約30年の長きに渉って、強さとは何かを問い続ける名作ボクシング漫画『はじめの一歩』。今回はそんな『はじめの一歩』の魅力を少しでもお伝えするべく、名言と合わせて主要人物をご紹介したいと思います。

『はじめの一歩』は連載開始が1989年、「週刊少年マガジン」誌に連載継続された期間はなんと28年!発表された総話数は優に1000話を越え、2018年2月現在既刊119巻。その連載は今なお続いています。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 1990-02-09
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 1999-10-13
『はじめの一歩』もボクシング漫画として有名ですが、ボクシング漫画と言われて真っ先に思い出すのはやはり『あしたのジョー』でしょう。『あしたのジョー』に限らず、ボクシング漫画とは力の向ける先を知らない不良少年がボクシングと出会い、更正して成長していく、というのがお約束でした。もしくは親がボクサーで、その夢を引き継ぐという展開も。
ところが本作の主人公、幕之内一歩の場合は違いました。彼は小学校から高校のある時期まで、学校でいじめられており、いわゆるいじめられっ子だったのです。運動能力もそれほど高くなく、気弱でぱっとしない少年。
そんな彼が高校の同級生である梅沢にいじめられていた時、偶然通りがかった鷹村に助けられたことで、一歩の運命が大きく代わります。鷹村を通じてボクシングの世界を知り、のめり込んでいく一歩。彼は驚くほどの速さで成長していきます。
弱虫な主人公が強くなる、というのは今でこそよく見る展開ですが、当時としては革新的な設定でした。特に弱々しい少年が、荒々しいボクシングに挑むというギャップは凄まじいものがありました。逆境をはね除けて、力強く逞しくなっていく。この設定は当時、一歩と同じような境遇にあった読者達を強く励ましたことでしょう。
基本的に本作は近代ボクシング論に基づくリアルな作品作りがされていますが、少年漫画らしい必殺技も出てきます。特に∞の字を描いて連続フックを打ち込むフィニッシュブロー「デンプシー・ロール」は、一歩のみならず『はじめの一歩』という作品自体の代名詞的必殺技です。
一歩は決して強いだけのキャラではありません。チャンピオンとなってからでも常に低姿勢、強さを鼻にかけたりしません。そして主人公にありがちな常勝というわけでもなく、敗北の苦さも知っています。一歩が負けた数少ない相手、伊達英二戦は全編通しても指折りの名勝負でした。
「鷹村さん……強いって……一体どんな気持ちですか?」(『はじめの一歩』より引用)
後に強さの1つの頂点、日本フェザー級チャンピオンとなる一歩が、ボクシングを始める契機となった台詞です。これは作品全体を代表とする名台詞であり、突き詰めれば本作のテーマにもなっています。強いとは何か? 強さを極めるということとはなんなのか?
ボクシングを始めて、がむしゃらに突き進み、チャンピオンに上り詰めた一歩。一番強い男に自分がなってみて、彼はどのように感じたのでしょうか?
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 1998-04-15
リーゼントがトレードマークの巨漢。見た目通りに柄が悪く、典型的な不良上がりのボクサーです。一人称は「オレ様」で、自己顕示欲の塊。27歳にもなって中学生のようないたずらを仕掛けるガキ大将のような人物。ただ、天上天下唯我独尊を地で行くだけのことはあり、思い上がるだけの実力を備えた天才でもあります。
現在までのところ公式戦で無敗記録を更新中で、その存在感は作中でも異彩を放っています。その異名は「理不尽大王」。神をも恐れぬ傲岸不遜さ。下ネタが大好きで奔放な女遊びをすることも。強くて勝っているからいいようなものの、そうでなければ単なるろくでなしという酷さです。
「ボクシングにだけは……ウソをつきたくねえんだ」(『はじめの一歩』より引用)
しかし、ことボクシングとなるとひたむきに。曲がった人生を正してくれたボクシングを己の生きる道と思い定めており、ボクシングにだけは嘘をつかないと決めています。鷹村が口を開けば悪態をついてしまう恩師、鴨川会長に対しても、内心ではボクシングを教えてくれること、ボクサーの道を示してくれたことから感謝の念を抱いています。
「どんな練習をしてようが希望に燃えてようが、リングの上には勝者と敗者、光と影しかねえんだ。それが、ボクシングなんだよ」
「王様になって帰ってくらぁ!!」(『はじめの一歩』より引用)
普段はガキ大将として振る舞う一歩達後輩に対しても、時には頼れる兄貴分として、力強い背中を見せてくれます。鷹村が鴨川会長のおかげでボクシングを始められたように、一歩達後輩もそんな鷹村の姿に憧れてボクシングの道に入ったのです。
鷹村の強さは日本に収まりません。WBC世界ミドル級チャンピオンへの挑戦。相手はくしくも鷹村の“鷹”と同じ名前を持つ強敵、ブライアン・ホーク。鷹村以上の天才、鷹村以上の傲岸不遜、鷹村以上の女好き。鷹村は辛くもホークを下し、この1戦を経て、鷹村は文字通り世界へと羽ばたきました。
どんな相手でも、きっと勝って帰ってくる。鷹村は、そう思わせてくれる強さの体現者です。
一歩が表の主人公、鷹村が裏の主人公だとするなら、さしずめ宮田は影の主人公と言ったところでしょうか。同年代の一歩にとって、最大の目標にしてライバル、それが宮田一郎です。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 1997-01-14
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 2007-02-16
第一線で戦う者だけではボクシングの真のドラマは生まれません。一歩や鷹村を支える仲間達が後ろに控えてこそ、試合は白熱します。
「努力した者が全て報われるとは限らん。しかし!成功した者は皆すべからく努力しておる!!」(『はじめの一歩』より引用)
最も忘れてはならないのが、鴨川ジムの長、鴨川会長こと鴨川源二でしょう。典型的な頑固一徹、精神論、根性論を振りかざす齢70歳の頑固ジジイ。しかし、その根底にあるのは科学的に理に適った近代ボクシング理論です。
そんな鴨川会長も元は血気盛んなボクサー青年でした。彼はアメリカのボクシングを独自に研究した近代ボクシングの先駆者でもありました。彼の現役当時にはボクシングはまだ「拳闘」と呼ばれ、公式試合もなかった時代。日本ボクシングの黎明期、不遇の時代に生まれてしまった早すぎる天才と言えるでしょう。
しかし、鴨川会長のその苦しい経験があって初めて今の鴨川ジムがあるのです。不遇を過ごした彼が名トレーナー、名セコンドを勤めて選手を支えるからこそ、一歩や鷹村は自身の全てをリングに置いてくることが出来るのです。
そして一歩の先輩、鷹村にとって後輩に当たるのが青木勝、木村達也の両名。ムードメーカーの青木と、抑え役の木村といった役回り。木村は元は青木とつるんでいた不良で、鷹村を頂点とする鴨川ジム悪ガキ3人衆でもあるので、抑えより煽る方に回ることもしばしば。
「才能のない奴が、あきらめがよくて、どうするんだ!」
「何度……もう何度サンドバックを叩いただろう。ジャブ・フック・ストレート……何百回何千回気の遠くなるほど数を打ち込んだ。全ては……全ては――この一撃のために――!!」(いずれも『はじめの一歩』より引用)
普段コメディリリーフ的な2人。彼らの試合もギャグ要素の多いコメディタッチなものが多いですが、だからと言って盛り上がりに欠けるわけではありません。青木のカエルパンチ、木村のドラゴンフィッシュ・ブロー、どちらも迫力のある得意技です。当たれば一撃必殺なのですが、どうも見せ技的な側面が強いようですが……。
青木も木村も、プロライセンスは持つものの、取り立てて才能のない平凡なボクサー。練習のつらさも、敗北の苦さも知るベテランです。そんな凡人の彼らだからこそ出来るのが、一歩、鷹村の精神的肉体的サポート。彼らなくして、鴨川ジム2大看板の2人はありません。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 1997-04-15
物語を通して成長する者達が数多くいる中、彼だけは特別な存在でした。初登場時から、人としても、男としても、そしてボクサーとしても完成していたキャラ。それが伊達英二です。
快進撃を続ける一歩の前に立ち塞がったのが、この日本フェザー級チャンピオンの伊達でした。デビュー以来負けなしだった一歩の経歴に傷を付けた、あまりにも強い先達。どんなに苦しい状況からでも、諦めることなく強敵を下してきた一歩の敗北は、衝撃的な展開という他ありませんでした。
しかし、それもむべなるかな。対戦時の伊達と一歩では差がありすぎたのです。若い才能と勢いだけでは決して埋まらない絶対的な差。それは経験です。19歳の一歩に対して、伊達は28歳。日本プロボクシング界の平均寿命はおよそ23歳から24歳と言われていますから、28歳ともなると大ベテランということになります。
ボクサーとしてほぼ10年もの開き。単に年上というだけでなく、苦い経験も含んだそれはプロボクサー伊達の完成度を別次元の強さに押し上げていました。
こんなにも強い伊達ですらも、ここまで来るのに平坦な道を順調に歩んできたわけではありません。伊達のプロデビューは19歳。デビュー後は破竹の活躍でしたが、天才との賞賛に驕ることなく、技術を磨くことに努力し続けました。日本フェザー級を制した伊達はさらにOPBF東洋太平洋フェザー級チャンピオンとなり、4年後、ついに世界タイトルへと挑戦しました。
WBA世界フェザー級タイトルマッチ。対戦相手はメキシコの雄、リカルド・マルチネス。強さに邁進した天才、伊達はその試合でなんと惨敗してしまいます。一歩以上の戦績で快進撃を続けていた伊達が、なんと2ラウンドKO負け。そして追い打ちをかけるように、帰国後、妻が第一子を流産していたという悲運が彼を襲いました。
失意の中、伊達は引退を宣言します。以後は義兄の会社に就職し、普通のサラリーマンとして過ごしていました。幸い、第二子は無事に生まれ、幸せな家庭を築いていましたが……手もなく負けてしまった敗戦のショックが、彼の中で燻っていました。
そして3年後。家族の応援に後押しされ、伊達26歳にして日本ボクシング界にカムバック。すでにボクサーとしての平均寿命を過ぎている上、ブランクという厳しい現実に負けることなく伊達は再起し、見事にフェザー級チャンピオンに返り咲きました。それから一歩を含めて4度の防衛戦を成功させています。
全ては無敗の世界フェザー級王者、リカルド・マルチネスと再戦するため。そして絶対王者に勝って、強い自分「伊達英二」を取り戻すため。なんという執念。凄まじいまでのガッツ。彼が主人公であってもおかしくないほどのドラマチックな展開です。冷静なベテランの顔の下に潜むがむしゃらさが、伊達というキャラに熱さの肉付けをしています。
得意技は中距離からの鋭いコークスクリュー・ブロー。そしてその一撃を、ベテランならではの神がかり的なテクニックで撃ち込むハートブレイク・ショット。対戦相手の心臓に衝撃を与えることで、数秒間動きを止めるという伊達の必殺技です。
「骨ならいくらでもくれてやる! ……そのかわりキサマの魂をオレにくれっ!!」(『はじめの一歩』より引用)
自身と経験と天性によって裏打ちされた実力。そこに挫折と苦渋が加わり、伊達英二は隙のないプロボクサーとして完成しました。一歩を倒したことでタイトルを返上した彼は、一度敗れたWBA世界タイトルマッチへ再度挑みます。その熱き挑戦の結末は、涙なくしては読めません。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 1995-08-10
曰く「浪速の虎」、「浪速のロッキー」。数々の異名を誇るこの男こそ、一歩の好敵手。一歩が東日本新人王になった時、同じく西日本で新人王になっていたのが千堂武士です。
一歩と同じインファイターで、彼に勝るとも劣らない剛腕の持ち主。デビュー以来負け知らず。その戦績は一歩と似通っており、全日本新人王戦でマッチアップされる以前から一歩を意識していたようです。
本作には鷹村というずば抜けて型破りなキャラがいますが、千堂もまったく引けを取りません。全日本新人王決定戦で対戦相手が一歩になったと見るや、いきなり敵情視察と称して鴨川ジムにやってくるという剛胆さ。挙げ句、なぜかその場で階級差のある鷹村のスパーリングまでやらかすという暴挙に出ます。
気の優しい一歩とは違って好戦的な千堂。口調こそ荒々しいものの、気を許せば気さくに接する面倒見の良い兄貴肌。学生時代から今に至るまで、一貫して「弱きを助け、強きを挫く」を地で行く男でもあります。鷹村と同じく不良上がりで、強いということにこだわりのあるボクサーです。
その原点は幼い頃に亡くした消防士の父親。彼が強くあろうとするのは、弱い者を助けるため。彼は守るための強さを求めて躍起になり、気付けば関西随一とも言われる不良に。その強さをなにわ拳闘会の柳岡に見込まれ、ボクシングの道に入りました。
そのファイトスタイルはがむしゃらな殴り合い。近代ボクシングより前の、ボクシングが単純な肉体のぶつかり合いだった時代を彷彿とさせるスタイルです。
剛腕で鳴らした一歩と同等のパンチを持ち、一撃の下に相手を叩きのめす強さを持っています。一歩とは実力伯仲。作中では唯一、一歩と2度対戦しましたが2度とも一歩をギリギリまで苦しめました。1度目は全日本新人王決定戦で西日本新人王として、2度目は伊達の返上したフェザー級チャンピオンとして、一歩を迎え撃ちました。
一歩と千堂の対戦は常に苛烈。お互いが全身全霊を振り絞り、限界を超えて相手を上回り、相手が上回ったらさらにその上へ……という死力戦でした。
必殺技は中距離ブローのスマッシュ。本来はフックとアッパーの中間で、守備的に用いるパンチですが、千堂の剛腕にかかれば殺人技と化します。ボクシングセンス抜群で、一歩の必殺技であるデンプシー・ロール破りを無意識にやってのけたほど。
「ワイ……まだ弱かったわ」(『はじめの一歩』より引用)
タイトルマッチ後に呟いたこの一言。これが千堂という男を象徴しています。強いということは、弱さを知っているということ。自らの弱さを認め、それでもへこたれない千堂の器の大きさは計り知れません。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 2005-03-17
間柴了(ましばりょう)。暗殺者、と呼ぶのにこれほど相応しいキャラもそうそういないでしょう。半身の体の前で左拳を振り子のように振る独特の構えは、暗殺者にぴったりのヒットマンスタイルと呼ばれるもの。
年齢的には一歩の先輩である青木、木村と同年代ですが、プロデビューは一歩と同期。一歩も受験したプロテストの時点で異様な気配を振りまいていました。当初はフェザー級で戦い、後に減量苦からジュニアライト級、さらにライト級に上げ、合計3階級を経験している作中では珍しいボクサー。もちろん、いずれの階級でも恐ろしい実力を見せたのは言うまでもありません。
試合内容は残忍そのもの。ぶっきらぼうで人付き合いが悪く、そして凶悪な性格から人には恐れられています。彼が心を開いているのは唯一の肉親である妹の久美だけ。両親を亡くしたことで彼らは2人暮らしで、ボクシングを続けているのも久美のため。チャンピオンになれば多額の賞金を得られるからです。
この久美が間柴という男に深みを与えています。試合は残忍でも単なる悪漢などではなく、私生活では極度の妹思いというギャップ。そしてその妹が一歩と恋仲となっていて、微妙に複雑な人間関係を構築してもいます。
高い身長に見合った長い手足を持っており、その日本人離れした体格を活かした遠距離からの変則攻撃が得意。ヒットマンスタイルから繰り出す、異常にリーチの長い変幻自在のフリッカー・ジャブで相手を翻弄します。「死神の鎌」とも呼ばれる間柴の代名詞的技。そしてフィニッシュブローは高身長から打ち下ろす、右ストレートのチョッピングライト。
その身長は最大の武器であると同時に彼の弱点でもあります。なぜなら、体格が大きければ大きいほど、ボクサーに付いて回る減量問題が深刻になるからです。特に間柴は適性階級より低いフェザー級でのデビューだったので、最初はかなり窮屈だったはずです。その証拠と言えるかはわかりませんが、ジュニアライト級、ライト級と階級を上げてからはタイトルホルダーになるほどの実力を発揮します。
当初は勝つためにはラフファイトも辞さないという、非常に感情移入しにくいキャラでした。しかし、真っ直ぐに戦う一歩との対戦を経て徐々に変化。久美との生活や、彼が普段勤務している運送会社のエピソードによって、印象はがらりと変わりました。
「また出直しだ。なんたってボクシングってのはえこひいき無しだ」
「居心地いいぜ、この世界はよ。やめられねえよな」(『はじめの一歩』より引用)
金のため、生きるため、残忍に徹していたボクシング。間柴の中で、ボクシングに対する価値観が変化したことを象徴する、印象深い台詞です。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 2012-10-17
荒々しいボクシング世界を描いた漫画では、必然的に登場人物も荒くれ者ばかりとなります。一歩をはじめとして例外は何人かいますが、ヴォルグ・ザンギエフもその1人。
ヴォルグは音羽ジムと契約した外国人ボクサーとして登場しました。元はアマチュアボクシングでフェザー級世界チャンピオンに上り詰めた逸材。実力が全てのこの世界で、なんと累計200戦も試合経験を重ねているとか。
見るからに温厚で優しげな青年。一歩にも通じる穏やかな性格をしていますが、リング上ではまるで別人のよう。「野生」と称されるほどの獰猛なファイトスタイルからは、普段の彼を想像することは出来ません。
旧ソ連の貧しい出身。一歩と同じように母子家庭で育ち、母親を守るという強い意識からボクシングを始めました。母親は争いごとや暴力を忌避する人だったようで、ヴォルグの思いと華々しい成果とは裏腹に、あまり良く思われていない様子。抜群に強いのに、ヴォルグからはどこか影を感じるのは、そういった事情があるからでしょう。
激戦を経た一歩とは、その性格や似た境遇から親近感を抱いており、お互い良い友人関係。 鳴り物入りで日本ボクシング界に入ったヴォルグ。A級ボクサー賞金トーナメントでは決勝戦で一歩と戦い、アマチュア世界チャンプの実力を見せつけるも、アマチュア時代には経験しなかった長丁場でスタミナ不足となり敗北。次いで彼が読者の姿を見せたのは、日本フェザー級2位として1位の千堂と戦った時ですが、この対戦は苦いものでした。
「残ってる力なんかありはしナイ。だけど終わりにしたくナイ。ああ……そうか今わかっタ。母さん……ボクは……ボクは ボクシングが好きなんダ」(『はじめの一歩』より引用)
実力で見れば日本フェザー級選手の中でもトップクラスなのに、運命のいたずらか不遇に見舞われてしまうヴォルグ。一歩戦からは自分のボクシングを発見したものの、失意の帰国となりました。
その後は数年間沈黙を守っていましたが、母の死をきっかけにしてボクシングに復帰。一時期はつてを頼って鴨川ジムで再起トレーニングを行っていましたが、アメリカの浜団吉を紹介されて単身渡米していきました。
渡米後は階級を上げてジュニアライト級に。そして、日本では華のあるインファイターに徹していましたが、本来のクレバーなボクサーファイターに転向。ボクシング大国アメリカという舞台で、ついにその才能を世界に発揮させることとなります。
伊達英二以来、2度目の敗北を喫したアルフレド・ゴンザレス戦。一歩はそこからの再起を賭けて、体作りと新型デンプシー・ロールの開発に勤しんでいました。そしてその途中、スパーリング相手の南雲流次を前にして失神してしまいます。
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 2017-04-17
- 著者
- 森川 ジョージ
- 出版日
- 2017-07-14
南雲の実力を計れなかったことで、宮田から突き付けられる故障疑惑。しかしそれは杞憂だったと一歩は流しました。ボクシングとは非常な世界。相性は勿論、体調や諸々の要素が絡んできます。一歩から見た南雲が、あっさり負けたことは彼にとって意外なことでした。
強さとは何かという問いから始まった一歩のボクシング。日本では頂点を極めたものの、その力はまだ世界に通用しませんでした。再び、彼にとって強さとは何かを考える日々。一歩は判定勝ちした板垣、引き分けになった木村、そして勝ちを拾った青木それぞれを見て、再起戦に闘志を燃やしていきます。
そしていよいよ、一歩の仕上がりを見た鴨川会長は決断します。2ヶ月後の試合、メインイベント鷹村の防衛戦と、それを飾るセミファイナル、一歩の復帰戦。
2階級統一王座という、日本人としては前人未踏の領域にいる鷹村。彼らは防衛など眼中になく、ただひたすら上だけを見ていました。誰も寄せ付けない悲壮な姿。一歩はそれを孤独な姿と感じましたが、鷹村はそれを一蹴。
「孤独と言うな。孤高と呼べ」(『はじめの一歩』より引用)
一歩にはそう言う鷹村の心中を推し量ることが出来ません。そしてそれについて考える時間も。再起をかけた一戦に向けて励む一歩。試合相手は若干19歳にしてフィリピン王者となった若きアントニオ・ゲバラ。一歩にとって初となる、サウスポーの使い手です。
様々な思惑が入り乱れる中、ついに訪れる当日。
観衆の注目は当然のように一歩の再起に注がれます。その中には、一歩の好敵手である宮田、千堂、間柴の姿もありました。観客とは違って、彼らの気がかりはもう1つありました。一歩の新たな必殺技――新型「デンプシー・ロール」の仕上がりです。
- 著者
- 森川ジョージ
- 出版日
- 2017-11-17
鴨川ジムの門をくぐってからボクシング漬けだった一歩にとって、惨敗を喫した後の充電期間は苦痛の日々でした。そしてついに訪れた再起戦当日。対戦相手はスラムから這い上がってきたフィリピンのチャンピオン、アントニオ・ゲバラです。
第1ラウンドは互いに実力を推し量る展開。一歩の立ち上がりは上々で、どっしりとしています。そしてついに必殺のウィービングをを見せるのですが、それは従来のデンプシー・ロールとは明らかに異なるものでした。
タテ、ヨコ、タテ、ヨコ……剛腕の横フックから畳みかけるような縦のアッパーは、鍛え直した下半身だからこそ成しうる一撃必殺の応酬です。しかし不運にもゲバラがスリップしたことで不発に終わってしまいました。
その後も一歩は猛然と攻め、弱腰になった相手にクリンチまで使わせます。
一方のゲバラも、フィリピンのチャンピオンです。リーチの差とサウスポーを武器に、一歩に完全にペースを掴ませることはしないのです。まさに一進一退の攻防をくり広げるなか、ゲバラの左フックが一歩のこめかみに……。
新型にこだわる一歩。勝負の行方は?次巻に続きます。
いかがでしたか?今回詳しくご紹介できなかったライバルのなかにも数々の名選手がおり、数え切れない名勝負がありました。『はじめの一歩』にはまだまだ紹介しきれない魅力がたっぷりとあります。それらはぜひご自分の目で確かめてください。