連載開始から既に単行本が13巻まで発売されている『よつばと!』。ゆっくりとした連載ペースでゆっくりとした時間が紡がれていく作品の魅力はどこにあるのでしょう。淡々と過ぎゆく日常がリアルに描かれる世界を改めて確認してみましょう。

夏休みに入る前日から『よつばと!』の物語ははじまります。どこかから軽トラックに乗って「とーちゃん」と一緒に紫陽花市の或る町に引っ越してきた5歳児よつばは、その日から町で大冒険。おとなりの綾瀬家の三姉妹とも早速交流(?)し、新しい毎日を迎えます。
- 著者
- あずま きよひこ
- 出版日
よつばはとーちゃんと一緒に引っ越してきました。でも、とーちゃんと血は繋がっていません。単行本第1巻第6話でよつばの母について訊ねられて、ジャンボがこのように答えています。
「あぁこいつ、ひろわれっ子なんで、かーちゃんいないんだ」(『よつばと!』1巻から引用)
引き続き同巻第7話でとーちゃんが説明するには、このような次第でよつばととーちゃんは親子関係となったそうです。
「俺が外国でひろってしまって、なんだかわからないうちに、育てる事になった」(『よつばと!』1巻から引用)
どうやらよつばは以前、外国にいたようです。よつば自身は恵那によるとこのように証言しています。
「よつばちゃん、ここに来る前はおばーちゃんちにいてねー、その前は島にいたって言ってたよ-」(『よつばと!』2巻から引用)
もしかしたらよつばは何処か海外の島国で生まれた子なのかもしれません。あるいは、保護者と一緒に渡航したものの何らかの理由で保護者と別れることになってしまったところにとーちゃんが遭遇したのか。いずれにせよ、「島」でとーちゃんと出会ったことが窺い知れます。
それが何処の島なのかという問いには、恵那によるとよつば自身が「左って言ってた」とのことです。第4巻でもどこから来たのかという問いによつばがこのように答えています。
「ひだり…」
「ずーっとずーっとひだり…」
「さいごちょっとみぎ…?」
(以上『よつばと!』4巻から引用)
第1巻で恵那がはじめてよつばを見かけたときに「なんかかわった…外国の子…?」と思っていますし、よつばは虎子に「おまえ外人?」と訊かれて「……かもな」と言っています。外国の島出身者であることは確かなようです。ただ、よつばが言う「左」とはどこなのか現在のところ分かりませんし、手掛かりとなりそうな文言もまだ作中にありません。
確かなことは、よつばは現在「小岩井よつば」としてとーちゃんと一緒に生活しているということです。迷子になったら泣いてしまっても「こいわいよつばです」と大きな声で身許を明かします(第3巻第21話)。よつばにとってもよつばは「小岩井よつば」であり、それが5歳ながら既にアイデンティティとして備わっているのです。
よつば自身は自分が6歳だと思っていたけれど実は5歳で(第6巻第36話)、フクロウの大きな目玉や鳥避けの目玉模様を怖がります(第1巻第5話、第2巻第13話など)。ときに電信柱に登ったり木登りしたり、水泳したり、セミやかえるを獲ったり、大雨に濡れたり。よつばにとって毎日がはじめてのことや楽しいことでいっぱいです。
何でも楽しむことができるよつばを指して、とーちゃんが言っています。
「よつばは、無敵だ」(『よつばと!』1巻から引用)
ともに生活しているとーちゃんから見ても「変な奴」だ(第1巻第1話)というよつばは、無敵の5歳児です。ちょっと突拍子もない奇行もあるけれど、周囲の人たちを振りまわしもするけれど、みんなよつばが大好きです。不思議な言動で不思議な魅力を振りまく元気な子供、よつばは毎日元気に目覚めて、言うのです。
「きょうはなにしてあそぶ?」(『よつばと!』第12巻から引用)
「やんだ」という呼び名だけは第1話から登場していたものの、なかなか姿を現さなかった人物です。本名は安田。第30話でよつばにそう名乗っています。下の名はまだ不明です。
「ヤンダは? まだ?」
「あーあいつ用が入ったからこねえって。あいつだめだわ」
「うーす、ヤンダ暑いから来ねえって。やっぱダメだー」
(以上『よつばと!』1巻から引用)
このようにたびたびジャンボから言われながら現れなかったものですから、随分だらしない人物像を思い描いていた人も多かったでしょう。実際に登場したのは第30話でした。金髪痩躯の若者で、外廻りの営業職らしく、これ以降たびたびよつばの家に昼食を摂りに現れます。
よつばはジャンボのことは以前から知っていたようですが、やんだに会うのは第30話がはじめてのようで、自宅に訪れた彼をとても怪しんでいます。とーちゃんの後輩で既に社会人ですが、よつばとは対等な位置で戦うライバルです。一度あげた飴を取り上げたり、カップラーメンを「ほしいか?」と訊いておきながら「でもあげなーい」と遠ざけてみたり、子供じみた意地悪をします。
その上、本気でよつばと喧嘩をして、よつばには完全に敵と認識されてしまいます。稚気溢れると言うよりも、かなり幼稚な喧嘩です。つまり、やんだはよつばと同じ目線で対等にやり合っているということです。かたちは違いますが、とーちゃんやジャンボと同様、やんだもまたよつばを侮ってはいないということでしょう。
よつばに幼稚な喧嘩を売る一方で、子供好きな一面もあります。第11巻第72話では自分のものと言いながらよつばにしゃぼん玉を買ってきて遊ばせたり、第12巻第82話ではキャンプ場でよつば、恵那、みうらの子供組につき合って探検に出掛けたりしています。
大人たちの中で、最も子供組に近い立場と意識でよつばたちと接しているのがやんだです。
初登場は第5巻第30話「よつばとやんだ」。
活発な性格の高校生。第1巻で隣家に引っ越してきたとーちゃんによろしくお願いしますの挨拶をしたりごみ収集場所を教えたり、しっかりした綾瀬家の次女。しかし、変な柄のTシャツを好んで着たり妙な造形のキーホルダーをたくさん鞄につけているなど、やや世間とずれた部分があり、家族から無下に扱われることもしばしば。最初期こそ「美少女」と呼んだとーちゃんやジャンボにも物語が進むにつれて雑に扱われるようになってきています。
よつばに対しては面倒見がよく、一緒に留守番したり洗濯物を取り入れてあげたり買いものに行ったりしています。また、第8巻第54話で分かる通り、町内会の子供たちにも好かれています。
多少乱暴な言動をされてもあまり怒らないので、よつばを含む周囲の人たちは安心して風香と親しくできているようです。やや肉付きのよい体型で、ジャンボやとーちゃんには「立派だ」と言われ、虎子やよつばには「足が太い」などと言われ、憤慨したり落ち込んだりしたこともありました。極めつけに第2巻第12話では水着姿を見たジャンボにこのように言われています。
「ウエストに肉がちょっと余ってるのがマニアックでいいよな」(『よつばと!』第2巻から引用)
さすがにこのときはカナヅチのジャンボの背中を蹴っ飛ばしてプールに落としています。よつばに次ぐギャグメーカーと言っていいかもしれません。
初登場は第1巻第1話「よつばとひっこし」。
『よつばと!』には名言がたくさん収められています。「迷言」と表記した方がいい言葉もありますが、そこかしこに秀れた言葉たちが散りばめられていて、それらを味わうだけでも楽しい作品です。
今回はよつばの名言を10個選んでご紹介します。
「わかった、しんでも…いきてかえる」(『よつばと!』第2巻から引用)
水鉄砲を持って復讐の旅に出るよつばにジャンボが「必ず生きて帰れ」と言ったところ、返ってきた返事です。死んでも生きて帰る。生還への強靱な意志が感じられます。
「り、りろんはしってる」(『よつばと!』第3巻から引用)
とーちゃんに「動物園を知っているか」と問われたときのよつばの答えです。動物園の理論……よつばはものしりです。末は博士か大臣か。
「おとなは! まったくおとなは!」(『よつばと!』第4巻から引用)
じゃんけんで後出しをして勝ったとーちゃんが「大人はずるいものさ」とうそぶき、それを聞いたよつばがこう言って憤慨しました。大人はいつだってずるい。多くの子供が感じる大人への不信によつばも憤りを見せます。
「どんなときもぎゅうにゅうだぞ?」(『よつばと!』第4巻から引用)
何やら落ち込んで涙する風香にこう言いながらよつばは牛乳をコップに注いであげました。頼りになる相談相手です。いつだって牛乳を飲めばみんな元気になるのです。多分。
「しつれんってあれな?! しんだりころしたりするやつ……」(『よつばと!』第4巻から引用)
風香の涙の理由が失恋であると理解した瞬間によつばはこう言いました。失恋とは物騒ものです。このあとよつばは風香が死んだり殺したりしないように奔走します。
「ぼーくらはみんなーいーきていーるーいきーているからつらいんだー」(『よつばと!』第5巻から引用)
動物のビデオを見るのが好きなよつば。レンタルビデオ店の「いろんないきもの」コーナーで借りるビデオを物色しながら歌った鼻唄です。ごもっとも、としか言いようがない歌詞にほかの客たちは打ち震えていました。果たして震えながらこらえていたのは笑いでしょうか涙でしょうか。
「ちょっとなにかがわからなくなった…」(『よつばと!』第5巻から引用)
海にやって来たよつば。昂奮して洋服姿のままざぶざぶと海の中へと走り、波に揉まれてしまいます。浜辺に上がってずぶ濡れの姿で言った言葉がこれでした。あまりにテンションが上がりすぎていろいろ分からなくなってしまうのは、よつばだけではないはずです。
「とーちゃんはからいのがすきです。あかいのです。よつばはからいのがすきじゃないです。からいのがあかいのです。とーちゃんがです。これはからいですか?」(『よつばと!』第7巻から引用)
近所のコンビニエンスストアにとーちゃんと自分がお昼に食べるカップラーメンを買いに出掛けたよつば。はじめてのおつかいです。とーちゃんはからいラーメンがほしくて、それは赤いパッケージだと言います。早速赤いカップラーメンを見つけて、通りすがりの客によつばはこう言ったのでした。自分が手に取ったものがとーちゃんがほしがっているからいラーメンかどうかを確認したかった……のでしょう。おそらく。
「たんぼがきりぬかれてる」(『よつばと!』第8巻から引用)
とーちゃんと一緒に自転車で買いものに行く道すがら、稲刈りをしている田んぼを通りかかります。どんどん稲が刈り取られていくさまを見て、よつばはこう言いました。子供らしい素直な視点からの言葉です。
「もうそれほうせきになった」(『よつばと!』第12巻から引用)
キャンプに行った先で探検している途中、一緒にいた恵那がどんぐりを見つけて拾います。よつばは幾日か前に別の場所でどんぐりを拾ってたくさん持っています。でも恵那はその場でどんぐりに金具と紐をつけてネックレスに加工してみせました。そのネックレスになったどんぐりを見てとても驚いて、よつばはこう言ったのです。よつばはどんぐりのネックレスをとてもうらやましがります。
どんぐりはたくさん持っているけれど、ネックレスになったどんぐりはよつばの手元にはひとつもありません。その貴重さと、加工されたどんぐりを素敵だと思ったこと、それが「宝石になった」という表現を生み出したのでしょう。実に清々しい感性です。そしてさらにこのあと、よつばは清々しい発言をするのですが、それは単行本を読んでのお楽しみです。
よつばの名言はほかにもたくさんあります。また、よつば以外の人たちも、それぞれにいくつもの名言を残しています。『よつばと!』をお読みの際にはそれも楽しんで頂ければと思います。
また、各巻の帯につけられたコピーも秀逸です。何れも『よつばと!』の世界観を十全に表した豊かな言葉たちです。こちらもぜひお楽しみください。
台風のような強烈なパワーと空に漂う雲のような自由奔放さ、そしてびっくり箱のような予想のつかなさを併せ持った小さな冒険者よつば。個性豊かな大人の面々に囲まれ影響したりされたりしながら、何でもない特別な毎日を過ごしていきます。本記事が、よつばが迎える新しい1日を読者のみなさんが一緒に体験していくお手伝いとなれば、さいわいです。