【連載小説】「青い暴走」シリーズ「優しい音」第3話【毎週土曜更新】

更新:2017.9.16

安藤のバンドのドラム大沢にリークをした人物を探すことを依頼されたジュンヤは、アキラとともに調査を開始する。 調査を進めていく中で、アキラは目星がついたようで……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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連載第1回はこちら


「ちょっと待て、そんなの教師がばらすわけないし、リークしたやつもばらすわけないから無理だろ」

「普通ならな。でもおまえ、こういうの得意なんだろ?」

「どんなデマだよ」

「松本が言ってたぞ」

リョウスケ。近くにいなくてもめんどくさいやつ。おれが中学時代に運動部会のトラブルを解決してたことを言ったのかもしれないけれど、今回はほとんど知りあいがいないフィールドだ。まったく話が違う。過度な期待はもたせない方がいいだろう。

「悪いけどそれはデマだ」

「そうなのか。まぁ、いずれにせよ、それ以外の条件ではおれは参加しない」

これは厳しそうだ。安藤が諦めるのも無理はない。

ひとつ疑問が浮かぶ。大沢のしたい話がこれなんだとしたら、なんで安藤を退席させたんだ? 

考えられるのは、安藤は犯人捜しに反対してるって可能性だ。犯人捜しなんて意味ないっていう安藤と、やられたらやり返す派の大沢。

「おれが仮にリークしたやつを見つけたとしたら、そいつをどうするんだ?」

大沢がそいつを他の軽音部といっしょにリンチにかけるのであれば、後味が悪すぎる。もしそうであれば、仮に見つけたとしても、おれは黙っているだろう。

「時と場合によるな」

のらりくらりとかわされている気がするが、そりゃそうだよなとも思う。

「リンチみたいなことにはならないか?」

「てことは、リンチをしないなら引き受けるってことか?」

大沢の口調から、特にやり返すことにこだわっているわけではないように思えた。

「とりあえず詳しい経緯を聞かせてくれ」

話だけでも聞いておけば、あとでなにか思いつくかもしれない。実際に捜すか捜さないかは、話を聞いてから考えればいい。

「詳しい経緯っていうのは?」

「こういう場合、時間が経てば経つほど真相がわかりづらくなる。事件があったのは1ヶ月以上前だ。当然、自分で調べたんだろ?」

「おれなりにはな」

「その話を聞かせて欲しい」

おれが強い口調で言うと、大沢は話し始めた。

「……実は、チケットの販売段階で、他のバンドともめてな。うちのバンドはチケットを無料配布してたんだよ、安藤の方針で。そのせいで他のバンドのチケットが全然売れなくてな。それでちょっとケンカみたいになって、その後で教師にリークされた」

「じゃあ、その一緒にやるはずのバンドが怪しいんじゃないのか?」

「おれもそう思ったんだよ。で、向こうを問い詰めたら、向こうは俺達の方が怪しいとか言って話にならなかった」

「そもそも、リークされたってのは確かなのか?」

たとえば、チケットを売っている現場を教師に直接目撃されたとかそういう可能性もあるんじゃないだろうか。

「それは間違いない」

「なんで言いきれる?」

「教師側の情報量の多さ」

教師がカマをかけてきたにしては、情報量が多すぎるってことか。それなら、どういう形にせよ、誰かが教師に情報提供したことになる。

大沢の話はこれで終わりなのだろうか? これまでのところだと、安藤に聞かせたくない内容だとは思えない。しいて言うなら、安藤の方針でチケット無料配布してたのは初耳だったけれど、どちらかと言うと、安藤の評価を上げる内容のような気がする。

「さっき安藤の方針でって言ってたけど、大沢は違う方針にしたかったってことか?」

「さすが、細かいところ突いてくるな」

「お世辞はいいから」

「半分賛成、半分反対ってとこかな。今の軽音部のレベルじゃ、ライブで金を取れないから、今回は無料にするのは賛成。でも、なんでもかんでも無料にすりゃいいってもんじゃない。どっかしらのタイミングで金になるようにしないと活動を続けてくのが難しくなる」

ということは、安藤の方針としては、これからも無料でチケットを配ろうと思ってるってことか。その点で、どの程度かはわからないが、大沢と安藤は対立していたと。さっき安藤を退室させたのはそういう対立を避けるためか。

「だいたいわかった。見つかったら連絡する」

「当てでもあるのか?」

「正直ないけど、まぁ考えてみるよ」

そう、いつもそこから始まる。何も手がかりがないところから考える。中学時代もそうやって問題を解決してきた。

「そうか。おれの話はこれだけだ」

そう言って、大沢は帰ってしまった。勝手なやつ。

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アキラに電話して今後のスタンスを相談することにした。端的に言うと、リークした犯人を捜すか捜さないかということだ。

「なるほどな」

おれが大沢とした話を一通りすると、アキラはそう言った。たぶん10秒くらい待てば考えをまとめるだろう。

少し待つと、アキラは口を開いた。

「もうちょい調べた方がいいのは、学校側の対応だな。チケットを売っていたやつらを全員特定したのか。500円で売っていたやつらと無料で配っていた安藤たちへの対応は同じかどうか。今回の件は安藤たちに非はないし、ライブに参加する予定じゃなかった軽音部員にしてみれば、とんだとばっちりだ。それに今回問題になってるのはチケットを有料で売っていたことであって、無理矢理売りつけていたとかそういうことが問題になってるわけじゃない。正直、軽音部の活動を禁止するのをこれ以上のばしたり、学校祭でのライブを禁止したりするのはやり過ぎな感も否めない。ライブ会場のキャンセル料だって、生徒側が払ってるだろうから、学校側の一方的な取り決めで金銭的負担が発生してるって見かたもできるしな」

「てことは、犯人捜しをする方向でいいのか?」

「犯人捜しをするっていうよりは、真相を明らかにするって方向だな。目的は犯人を見つけることじゃなくて、大沢を参加させることと、軽音部の活動禁止令を撤廃することなんだから。それに」電話のむこうでアキラがニヤリと笑う気配。「学校側の対応に問題があれば保護者をアジテートするっていう手もあるしな」

モンスターペアレンツに徒党を組ませて抗議活動をさせるってことか。へたに親が出てくるとめんどくさくなると思うんだけど、アキラはコントロールする自信があるんだろう。

「それにはまず、保護者に話がいってるかってとこからだな」

「おっ、やる気だな、ジュンヤ」

「ちゃかすなよ」

おれが言うと、アキラはめったに聞けないような声で笑う。顔を見なくても、口を開けて笑っているのがわかる。学校じゃ、まずお目にかかれない。

「ホント、おまえといると退屈しねぇよ」

次の日、おれとアキラは放課後の食堂で藤波を待っていた。今回の企画の参加者であるし、なんといっても軽音部の元部長だ。今回の件に関して、かなり詳しいことが聞けるはずだ。

食堂に、他の生徒の姿はない。

おれたちは、入口に近い6人掛けのテーブルに陣取っていた。藤波が来ればすぐにわかる場所だ。おれはテーブルの上にスクールバッグを投げ出し、枕代わりにして突っ伏していた。アキラはおれみたいに気を抜いたりはしない。隙を見せない。授業中でもアキラが居眠りをしているのを見たことはない。

アキラの視線は食堂の入口を向いている。食堂の前を女子生徒が通る。ネクタイの色から中学生だとわかる。中学生女子はおれとアキラの方をチラリと見ると、すぐに目を逸らし、歩くスピードを上げた。

「アキラが睨みつけてるから逃げてっちゃたじゃん」

「おれよりおまえの方が眼つき悪いだろ」

確かに眼つきが悪いとはよく言われる。無駄に身体がでかいせいもあって、危ないやつと思われているふしもある。実際は好青年なのに。

入口に見慣れた姿が見えた。藤波だ。おれたちを見て、手を振っている。無駄に爽やかだなぁ。あんまりおれのまわりにはいないタイプだ。おれのまわりにいるのは、悪いやつ(アキラ)と変なやつ(リョウスケ)だからな。

「お待たせ」

そう言いながら、藤波はおれとアキラの対面の席に座る。

「メッセージで送りましたが、軽音部の活動禁止についての話を聞かせてもらっていいですか?」

「もちろん。僕に協力できることならなんでもするよ。無関係だった山下くんと村上くんを巻き込んじゃってるわけだしね」

藤波はうさんくさいくらいのいい人ぶりだった。演技か、素か。演技だとしたら、何か隠しているか処世術ってことになる。個人的には普通にいい人な気がするけど、それを言うとアキラに鼻で笑われる気もする。おまえは人がよすぎる。そのうち騙されるぞって。

「僕らは安藤から一通り話を聞いたんですけど、もう一度確認の意味でも話していただけますか?」

「改めてそう言われると難しいね。質問に答えるなら答えられると思うんだけど」

照れ笑いを浮かべながら藤波は言う。

「後から聞きたい部分は質問するので一通り話してください」

話していただけますかから話してくださいに変わる。先輩後輩という概念が限りなくゼロに近いアキラ。

「ちょっと整理するから時間ちょうだい」

藤波が温厚な性格でよかった。これで相手が短気なやつだと、アキラに突っかかることがあるからめんどうだ。前に野球部の先輩がアキラに対して、おまえ年下のくせに生意気だぞと言ったことがある。その先輩は3日後には退部届を提出していた。アキラが何をしたのかは知らない。あえて聞かなかった。おれにわかっているのは、学年が上というだけで自分が上だと思うやつはアキラの最も嫌いなタイプだということだ。

藤波は真剣に考えているようだ。藤波の言うように、個別に質問していった方がスムーズにいくはずだが、アキラの狙いもわかる。藤波の口から、おれたちの想定していないようなことが語られる可能性があるからだ。

藤波がリークをした犯人だと仮定してみると、この状況は藤波に考える時間を与えていると取れなくもない。でも、藤波が犯人だとしたら、アキラがメッセージを送った時点で対策を考えてきているはずだから、この時間はあってもなくても変わらない。

そもそも、アキラが協力を求めている時点で、アキラは藤波が犯人だとは思っていない。アキラが疑いを持っていたとしたら、藤波の教室に奇襲をかけて、考える時間を与えずに話を聞くはずだ。もしかしたら、アキラはもう犯人の目処がついているのかもしれない。

「夏休みにライブをする計画があって、7月に入ってからチケットを売り始めたんだ。この時点では、ばれたとしても軽音部の活動が禁止になるなんて思ってなかった。僕だけじゃなくて、みんなそう思ってたんじゃないかな。金銭のやり取りは確かに問題かもしれないけど、先輩たちもやってきたことだし、注意くらいで済むだろうって」

藤波はそこで言葉を切る。アキラは先をうながす。

「夏休みに入る前に、軽音部全員が呼び出されて、そこでチケットの実物を見せられて、活動禁止って言われたんだ。その場でも反論したし、後日改めて抗議にいったけど話を聞いてもらえなくて。高2の一部は特に納得いかなかったみたいで犯人捜ししてたけど見つからなかったみたいで、そのまま夏休みになって、軽音部全体では集まってないね」

それで今に至るってわけか。コンパクトにまとめてくれたな。あとはアキラがどれだけ質問するかってところか。

「じゃあ順番に聞いていきますね。まずライブの発案者は誰だったんですか?」

「発案者というか、発案バンドは安藤さんのところだよ」

そうだったのか、とアキラを横目で見るが、特に驚いた様子はない。アキラにとっては想定内、あるいは予想通りといったところだろうか。

なんとかして学校祭でライブをしようとしていたのは、自分たちがやりたかったのももちろんあるだろうけれど、自分たち主催のライブのせいで軽音部が活動禁止になってしまったことへの罪悪感もあるんだろうな。

「参加バンドは全部軽音部ですか?」

「うん。5バンド参加して全部軽音部だったよ」

「軽音部は全体で何バンドあるんですか?」

「解散したり再結成したり安定しないけど、今年は10バンドちょっとって感じかな」

ということは、軽音部の半分くらいが参加しているライブだったのか。参加する予定じゃなかったバンドにしてみたら、自分の知らないところでライブの企画が持ち上がって、気がついたらバンド活動禁止になってたってわけか。そりゃ納得いかなくて当然だわな。

「チケットには出演バンド名なんかが書いてあるんですか?」

「書いてあるね。あとは場所と時間と値段」

だとすると、教師は出演バンドを特定していたということになる。それなのに出演していなかったバンドまで活動禁止になったのはなんでだ? むしろ、チケットを売っていなかったバンドだけ学校祭に出演ということになれば、チケットを売っていたやつらには効果があるんじゃないだろうか。どのバンドに誰がいるってのがわからなかったのか? いや、それは調べればすぐにわかることだ。

「保護者に話はいってるんですか?」

「夏休みに、保護者説明会があったみたいだよ」

「丸くおさまったんですか?」

「丸くおさめこまれちゃったみたいなんだよね。あとはバンドやってるようなやつって、自分の親が学校来るの嫌がるやつ多いから、そんなに出席率高くなかったみたいなんだ」

だとすると、アキラの保護者アジテート作戦は難しいかもしれない。個人的には、そういう作戦は好きじゃないからそれでいいんだけれど。

「学校祭って親にとっても、子どものステージ観れる機会じゃないですか。誰も抗議しなかったんですか?」

「高2はもれなく全員ライブ参加予定者だったからね。チケットのやり取りでトラブルもあったし内申書とかのこと考えたら強く言えなかったんじゃないかな」

トラブルっていうのは大沢が言っていたことだろう。

いや待てよ。内申書か。逆にライバルの内申書の点を落とすために誰かがリークした可能性はないだろうか?

……いやいや、広げ過ぎだ。まだ情報が少なすぎる。

「安藤さんがやりたいこともわかるんだけどね」

藤波がひとりごとのように言う。

「無料でチケット配布することですか?」

「うん。僕たちのライブがお金取れるレベルじゃないとは思うし、安藤さんたちのこころざしは素晴らしいと思うけど、他のバンドとしては面白くないよね。無料配布してるバンドがあるのに、自分たちのところはお金取ってるって」

「藤波さんは、無料で配布するべきだと思ってるんですか?」

アキラは事実ではなく藤波個人の意見を聞いた。

「僕個人の意見を言わせてもらえるなら、安藤さんたちと他のバンドの違いっていうのは、たぶんライブをどうとらえるかっていうのが違うんじゃないかなと思う。安藤さんたちは自分たちの演奏で魅せるっていうことをメインに考えてて、他のバンドはみんなで盛り上がるパーティみたいなとらえかたをしてるんじゃないかと思ってて、パーティしたいならライブなんかやらずにカラオケでも行けっていうのもわかるんだけど、ライブを企画してやるっていう面白さもあるからね。だから僕個人の意見はどっちつかずになるけど、やるとしたらもっとコミュニケーション取った方がよかったなと思う」

「カラオケでも行けっていうのは安藤が言ったんですか?」

アキラもそこに引っかかったか。おれも、安藤がそういう言い方をするとは思えなかったんだよな。

「ごめんごめん。ああいう言い方したら誤解するよね。カラオケでも行けって言ったのは大沢くん。そのせいでちょっとケンカみたいになっちゃってね」

「安藤たちはふたりだったんですよね? それを高2のバンドがかこんでたら、ケンカというよりはリンチに近いと思いますけどね」

もはや質問をしていないアキラ。リンチっていうのは言い過ぎだと思うが、これはあえて過激な言葉を使って藤波の反応を見ているんだろう。

「そうだよね。僕も止めたんだけど、そういう場を作っちゃった時点で同罪だよね」

アキラの挑発に乗る気配はない。というより、アキラの言葉をほとんど事実として受け止めて、自分のミスを認めている。大人だなぁと感心した。というより大人過ぎる対応で逆に怪しいくらいだ。おれはあと1年でこれぐらい大人になれるだろうか。即答するけど、まず無理だ。

藤波は視線をテーブルの上に落としている。

太ももを指で弾かれる。アキラからのサイン。フォローいれろ。

「安藤さんも、藤波さんが止めてくれたと思ったから今回誘ったんじゃないですか」

急ごしらえにしては、悪くないフォローだと思う。

藤波は顔を上げる。

「藤波さん、チケットの払い戻しはしたんですよね?」

「もちろんしたよ」

「全部ですか?」

「もちろん全部」 

「教師が持ってたチケットは確実に実物だったんですね?」

「複製された可能性はないかってこと?」

「はい」

アキラが考えているのは、軽音部に恨みを持つなにものかが、チケットを入手して複製して、その複製を教師に流したっていうことか。確かにそれなら払い戻しの時にチケットを持っていれば疑われることはない。

「うーん。そう言われると絶対とは言えないけど、十中八九実物だと思うよ。もちろん複製できないこともないけど、コピー用紙とかじゃなくてある程度ちゃんとした紙使ってるし、複製するくらいならもっと楽な方法いっぱいあるだろうし」

藤波の言う通り、かなり回りくどいやり方だ。ものすごく単純に言えば、チケットを教師に抑えさせることが目的なら、チケットがあることをリークして、手荷物検査でもさせればいいのだ。

「ありがとうございます。おかげで今回の件は把握できました」

「……そうかな。なら、いいんだけど」

「はい。ミュージカル成功させましょう」

そう言って、アキラは右手を差し出し、藤波と握手をする。

藤波はおれとも握手をして、食堂を去って行った。

「藤波さんは、シロだな」

藤波の姿が消えたのを確認して、おれは言う。

「あぁ」

「なんかわかったのか?」

「あぁ」

言葉を待つが、アキラはそう言ったきり口を閉じる。

「なにがわかったんだよ」

待ち切れず、先をうながす。

「大沢の参加は諦めた方がいいってことだな」

「なんだよ、それ」

こんな中途半端な感じで手を引くっていうのはアキラらしくない。

「じゃあジュンヤはリークしたやつ見つけられるのか?」

藤波の話によれば、軽音部がリーク直後に犯人を捜したのに見つからなかった。大沢も自分なりに捜したと言っていた。それをおれが見つけられるのか?

証拠があるとも思えない。リークしたやつが直接リークしたのであれば、それを聞いた教師は誰がリークしたか知っていることになるが、たとえば手紙のような形で封筒にチケットを入れてリークしたとかになれば、それを受け取った教師でさえも誰がリークしたかわからないことになる。仮におれがリークするとしたら、手紙は直筆では書かない。日頃から、生徒のテストや宿題を見ている教師であれば、筆跡で見破る可能性があるからだ。

「アキラは見当ついてると思ってたんだけど」

「ついてなくはない」

こともなげに言うアキラ。

「じゃあなんで諦めるんだよ」

「証拠がない」

「捜してすらないじゃんかよ」

「じゃあ捜す意味がない」

「じゃあってなんだよ、じゃあって」

言いながら、アキラが言いたいことはわかっていた。おれたちが犯人捜しをしたとして、その結果が後味悪いものであれば意味がない。ということは、アキラはこの事件の真相が後味悪いものだと見当をつけていることになる。

「ジュンヤが四方八方丸くおさめるっていうんなら手伝うけどな」

ウルトラC級の無茶ぶりだ。リークしたやつを過剰に傷つけず、大沢を納得させてライブに参加させ、ミュージカルを成功させて、結果として活動禁止撤廃を実現する。手段を選ばなければできないことはないかもしれないけれど、結果として誰かしらが傷つく可能性が高い。

「まぁそういうことだから、そっちはジュンヤに任せた。おれは活動禁止撤廃の方に専念するわ」

……そう言われてもなぁ。

その晩、リョウスケから電話がきた。

「ジュンヤちゃん、話し合いどうだった?」

「話し合いって誰との?」

「両方」

大沢と藤波ってことか。情報の早いやつだ。

「ってかおまえ、大沢にめんどくさいこと言うなよな」

「めんどくさいことって?」

「犯人捜しが得意とかどうとか」

「えっ、得意じゃないの?」

「得意じゃねぇよ」

おれにできるのは、ハッタリをかますことくらいだ。それだって別に得意なわけじゃない。それくらいしかできることがないからやってるだけだ。結果はうまくいったり、うまくいかなくてツケを払わされたり。

「まぁ、そんなことより話し合いはどうだったの?」

おれは大沢と藤波との話し合いを簡単にまとめて話した。リョウスケのことだ。ある程度、話し合いの内容は予測できているだろう。自分の予測と違っていれば質問してくるはずだ。

「なるほどね」

おれの話を聞き終えたリョウスケはそう言った。おおかた予想通りといったところだろうか。

「リョウスケも前に大沢と話してるんだろ?」

「およっ?」

「今回の件について。じゃなきゃ犯人捜しがどうこうって話になんないだろ。そこでおれの名前も出てるってことは、比較的最近、夏休み明け以降に」

「ジュンヤちゃんは鋭いねぇ」

「こんぐらい鋭くなくてもわかんだろ」

本当に鋭いっていうのは、アキラみたいなやつのことだ。

「で、リョウスケが話した時はどうだったんだよ?」

「うーんとね。別に犯人捜すのがどうこうとかそういう話はあんまりしてないんだよね」

「じゃあなんで、犯人捜しがうまいとかいう話になるんだよ」

「だからさ、そういう話をしてないのに、そういう話になったわけよ」

そういう話になった? 話をしたじゃなくて、なった?

「……大沢がそっちの方に話を持ってったってことか?」

「まぁ、そうとも言えるかもね」

だとすると、大沢は犯人を捜して欲しいっていうことか? いや、それはライブに参加する条件として大沢があげていることだから、わかりきっていることだ。

「ようするにさ」おれが黙って考えていると、リョウスケが話し始める。「大沢ちゃんとハニーがただ単にいっしょにステージに立てばハッピーって話じゃなくて、お互い納得したうえでライブしなきゃ意味ないってことだよ。だから、おれがどうこう言ってもしょうがないよ」

変なところで諦めのいいやつだ。

「まぁでも、ジュンヤちゃんなら、なんとかできるかもなぁって」

……結局おまえもおれに丸投げかよ。

気がつくと期末テスト2週間前だった。うちの学校は前期と後期なので、この時期に期末テストがある。

学校全体が勉強モードに入ってしまうため、これから2週間は集まることはないだろう。

テストが終われば、2週間後には学校祭だ。できればテストが終わってすぐに練習に入りたい。脚本作りは、ここからテストまでの2週間の勝負だ。

脚本が完成しなければ、スタートを切ることができない。いくらメインがライブだといっても、最低限観賞にたえるストーリーでなくてはならないとは思っていた。どんなに素晴らしいライブをしても、ストーリーがしょぼければぶち壊しだ。

それと、奥山に言われた言葉が引っかかっていた。ちゃんと脚本を書け。当たり前のことだ。でも、そんなことを言われて、しょうもないものを見せたくはない。

おれは、授業中、必死でルーズリーフに文字を書いた。書いたものは家に帰ってからパソコンに打ち直した。

テスト期間中も、それこそテスト中も、おれは脚本を書いた。おれの問題用紙の余白には、セリフがやたらめったら書かれている。解答用紙に書いた文字数よりも、余白に書いた文字数の方が多いだろう。

一通り書いた脚本は、時間をはかって音読した。素人読みだし、間の取り方もなってないと思うけど、だいたいの時間はつかめたと思う。10分で読めるくらいの脚本になった。

おれの脚本がなんとか形になる頃、期末テストは終わっていた。

みんな晴れ晴れとした表情をしている。

「ジュンヤ、どうだった?」

おれが筆箱をカバンにしまっていると、アキラが聞いてきた。

「無事、完成した」

「なにが?」

「脚本」

「テストは?」

「なにそれ?」

現実逃避。

その日は、ミュージカルのメンバーで食堂に集まることになっていた。

食堂に行くと、おれとアキラ以外の関係者が全員集まっていた。予想通りというべきか、大沢の姿はない。

「ジュンヤちゃん、脚本でけた?」

おれは人数分刷った脚本を渡した。

題名は「MusicWar」。音楽戦争。セリフがあるのはアキラとリョウスケだけ。はじめに、ふたりの会話だけで2つの国の状況が語られる。そのあと奥山とToGetHerが演奏し、アキラとリョウスケがケンカをして、さすらいの旅人みたいな役で安藤が演奏して終わるという話だ。

「いい感じだな」

「うちのバンドは新曲できあがったから、いつでも練習いけるよ」

「うちも大丈夫。ユウは?」

「大丈夫」

「ジュンヤ、この最初の登場のところ、もうすこし詳しく説明してくれないか?」

オープニングは奥山がクラシック曲を演奏して、終わる寸前のところでToGetHerが演奏を始め、奥山の曲をかき消して、2つの国の仲の悪さを表現することにしていた。

「まず、奥山さんはできるだけ有名なクラシックを弾いてください。そこで、観客を引き込みます。で、曲が終わるか終わらないかのところで、ToGetHerのみなさんが演奏を始めてください。かき消すくらいの勢いで。そこもできるだけメジャーなやつでお願いします。演奏が終わったら、アキラに登場してもらう感じで」

アキラはクラシッ国の王子役で、リョウスケはロッ国の王子役だ。ToGetHerの演奏を音がでかいだけだとか、騒音だとかアキラが言って、そこにリョウスケが登場して口論を始めて、決闘だ! という話になる。

「わかった。他になにかある人いますか?」

アキラが聞いた。誰もなにも言わない。

「じゃあ、次に集まる時は通す感じで」

アキラが言うと、奥山は食堂を出て行った。だから、なんか言って帰れって。

「俺たちもスタジオ行きますか」

ToGetHerの3人はこれから練習らしい。気さくな感じで帰っていった。

「ユウ、昔はあんなんじゃなかったのにな」

ToGetHerの姿が消えると、安藤がひとりごとのように言った。

「昔はぶりっ子だったとか?」

アキラが聞く。ぶりっ子の奥山は、正直想像できない。

「ううん。小学校の頃はもっと活発で、クラスの人気者だったな。私も仲良くていつも一緒に遊んでて。ユウはどんなことにも一生懸命で、毎日笑ってたよ。確か、中1から中2にかけてくらいの頃から、あんな感じになっちゃったんだよね」

「奥山と小学校同じだったのか?」

「幼稚園も同じだよ。家も歩いて1分」

「幼なじみってやつか」

「そう。私とふたりの時は普通に話すんだけど……ところでこの前、大沢となに話したの?」

安藤がおれにむきなおって質問してきた。

「なんか、チケットのことリークしたやつ見つけたらやっていいとか言われたけど、たぶん、おれじゃ見つけられないと思います」

アキラから視線を感じるが無視する。

「ありがと。別にいいよ。私は平気だから」

無理しているようには見えないが、どことなく違和感を覚えた。

「安藤さんは、どっちかって言ったら捜して欲しくないんですか?」

おれの質問に、安藤はしばし考え込む。

「……う~ん、捜して欲しくないかな」

なるほど。だとしたら、この前、大沢が安藤を教室から追い出したのも納得いく。

「そうですか。まぁ、たぶん見つからないんで安心してください」

「うん。ありがとっ」

そう言う安藤の表情を見て、おれはきっとなんとかなるだろうと思った。


次回:9月23日土曜更新予定

第4話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走

2014年08月16日
大場諒介
KDP

この記事が含まれる特集

  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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