【連載小説】「青い暴走」シリーズ「優しい音」最終話【毎週土曜更新】

更新:2017.10.28

「青い暴走」シリーズ第1部「優しい音」最終第9話。学校祭を無事に終えたジュンヤとアキラは教頭に呼び出さ……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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予想通り、おれとアキラは学校祭の翌日に呼び出しをくらった。

生活指導室では教頭が待っていた。教頭は去年までおれたちの学年の学年主任をしていたから、おれとアキラのことは知っている。

アキラは、禁止令撤廃は自分がやると言った通りに、いつ集めたのかわからない保護者と生徒の署名を提出し、本腰を入れて交渉した。

署名自体に効力はない。何人以上の署名で停部でなくなるとかそういう校則はない。アキラが署名を集めた理由は、これだけ企画の賛同者がいるということを示したかったからだ。もっとざっくり言うなら、いつまでも活動禁止にしてるとめんどくさいことになるってことと、今回の件で企画に参加した生徒を処分しようもんなら、これだけの数の保護者と生徒が敵になるということだ。

今回の件に関しては、おれとアキラは別に校則違反をしたわけではない。そもそも、前にアキラが言っていたように、ライブハウスのキャンセル料はおそらく軽音部が払っているだろうし、これ以上活動禁止を引き延ばすのは、引き延ばした分だけ教師側が不利になる。もしかすると、教頭も学校祭明けには禁止令を撤廃しようとしていたかもしれない。 

アキラのことだ。そのへんのことも、もちろん考えていただろう。だとしたら、アキラがやったことは蛇足とも言えるかもしれないが、アクションを起こしたことに意味がある。アキラがアクションを起こして禁止令が撤廃されれば、その効果があったかないかは別にして、今回の学校祭の企画が正当化されるのだ。署名集めは、今回参加しなかった軽音部対策だと言うこともできる。

教頭に何か言われる前に、アキラは軽音部の活動禁止が撤廃されたら、自分たちはもう関わらないと明言。無事(?)交渉成立となり、おれとアキラは何事もなかったかのように学校祭の片付けに戻った。

©Aki Nabeshima

その後1週間は学祭休みだった。

「MusicWar」の打ち上げは横浜駅に昼過ぎに集まっての、ボーリングとカラオケ。カラオケは、バンドをやっているだけあって、平均歌唱力が高かった。なかでも、奥山が想像以上に上手かったので、歌わないのはもったいないなと思った。

カラオケのあとは、ドリンクバーつきのファミレスで食事をした。横浜の隅っこにあるファミレス。いい感じの店員にテーブルを3つくっつけてもらった。

おれの隣はリョウスケだった。

「ジュンヤちゃん、お願い聞いてくれてありがとね」

「おれも楽しかったよ」

嘘ではなかった。これも、安藤の紹介してくれたメンバーがいいやつらだったからだ。音楽の魅力も、前よりわかった気がする。

「ハニーも喜んでたし」

リョウスケは本当にうれしそうだった。

「そいつはなにより」

「大沢ちゃんを参加させたのはさすがだよね」

「褒めてもなんも出ねぇぞ」

今回はたまたまおれのやり方がうまくいっただけだ。たまたまうまくいって、おれがリョウスケを助けた形になったけれど、これまでリョウスケに助けられたことは何回もあるし、きっとこれからもあるだろう。

「ひとつ聞いていい?」

リョウスケが声を落として聞いてきた。

「なんだ?」

「ジュンヤちゃん、ユウちゃんのこと好きでしょ?」

「あぁ」

否定してもよかったが、自分の気持ちに嘘をついているようで嫌だった。これでも、リョウスケの口の堅さは信用できる。

「ユウちゃん、かわいいもんね」

「いや、なんか、おれが面食いみたいに言うけど。奥山の顔に惚れたわけじゃないから」

「全てが好きだと、いうね~、このっ、色男っ」

「言っとけ」

実際、リョウスケの言う通りだった。おれは、たぶん、奥山の全てが好きなのだ。

「わかりますた。借りは返すものだかんね」

「いや、別になにもしなくていいぞ」

話がめんどくさくなりそうだったので断りを入れる。

ドリンクを飲みすぎたのか、頼んだドリアを食べ終わったところで尿意をもよおした。

トイレにむかうと、そこにはアキラがいた。

「おつかれ」

アキラが声をかけてきた。

「これで一段落だな」

「また暇になるけどな」

「いいじゃねぇかよ。暇になったら、またなんかやろうぜ」

おれがそう言うと、アキラはふっと笑った。

「そうだな。ところで、おまえと奥山って付き合ってんのか?」

「そのデマどっからだ?」

「このまえ、いい感じだったからさ。おまえがああいう風になんのも珍しいし。奥山も人と話さないやつだろ?」

「そうだけど。まだつきあってない」

「まだ、か。なるほどな」

アキラは含みのある言い方をして、トイレを出て行った。なんか勘違いされてる気がするけど。まぁいい。とりあえず放置しておこう。訂正しても、めんどくさくなるだけだ。

トイレから出る。むこうからリョウスケがこっちにむかって歩いてくる。

「ごゆっくり」

すれ違いざまにリョウスケが言う。

そのセリフはむしろ、おれがおまえに言うセリフだろ。

「話ってなに?」

トイレとテーブルの中間地点くらいのところで、奥山が話しかけてきた。おれはこれが誰の策略か瞬時に理解して振りむいた。

トイレの入り口からリョウスケが顔を出している。リョウスケは親指を立てる、グッド。そしてピースサインをする、ラック。グッドラック、なにが幸運をだ。

リョウスケに文句を言いたかったが、今は目の前の奥山の方が重要な問題だ。

「外に出ないか?」

おれは奥山を誘った。

奥山は黙ってうなずく。

ドアをあけ外に出ると、肌寒い風が吹いていた。時刻は9時過ぎ。人通りはすくなく、ほとんどのビルは明かりが消え、コンビニだけが暖かな光を発していた。

奥山は赤のカーディガンに白黒チェックのハーフパンツだった。

おれは歩きながら、この状況をどうするか考えていた。無難にミュージカルの感想かなんかをいって、ファミレスに戻るか。それとも、この状況を最大限に活かすか。

「演奏よかったよ」

おれはファミレスから完全に見えない場所まで歩いて話しかけた。

「ありがとう」

「まだ、言ってなかったからさ」

「……終わっちゃったね」

「あぁ」

祭りの時間は終わった。ミュージカルもお化け屋敷も終わってしまった。両方とも、おれと奥山の間にあったものだ。

「いろいろあったけど、今回はいい思い出になるかもしれない」

奥山の言い方に引っかかりを覚えた。

「思い出なんて、これからいくらでも作れるだろ」

「……村上はそうだろうね」

「奥山もだろ」

「私は、違うから」

「何がだよ」

「村上にはわからないよ」

学校祭を経て少しは近づいたように思えた距離は、また開いていた。

わからないと言われて腹が立ったけれど、わからないことは事実だった。何が奥山をここまで頑なにさせているのか、わからなかった。

「……わかんないけどさ、わかりたいから教えてよ」

「……村上は、友達もたくさんいて、学校が楽しいのかもしれないけど、私にとって学校は、息苦しくて、居場所がなくて、時々ものすごく逃げ出したくなるような場所で……」

前に、大丈夫、と言った時の奥山の表情が、目の前の奥山に重なった。大丈夫なわけがないんだ。ひとりで、誰とも話さず、屋上に逃げて、誰かと口論になっても守ってくれるやつもいなくて。

奥山に伝えたい陳腐な言葉が、浮かんでは消えた。奥山との距離感にふさわしい言葉を探したけれど、どれも届きそうになかった。

奥山とはミュージカルのあと以来ふたりきりで話していなかった。変に意識してしまっていた。 

おれは覚悟を決めた。

「好きだよ」

言ってしまったら、あとはもう勢いでいくしかない。

「おれのなかで、ちゃんと言っとかないと気持ち悪いっていうか。はっきりさせとかないと、奥山との距離がとれないっていうか」

おれは言いながら、最悪にカッコ悪い告白だなと思った。

「村上はセンスないよ。こんな愛想なくて感じ悪くていいとこないやつ好きになるなんて」

腹が立った。というより傷ついた。いいとこないやつなんて、一番言って欲しくない言葉だった。

「そういうこと言うなよ。奥山が自分の好きなとこわかんねぇなら、おれが教えてやるよ」

強い口調で言った。

奥山は軽く微笑んで、でも、どこか寂しげに言う。

「ありがとう。村上は優しいし、話してるとほっとするけど。私がだめなの」

「どういう意味?」

おれはできるだけやわらかい声で聞いた。

「村上のこと好きなのかもしれないけど。本当に好きなのか自信がない」

奥山はなにかを必死に我慢しているようだった。無理してポーカーフェイスを保っているように見えて、触れれば壊れてしまいそうに思えた。

「奥山はさ、カッコつけすぎなんだよ。人を好きになるって、たぶん、カッコ悪くて、情けなくて、それでもどうしようもない気持ちなんだと思うんだ」

おれが言うと、奥山は表情をゆるませて、笑った。

「くさいセリフ」

笑われても不思議と腹が立たなかった。奥山が笑ってくれて単純にうれしかった。

奥山はなにかを考えているようだった。なにを考えているかはわからなかったが、真剣に考えてくれていることはわかった。

おれはなにも言わなかった。10秒ほどだったのだろうが、とても長く感じられた。

奥山はふっきれたように、顔をはっきりと上げて、おれの目を見る。

「村上となら、大丈夫かもしれない」

奥山とつきあおうと思って告白したのだが、いざOKされると、現実味がまったくなかった。

信じられない。夢でも見てるんじゃないか。

なにか言わなければならないと思い、言葉をさがした。奥山を安心させられる、おれの言葉を。

おれは、できるだけ余裕があると見えるように、軽く微笑んで優しいトーンで言った。

「大丈夫だよ。おれ、カッコ悪さには自信あるから」

学祭休み最後の日、おれは昼すぎの横浜駅の改札前にひとりでいる。

集合時間になっても、彼女は現れなかった。

おれは柱に寄りかかって文庫本を読みながら、彼女を待っていた。同じ行を5回くらい繰り返し読んだところで、これ以上読んでも頭に入ってこないなと思い、ジーンズの後ろのポケットにしまった。どうやら緊張しているみたいだ。

暇つぶしに彼女が遅れている理由を考えてみることにした。彼女はスマートフォンを持っているから、遅れるのであれば連絡がくるはずだ。こないということは、家にスマホを忘れたか充電し忘れたのだろう。それで電車を逃して、家にスマホを取りに帰るより、こっちに来る方がいいと考えたのだ。我ながら完璧な推理だ。

人の波がおれのわきを通り過ぎていった。電車がもう1本行ってしまったようだ。

おれは昨日のメールを確認した。集合時間と集合場所はあっているようだ。たぶん、家に帰るか迷っているうちに、もう1本逃してしまったのだろう。

「今、どこ?」みたいなメールを送ると、遅刻をとがめているように思われるかと思ったが、おれはとりあえずメールを送ってみることにした。

まさか途中で事故にあったとか。そう考え始めると、無性に不安になった。彼女が事故にあう情景がありありと浮かんできた。そして、すぐにそれをかき消した。そんなこと、あるはずない。

返信は返ってこなかった。そのまま、改札の方を、ぼーっと眺めていると、改札のむこうから、ユウが走ってくるのが見えた。

「ごめん、遅れちゃった」

そう言って、上目遣いでおれを見あげてきた。さっきまでは、文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたがやめた。

せっかくの初デートだ。ケンカで始めるにはユウはかわいすぎた。

今日のユウは、下はジーンズ、上はベビーブルーのタートルネックの上にミモザ色のセーターを着ている。似合っているとか、似合ってないとか、そういう問題じゃない。反則だ。

「今日、どうする?」

おれは歩きながら、できるだけ声を落ち着かせて尋ねる。

「映画行こう、見たいのがあるんだ」

「ホラー?」

「うん、だめ?」

「全然だめじゃない」

「よかった」

やわらかく落ち着いたアルト。

なんでもない、ありふれた、でも、心があたたかくなる言葉。

おれはその言葉を聞いた時、どうしてみんな、恋愛、恋愛なんて、うるさく言ってるのかわかった気がした。

ユウはホラー映画好きだといっていたから、ショッキングなシーンで、怖がって抱きついてくるとかいう奇跡は起こらないだろうな、などと考える奇跡のように満ちたりた午後。

ユウが隣で笑っている今日という日と、ユウを大切に思う気持ちを忘れなければ、きっと大丈夫だとおれは思った。



次週、11月4日からは「青い暴走」シリーズ第2部「CROSS ROAD」の連載を予定しています。 引き続きよろしくお願いいたします。

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走

2014年08月16日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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