカ。スゲー。惚れ直すわ。

「俺はハルカ一筋だから、大丈夫」

「会話が成立しないんだけど」

「いや、確かに男心も変わりやすいかもしれない。その証拠に、俺は昨日よりもハルカのことが好きになっている」

決まった~……はずなんだけど、なんだろ、このハルカの微妙な顔。いや、微妙っていっても表情がって意味で、顔はいつも通りかわいいというか、きれいというか、いやまたその微妙な表情も好きなんだけど。わずかに開かれた唇、やる気なさそうに口の端が下がってるんだけど、それがまたいい。化粧はしてないと思うけど、もしかしたら薄くしてるかも、まぁそのへんは正直どっちでもいいや、とりあえず肌白くて超きれいだし。いや、なんか隙がねぇ。で、その隙のなさ×呆れ顔っていう奇跡のコラボレーション。

マジ幸せだ~。生まれてきてよかった~。てか、ハルカ生まれてきてくれてありがと~。ハルカの父さんと母さんありがと~。

「みんなありがと~」

「……あんたの頭どうなってんの?」

一見するとさっきと変わらない表情のハルカ。でも、俺にはわかる。ハルカは正直引いている……ってまずいじゃん!

「いや、別に普通の頭だよ」

「何考えてるとそんな変な頭になるの?」

「ハルカのことっ!」

俺がそう言うと、ハルカは盛大にため息をついた。


次回:11月11日土曜更新予定

第2話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走2

2014年11月07日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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