科学の女神によってどん底から這い上がる、再生ストーリー集
『スキエンティア』は戸田誠二による、2010年に「ビッグスピリッツコミックススペシャル」から出版された1巻完結の作品です。
スキエンティアの意味は、「科学の女神」。本作は、絶望に打ちひしがれる人々が、あたかも女神に手を差し伸べてもらうかのように、科学の力で人生を変えていく物語です。
しかし科学の力で人生を変えると言っても、科学自体はきっかけにすぎません。結局は登場人物たちが大事なことに気づき、自力で成長し、立ち直っていくというのが本作の魅力です。
近未来を舞台とした、科学にまつわる短編が収録されています。
自殺願望のある女性が、四肢麻痺の老女に身体をレンタルする「ボディレンタル」、人を愛せない男性が惚れ薬を試す「媚薬」、娘を亡くした母親が娘の代わりを育てる「クローン」。
それから、うつ病に苦しむ男性が立ち直ろうとする「抗鬱機」、家庭内不和の女子高生が、愛が見えるという薬に手を出す「ドラッグ」、介護用ロボットと最期を迎える男性の話「ロボット」、才能を手に入れる代わりに寿命が短くなってしまう「覚醒機」の、計7編です。
- 著者
- 戸田 誠二
- 出版日
- 2010-01-29
当記事では、テレビドラマ「世にも奇妙な物語」の原作としても使用された、1話目の「ボディレンタル」について触れていきます。
人生に絶望し、何に対しても無感動になり、すべて投げ出したくなったことはありませんか?本作の主人公はまさにそれで、どうせ死ぬなら人の役に立ってから死のうと思い、ボディレンタルを承諾します。
レンタルの依頼をしてきた老女の正体は、IT関係の大企業の社長でした。経験ゼロの主人公の姿になって、働きまくる老女。その様子は主人公の視点から、まるで映画のように見えるのです。時々レンタルが一時停止し自分の感覚を取り戻すと、長年感じていなかった疲労感が……。
老女が快活に過ごすことで、主人公は何かをやり遂げる苦難と達成感を知っていきます。「生きる」ということは、ただ呼吸をしていればいいわけではない、何かに感動することで、初めて人間は「生きる」ということを本作は示してくれているのでしょう。
レンタルが終了したとき、主人公の心には何が残っているのでしょうか。老女の最期と、主人公の表情に注目してみると、きっと生きていくエネルギーをもらえるに違いありません。
鬱状態のどん底から這い上がるきっかけは、レズ風俗!?
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』は永田カビによる自身の実話を描いた作品で、当初はpixivで掲載されていた漫画です。
大学を中退し、フリーター生活を続けていた永田は、気が付けば男性経験なしで28歳を迎えてしまいます。自分を認めてくれる場所がほしい、自分を抱きしめてくれる人がほしい。そのような願望とは裏腹に、息苦しい環境で永田は生活していました。
そんな彼女が目を付けたのはレズ風俗。年上のお姉さんに裸で抱きしめられたレズ風俗での出来事をきっかけに、自分を縛り付けてきたものから解き放たれようと奮闘します。
- 著者
- 永田カビ
- 出版日
- 2016-06-17
タイトルが強烈であるため、本屋で手を伸ばすには少々抵抗があるかもしれません。ですがいざ読んでみると、性的なエッセイというよりも、本当の自分と向き合うことに重点を置いたエッセイです。
作者の永田はリストカットや円形脱毛症、摂食障害などを抱えていました。リストカットをするのは「心の傷を可視化することで人々が自身に課すハードルを低くできる」と考えていたためで、摂食障害の原因は「自分には食事をとるのが許されない」と思っていたからでした。
これほどまで自己肯定感が弱く、人からの承認欲求が強くなってしまった理由は、彼女の母親にあるようです。作中でも触れていますが、永田は母親の存在によって性的な事柄に対して歯止めがかけられていました。
不安定な精神ではありましたが、作者はレズ風俗へ行き、そこで自分の漫画が評価されたことで前向きに成長していきます。世間から見たら大したことはないかもしれませんが、28歳まで希望を見いだせずに生きてきた作者にとっては大きな成功と言えるのでしょう。
主人公が普通、もしくは普通未満な存在であるからこそ、現在苦しんでいる人は自分と重ねて読むことができ、励みになる漫画と言えます。人間関係や自分の価値観で悩んでいる人に読んでほしい1冊です。
思想は十人十色!世界の広さを教えてくれる漫画
『絶望に効く薬』は「週刊ヤングサンデー」で連載されていた作品です。
慢性的に気分が落ち込みやすい作者の山田玲司が、様々な人にインタビューする様子を描いたドキュメンタリー漫画となっています。
忌野清志郎や宮藤官九郎、重松清などといった著名人たちと山田は対談し、「絶望に効く薬はあるのか」という問いの答えを探し求め続けるのでした。
- 著者
- 山田 玲司
- 出版日
- 2013-12-14
万年絶望感を覚える作者が、自身の絶望を癒すために成功談や思想などを聞き、啓蒙してもらうことが本作の趣旨です。1人1話のインタビューで終わることもあれば、1ヵ月分かけてインタビューすることもあります。
しかし、対談相手は十人十色です。山田はインタビューした相手のことを絶対に悪く書きませんが、どうしたって自分とは相いれない考えを持つ人もいたと思われます。
しかし、「人間のどうしようもない部分は、『救い』でもあるんです」と山田が述べているとおり、合点がいかない思想に触れることで、相手もしくは自身の心の異常事態に気付くこともあるのです。
読者も、もし気に食わない話があったとしても、山田のように広い目で「こういう考え方もあるんだ」「そのような環境だとこんな捉え方をするようになるんだ」と見てやってください。それが、あなた自身の心の傷への治療薬を見つけるカギとなり得るかもしれません。
そして本作では、現状のことを考えると心にしこりを感じてしまう読者も、作者と同じ場所に立って自分を癒していくことができます。一気読みなんてもったいないことをせず、つらいときに1人分の対談を読んでみるのがオススメの読み方です。
その1話が読者にとってかけがえのない話となったならば、それはその人にとっての「治療薬」だったと言えます。是非、自分の絶望に効く1話を探し求めてください。