初恋の相手との再会に待ち受ける困難『この手をはなさない』
高校生になっても小学生の頃の初恋を思い出して胸を痛める青年、中野恒。小さい頃に両親を亡くし、兄と2人で暮らしています。
そんな恒の初恋相手は光部由香子という少女。恒のクラスに転校生してきた由香子は勉強もスポーツも優秀で、すぐにクラスの人気者になりました。
- 著者
- 小花 美穂
- 出版日
しかしある日、恒は実は由香子が母子家庭で借金取りに怯えながら暮らしていたことを知ります。そんな状況に居ても笑顔を絶やさず、ひたすらに明るい由香子に惹かれていく恒。
淡い初恋に胸をときめかせていたとき、由香子が突然の失踪……。好きだと告げることも別れを告げることもできなかった初恋は、高校生になったいまも恒の胸を占めていたのでした。
ある日の犬の散歩中、万引き犯として追われていた女性を助けてしまった恒。ふと顔を見てみると、忘れたことのなかった由香子がそこにいたのです。
痩せ細り、服装も貧相な由香子。しかし、あのときの笑顔は当時のままでした。荒んだ生活をしていた由香子を、あのときのように戻って欲しいと恒は彼女の生活に関わっていくことに……。
献身的な恒の支えに心を許し、由香子は徐々に明るさを取り戻していきます。しかし由香子はまだ借金取りに追われており、時として危険な目にもあっていたのです。
由香子をこれ以上危険に晒したくないと、恒は父が遺してくれていた土地を借金の肩代わりとして差し出しました。もちろん由香子には内緒にしようとしていましたがふとしたことで知られ、土地を買い戻すと言って由香子はまた失踪してしまい……。
「一度は離してしまった手をもう二度と離したくない!」という恒の想いがとにかく熱い。若さゆえのまっすぐな恋愛とドラマのようなストーリー展開で、熱いロマンス作品になっています。
また、2人が小学生だった頃のエピソードが丁寧に描かれていて印象的。この過去があるからこその今の2人なんだと思えてより一層深く入り込めます。
『こどものおもちゃ』のスピンオフ!隠れた名作『水の館』
先に紹介した『こどものおもちゃ』の作中、登場キャラクターが映画を撮影する話がありました。そのストーリーがあまりにも深く素晴らしかったため、独立した話にまとめられたのがこの『水の館』。
主人公は浩人という男の子。14歳にして両親を亡くし途方に暮れていました。しかし6年前に失踪したっきりの唯一の兄に会いたいと、行方を捜しに探偵事務所に駆け込んだのです。
- 著者
- 小花 美穂
- 出版日
兄の正人と同じ時期に失踪した美和と真子という正人の友人がいることを知った浩人は、1人で美和の家が所有していた別荘へ行ってみることにします。
方角が分からなくなる不思議な森で行き倒れた浩人。そこで出会ったのが真子と名乗る美少女でした。正人の友人の真子かと思いきや、その姿はどう見ても自分と同い年ほど……本当であれば真子は20歳のはずなのです。
辿りついた館で浩人はやっと正人と再会。森で出会った「真子」も彼らとともに失踪していた「真子」本人でした。正人と美和は時の流れの通り20歳になっていましたが、真子の姿はなぜか14歳のまま……。
その夜、浩人は水で溺れる夢を見ます。そしてせっかく会えたというのに浩人に帰宅を促す正人。虚ろな表情の正人と美和が食べている「薬草」が抱える秘密とは?なぜ真子は成長していないのか?この館にいる限り毎晩「水の夢」を見る理由とは?
小花美穂作品にしては珍しいホラーストーリー。色々な謎と組み合わさり、サスペンス的な要素も醸し出しています。その写実的な絵柄がより言い知れない怖さを増幅させ、思わず背筋が冷たくなるほど。
そして、壮絶なクライマックスの後にどきっとしてしまう一言で物語の終焉……このラストシーンに関しては未だにファンの間で議論が行われています。
『こどものおもちゃ』を読んだことがある方は、登場人物のリンクもあわせて楽しめる作品。逆に読んだことがない方も、1巻で完結しているこの作品を読んでから『こどものおもちゃ』も読んでみてください。どちらも楽しめること間違いなしです。
小花美穂の原点!初期作品集『せつないね』
主人公は中学生の少女、千絵。家がパチンコ店を経営しており、その一人娘です。そんな千絵が恋をしているのは、パチンコ店従業員の恭司でした。
一目惚れして以来恭司を想い続ける千絵ですが、恭司には郁子という彼女がおり、2人とも住み込みで働いていたのです。しかも2人は駆け落ちをしてきていて……。
- 著者
- 小花 美穂
- 出版日
千絵はもちろん恭司のことが好きですが、かと言って郁子を嫌いになることもできません。素敵な女性だと思っていて、恭司の彼女になりたいとも思っていませんでした。
しかし2人が仲良くしているところを見たり、郁子が故郷を思って泣いている姿を目にしたりしているうちに、段々と思いが掻き立てられてきます。そしてついに、履歴書を見て勝手に郁子の実家に連絡してしまい……。
郁子は親に連れ戻され、恭司は残りました。望んでいた展開なのになぜか幸せを感じない千絵。それどころか放心している恭司を見て激しい後悔しか残っていません。
リークしたのが千絵だと知っても千絵を責めない恭司。千絵は、「郁子を一生懸命愛していた恭司」に惹かれていたこと、恭司はあくまでも自分を子供としてしか見ていないことを悟ります。
そこからまた恭司と郁子の進展もあり、最終的にはやっぱり千絵の初恋は叶いませんでした。けれど、物語の最後に千絵が恭司に渡した手紙とそれを読んだ恭司の行動は感動モノ。
恭司と郁子の一途な愛や2人が引き裂かれてしまうところ、千絵の想いや葛藤など、胸がしめつけられるようなシーンが詰め込まれ、まさに『せつないね』というタイトルにぴったりの切ない作品。
実は作者の実体験がモデルというお話。小花美穂の初の連載作品だったため、今とはまた少し違った画風も楽しめることでしょう。初期から変わっていないストーリーの深さとともに楽しんでみてください。