【連載小説】「青い暴走」シリーズ「優しい音」第4話【毎週土曜更新】

更新:2017.9.23

テストを終え、校内は学校祭に向けてざわつき始めていた。ジュンヤは、不愛想な奥山とクラスの企画でも一緒になり……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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連載第1回はこちら


月曜からテスト返却が始まった。

点数を聞かれた時の返事は決まってる。次はがんばるよ。

昼休みに重要なことを思い出した。6限のホームルームまでにお化け屋敷の案を考えなくてはならない。

おれは班員を探した。班はおれも含めて6人。そのうちふたりは仲のいい女子グループで、学校のどこかで女子会をしている模様。さすがにそこに切り込んでいく勇気はないので、とりあえずパス。北川という美術部の女子は風邪かなんかで欠席だった。あとは榎本徹という男子とミス無愛想・奥山だ。

教室では、榎本がいつものメンバーで昼飯を食っている。いつものメンバーっていうのは、榎本と学校祭委員の花村裕孝、花上澄香のカップルと里中春花という女子だった。

「榎本」

おれが声をかけると、榎本が振り向く。榎本の隣の花村もおれの方を見る。むかいの女子ふたりも会話を中断して、おれを見ている。用があるのは榎本だけだから話しててくれていいんだけど、まぁそうもいかないわな。できるだけ早く切り上げよう。

「お化け屋敷の案考えたか?」

この言い方だとおれが考えてないのバレバレだな。学校祭委員ふたりの前で大変申し訳ないんだけど、おれも最近色々大変だったんだ。

「考えてないけど、なんで?」

尋ね返された。いや、なんでおまえそんなに余裕なの?

「トオル、今日の6限で話しあうんだよ」

花村がため息混じりに解説を入れてくれる。

「あっ、そういえばそんなこと言ってたっけ」

まったく悪びれない榎本。

「言ってたっけじゃないよ」

花村、おまえも苦労してんだな。

「花村くん、このバカが話聞かないのはいつものことでしょ」

榎本の向かいの里中から、冗談の響きのない、容赦のない言葉。ナチュラルにバカ扱いされてるのか、榎本。

「まぁ確かにおれはハルカのことになるとバカになったりするけどさ」

……こいつハート強ぇ。

受け流してその流れのまま里中に告白してる。といっても珍しい光景じゃない。榎本が里中のことを好きなのも、里中にまったく相手にされてないこともクラス全員が知ってることだ。榎本が里中に告白するのは日常のひとコマといっていいけれど、こう、なんというか、この距離でこのやり取りを見ると、あれだな。

「すげぇな、榎本」

褒め言葉じゃないけど、こいつはすごい。

「いやぁ、それほどでもねぇけど」

いやだから褒め言葉じゃねぇって。

「村上くんは褒めてるわけじゃないわよ、バカ」

「バカよバカよも好きのうちってね」

得意げに言う榎本。いや、意味わからんから。

「トオル、そのへんにしときな。村上くんはお化け屋敷の相談に来たんだから」

花村が軌道修正してくれる。

「あっ、そうだった。ん~、ヒロタカはどういうお化け屋敷にする予定なの?」

人のアイデアぱくる気満々だな、こいつ。

「なんで僕の班のアイデアをトオルに教えなきゃいけないの」

「いや、そういうことじゃなくて。全体的にどうしたいのかってこと。学校の七不思議っぽくしたいのか、都市伝説っぽくしたいのかみたいな」

たとえはよくわからなかったが、榎本の言いたいことはなんとなくわかった。確かに全体図をどうするかによって、個々の班がどういう仕掛けをするのかも変わってくる。

「ホントのこと言うとね。たぶん、みんな考えてきてないと思うんだ。期末テスト挟んじゃったし」

「じゃあ、どうするんだよ」

「今日の6限で話しあうしかないでしょ」

「じゃあ、考えなくていいってこと?」

「考えてくれた方がありがたいけど、考えてないことも想定してるって話だよ。なかには考えてくれてる人もいるだろうから、そういう人たちのアイデアを元にした方がゼロからやるよりはスムーズでしょ。で、たぶん、文句言う人も出てくるけど、それはちゃんと話しあう日を告知しておいたのにそれまでに考えてこなかった人が悪いって話にできるし」

前の話し合いの時も思ったけど、こいつ結構強引だな。見た目爽やかなのに。まぁでも、多少強引でないと、自分勝手な高校生の集団をまとめるのは難しいのかもしれない。おれはそういうまとめ役的なポジションをやったことがないからよくわからない部分もあるけど、アキラがやってたのを見てたから、意見が欲しい時には何も言わないくせに、意見が欲しくない時に好き勝手話し始める集団のめんどくささは知っている。

「じゃあ、ハルカは考えてきてるの?」

じゃあの使い方間違ってないか?

「なんで私の話になるの」

「いやたとえば、ハルカが雪女やるとかだったら、うちの班は雪女使わない方がいいじゃん? てか、ハルカの雪女やばいな。絶対写真撮る!」

「……雪女やるなんて一言も言ってないんだけど」

「ハルカが雪女やんないなら、おれが雪男やるよ!」

雪男ってお化けとかの類いじゃねぇし。

「勝手にやれば」

いや、榎本おれの班だから勝手にやんないで欲しいんだけど。

「村上、雪男やるぞ!」

「……わかった。まぁ、なんとかするわ」

そう言って、その場をあとにした。アイデアは何もなかったけれど。たぶん、このあとは夫婦漫才(?)の無限ループになって、生産的な話はなされないだろうから。まぁ、それはそれでおもしろいかもしれないけれど。

少し迷ったが、奥山を探すことにした。なにかアイデアを持っているかもしれない。掃除をさぼることはないし、日直の仕事も無難にこなす。責任感はあるはずだ。

食堂かと思い、むかってみるが、奥山の姿はない。

そういえば、奥山が昼休みにどこかに行くのを何回か見たことがある。

どこだ? 思い出せ、ジュンヤ。

たしか、教室を出た奥山は階段を上に行った気がする。上の階は高2と高3の教室だ。でもあいつ、部活はやっていないはずだ。部活とか関係なしに仲のいい先輩がいる? そういうタイプのやつじゃないだろ。とすれば、残る可能性は屋上だ。

昼休みはあと15分残っていた。

© akiyoko – Fotolia

部活をやめて以来まともに運動をしていない体で、階段を一段飛ばしに駆け上がる。屋上は階数でいうと7階にある。途中で、何人かの生徒とすれ違う。当たりそうになったら、斜めに飛んでよける。5階を過ぎたあたりからスピードが落ち始める。6階を過ぎると呼吸がはやくなった。

屋上に入るドアには立ち入り禁止の札がついていた。自殺防止のためかなんかだろう。ノブをひねる。鍵はかかっていないようだ。 

3年ぶりに足を踏み入れた屋上は、まったく変わっていなかった。屋上には何も無い。ゆえに、来る理由もない。そもそも立ち入り禁止だ。中学に入りたての若かりし頃のおれとアキラとリョウスケが興味本位で足を運んだだけの話。

よく晴れていて、生ぬるい風が吹いていた。

屋上に、奥山はいた。

緑色のゴムみたいな材質でできた屋上に寝転んで、音楽を聴いている。

女子にしては長めのスカート丈。ひざが出るか出ないかくらい。よかった。パンチラとかしてたら、無駄に気まずい。

奥山の頭の横で、コンビニの袋が風を受けている。昼飯が入っているのだろう、飛ばされないようにペットボトルのカフェオレがおもしにされている。

おれはゆっくりと近づいた。奥山がおれに気付く気配はない。

前に下校中の奥山に話しかけて見事にスルーされたことを思い出して、足が止まる。でもここまできて引き返すのはどうなんだ。そういえば、この前話しかけた時も話しかけるか引き返すか迷ってたんだよな。

前にスルーされたのに、なんでここまで来たのか。

きっと、安藤の話を聞いたからだ。昔は明るかったと聞いて、奥山の印象が変わったんだ。少しだけ、でも確実に。安藤とふたりの時は話せるのであれば、まったく会話が成り立たないやつではないはずだ。

奥山にむかって足を踏み出す。

どうやってこちらの存在に気付かせるか案を練ってみた。近づいて、肩のあたりを叩いて、なに聴いてんの? とクールに聞いてみる。あくまでクールに。それか、奥山のイヤホンをとって、話あんだけど。こちらも、あくまでクールに。悩んだ挙句、前者を選択することにした。

奥山の近くに行き、しゃがみこんだ。肩を叩くというか、つつくように軽くふれた。

おれにつつかれて、奥山はめんどくさそうに目をあける。いつもは何を考えているのかよくわからない奥山だが、今は手にとるようにわかる。あんた、何?

「なに聴いてんの?」

クールにはほど遠い聞き方だった。奥山はイヤホンをしたままで、聞こえていないようだった。目が、なんであんたここにいんの、と言っている。高圧的な目だ。下から見あげられているのに、見おろされている気がする。

「なに聴いてんだ?」

さっきよりクールに言えた。奥山はめんどくさそうにイヤホンを取った。

「なに?」

いらだちを隠さない奥山。

なんで同じセリフを三回も言わなきゃならないんだと思う。それでもおれは根気よく聞いた。

「なに聴いてんだ?」

「ブルーハーツ」

体を起こして奥山は言った。

「ロックじゃんか」

「私がロック聴いちゃいけないの?」

「いや、いつもクラシック聴いてると思ってたから」

おれはいってから、奥山がいつも音楽聴いてるのを見てた、みたいにも聞こえかねないなと思った。ジュンヤ、ストーカー説。

「そんなこと言うために来たの?」

3回も同じこと言わせたのはどこのどいつだと思いながら、おれは本題を口にした。

「クラス企画のことでさ」

そこまで言って、おれ、敬語使ってないなと思った。

おれは基本的に女子と話すときは敬語だ。軽く見られるのが嫌だから。もう癖になってしまっている。

奥山はブレザーのポケットから紙を取り出した。おれに無言で手渡す。

そこにはスペースの使い方と客のびびらせ方が書いてあった。奇抜ではないが、大すべりもないアイデアだ。

かなり詳しく書いてあったが、おれの言葉にすると、冷たい系のものでヒヤッとさせて、ゾンビみたいなカッコをしたやつが驚かせるみたいな感じだ。それがゾンビの格好の絵から、それにかかるであろう材料費など、それはもう細部にまでこだわって書かれていた。スペースの使い方は、どんなバカでもわかるほど丁寧でわかりやすかった。

屋上に来てよかった。仮に、おれが午後の時間を使って考えた恐ろしく幼稚なアイデアがあったら、奥山は自分のアイデアを封印したかもしれないから。

奥山は、もう話すことはないとでもいうように寝転んだ。

ほかに用事はなかったが、このまま帰るのも微妙な感じがしたので、話を振ってみることにした。

「ミュージカル、成功するかな?」

返事はなかった。

「ロックとクラシックが上手くかみあえばいいんだけどな」

「混ぜればいいってもんじゃないでしょ」

「わかってるよ、そんなこと。でも、上手くかみあったら、クラシック好きじゃない人もクラシックのよさに気付くかもしれない」

おれが言うと、奥山は目をあけて睨みつけてきた。

「なんでクラシック好きじゃない人が多いと思う?」

退屈だからとか、眠くなるからとか、そういった言葉を飲み込み、慎重に言葉を選んでおれは言った。

「聴きなれてないからじゃないかな」

「それもある。テレビのゴールデンで毎日のようにクラシックの番組やってたら、もっとクラシックファン増えるから。好きだからよく聴くんじゃなくて、よく聴くから好きになる」

「で、みんなにクラシックを聴いて欲しくて作曲していると」

奥山の口が開きかけて閉じる。会話のテンポが少し遅れる。しかし、それも一瞬のことだった。奥山はすぐに調子を取り戻す。

「私はそもそも、音楽をジャンル分けするのがナンセンスだと思う」

「大事なのはクォリティーだと」

「……とにかく、ジャンル分けするやつはわかってない」

わかってないという言葉を、最近言われまくっている気がする。否定されている気がして腹が立った。

「おれは、ジャンル分けするのは悪くないと思う。学校でむかつくことあったらロック聴いてストレス発散するし、リラックスしたい時はクラシック聴くし。もちろん、気持ちがハイになるクラシックもあるけど。おれが言いたいのは、頭が痛い時と腹が痛い時に使う薬は違うだろってこと」

奥山は眉間にしわを寄せた。普通、眉間にしわが寄ると顔が険しくなるはずなのに、奥山の場合、いつものきつさが消えて、すこし幼い表情になった。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

「先に行って」

「なんで?」

「一緒に行って勘違いされるとめんどくさいでしょ」

そういうことか。

「奥山先行けよ」

「わかった」

奥山は立ち上がって、制服をはらい、屋上の出口にむかう。

おれは、言い訳はトイレ行ってましたでいいかと考え、寝転んだ。奥山が屋上に来る理由が少しだけわかった気がした。

夏から秋にかわるくらいの陽気はちょうどいい暖かさだった。目をあけていると、陽の光が眩しかったので、目を閉じる。あと5分くらいはこうしていてもいいだろう。

次の週から学校祭準備期間になった。この一週間は授業がなく朝から夜まで学校祭の準備をする。

まず、教室のレイアウトを変えなくてはならない。授業を受ける場所ではなく、お化け屋敷にするのだ。

おれと榎本は、ベニヤ板やタルキを運ぶ役をおおせつかっていた。体育館裏にある倉庫から教室まで、重たい木材をひたすら運ぶ役である。

倉庫の前には行列ができていた。他のクラスからもベニヤ板やタルキを取りに来ているのだ。木材の配布は今日しかない。これから数時間はずっと行列ができるだろう。配布する係のやつも大変だ。

榎本とはそんなに親しいわけじゃない。嫌いとか苦手とかそういう感情はないけれど、ほとんど話したことがない。なんの部活に入っているのかも知らない。じゃあ、部活は何やってるんだ? とか聞けばいいのかもしれないけれど、部活の話はしたくない。なんで野球部やめたんだ? と聞かれても困るからだ。

榎本のイメージは、里中春花に小学生みたいなちょっかいを出しているやつという感じだ。くだらないことを毎日毎日飽きもせず。それでも、本当に好きなんだなというのはわかった。

「ミュージカルやるんだってな」

行列の最後尾に並ぶと、榎本は唐突に言った。

「え?」

思わず聞き返してしまう。

「ミュージカルやるんだろ?」

企画のことは、参加メンバー以外は知らないはずだった。軽音部の部員には話した方がいいかとも思ったが、参加させろと言われるだろうということになって話していない。

榎本は特別にすごい情報網を持っているというやつじゃない。その榎本が知っているということは、相当数の生徒が知っていると考えた方がいいだろう。軽音部への説明会を検討した方がいいかもしれない。

「どんな感じで噂がまわってるんだ?」

「村上と山下がミュージカルするって聞いたけど。あと、うちのクラスの奥山も参加するって」

奥山の名前までまわってんのか。違うところでは、リョウスケとか安藤の名前も出てるかも知れない。もしかしたら、藤波たちの名前も。そのメンバーを結びつければ、バンド演奏をすると予想するやつも出てくるかもしれない。食堂でミーティングしていたのを見た生徒が噂を流したのかもしれない。集まっている時間も短かったし、回数も2回だけだから大丈夫だと思っていたが不用心だったか。

学校っていう閉鎖的な環境で噂が一度まわってしまったら、それをなかったことにするのは難しい。教師が何も言ってきてないってことは、まだ教師のところまでは噂がまわってないってことか。それともすでにまわってるのか。まわってないにしても、時間の問題だろう。

嘘をついても仕方がない状況だ。ついても仕方がない嘘はつきたくない。

「事実だよ」

「奥山って、ちょっと怖くないか?」

ミュージカルについて聞かれるだろうと予想していたのに、榎本の話は意外な方向にむかった。

「怖いか?」

「怖い」

「意外だな」

榎本はきょとんとした表情をする。そんなに話したことないやつから意外だとか言われたら、こいつ何言ってんだってなるかもしれない。

「里中にあんだけ足蹴にされても心が折れないのに」

おれの言葉に、榎本は納得がいったような顔になる。

「ハルカのあれは愛情表現だから」

本気で言ってるのか、ジョークで言ってるのかわからない表情の榎本。

「……おまえ、ドMだな」

「いや、SとかMというより、好きなんだよね」

「……は?」

言っている意味がわからない。

「マジで好き。だからSMじゃなくて、MSだな」

……すげぇ。リョウスケもぶっ飛んでると思ってたけど、こいつも相当やばい。何がすごいって、ミュージカルの話から里中の話への飛び具合がすごい。というか、里中の名前出したのおれじゃん。おれのミスか。

これから1週間、こいつと一緒に作業するのか。不安だ。うちの班の男、おれと榎本だけだし。というか、こいつ班長だし。奥山はそんなにコミュニケーション強い方じゃないし、他の3人はほとんど話したことないやつだし。この班に、おれの味方はいないのか。


次回:9月30日土曜更新予定

第5話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走

2014年08月16日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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