初の発掘&恋愛もの!何に惹かれる?『砂とアイリス』
遺跡発掘現場に豆乳を飲みながら、カブ(二輪車)で乗り付けた長瀬(ながせ)。彼女はなによりも発掘現場での土作業が大好物なのです。梶谷(かじたに)先生の推薦で入った漆の研究所で働きながら、お声がかかると現場に駆けつける長瀬の美しい立ち姿を、梶谷は「アイリス」とたとえます。西村しのぶ初の発掘&恋愛ものです。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
- 2013-04-25
梶谷の妻で、東南アジア圏の水上集落をウォッチしているサラが、ふだんは乱雑な部屋に埋もれていながらも、装うと思いがけないほどの麗人に変身するギャップが見ものです。サラは、長瀬の数年後の姿ともいえるのかもしれません。
「現場にいるとごきげんだから美人に見えるんだよ」「背景があと押ししてくれる 実力以上に映えるだろ?」と研究室の青山がサラのことを話している時に、それを聞いている梶谷は砂場を背景にした長瀬を思い出しているのが印象的です。
でも、「ごきげんだから美人に見える」というのは、新しい見方で参考になりますね。サラという魅力的な妻がいながら、長瀬に惹かれていく梶谷の内面も描いています。
前述した『RUSH』にも、百合が住吉を「いつでも機嫌がいい大人」と表現する場面があって、もしかしたら「ごきげん」でいることがチャーミングに見えて、モテるポイントかもしれません。
西村作品では珍しく作品のペースがはやいほうなので、今後の刊行も期待できます。また、アパレルやファッションに関わらない女性がヒロインという点も特徴です。
砂にまみれても、へこたれずに真冬の屋外作業場にカブで通う長瀬は、何かに夢中になる女性という西村作品のヒロイン像そのもので、そこに梶谷も惹かれていくのではないでしょうか。
西村しのぶの新境地・発掘&恋愛ものの『砂とアイリス』を読んでみませんか?
ほんわかゆったり系癒し恋愛コミック『一緒に遭難したいひと』
パジャマのまま食卓でキーボードを叩く小説家のキリエと、安心感と包容力が抜群な彼氏マキちゃんの、ほんわか癒し系なストーリーです。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
- 2005-02-10
「ふたりあわせて『バカ二乗』とまで言われるけど 『仲良し』ってそういうものよ 失礼ね」(『一緒に遭難したいひと』より引用)
キリエとマキちゃんは、こんなバカップルぶりです。でも、ほんわかあったかぬくぬく系の、かわいいカップル。「こういうのいいな」「こんなふうになりたいな」と思わせてくれるふたりです。
出会った頃のふたりの物語がストーリーの前半に描かれますが、マキちゃんが本当に「かわいいひと」なんです。その「かわいい」加減は、まじめさに裏打ちされたもので、愛すべき人柄として描かれます。自称貧民生活をしていたキリエは、そんなマキちゃんに心を打たれるところがあったのでしょう。
キリエの同居人の絵衣子は「男前」。女性らしさや優雅さでは最高ランクに位置づけながら、粋で大人でカッコいいの三拍子がそろっていて、女も惚れてしまいそうな美女です。絵衣子のように、こういった女性が憧れる女性像をさらりと描くことができるのも、西村しのぶの強みだと言えます。
マキちゃんの「なるべく陽がのぼったら起きて陽が地球の反対にまわったら横になって休んで…… 女の人は特に ね」「いつかは赤ちゃん生むことも考えて生活していてください よろしくお願いします」というセリフ。女性のからだを心から心配してくれるやさしさが沁みます。
ダメ男が多い西村しのぶ作品ですが、マキちゃんはそのなかで「しっかりした安定した男」ナンバー1です。安心感と包容力が断トツなので、男を見る目を養いたい方にも一読をおすすめします。
西村しのぶが描く強くて美しい女性。『ライン』
アパレル販売ショップを経営するリツコ。経営は上々、近くのカフェで「彼氏がほしい」と嘆かなければ、美しい女性。店に置く帽子とアクセサリーを発注した相手がカフェの店員・邦彦でした。邦彦は揃いのピアスをプレゼントして、リツコのハートをがっちり掴むことになります。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
- 1998-08-05
西村作品に登場する背の高い美女のひとり・リツコ。離婚を経験しているけれども、広いマンションにひとり暮らし、自分の好きな服(もちろん、黒い服)を置き、売り上げを出し、てきぱきと部下に指示を出し、そのうえ、手作りのアクセサリーを作ってくれる年下のイケメンを彼氏にしてしまいます。
物語はリツコと邦彦のラブラブな交際を中心に展開していきます。邦彦はもちろんハンサムですが、年下でスーツも借り物で、先輩の家に居候していて住所不定というありさま。でも、心がきれいで、女性が喜ぶプレゼントをすることができるんです。
邦彦が元カノの美有にリツコのことを聞かれた時、「正直なひと」と答えるシーンがあります。さらに「確かにあなたのほうがずっときれいだけど ずるい」「これからもますます磨きをかけて ますますずるくて美しい女に」と告げる邦彦。彼女ができた途端に近づいてくる美有の心の歪みに対して、リツコの素直さや包容力が彼には魅力だったようです。
邦彦は年下の彼氏として、年上のリツコから「可愛がられる」一方で、適切にリツコを「可愛がる」こともできる、恋愛能力が高い人として描かれています。恋愛バイブルと呼ばれる西村作品だけあって、勉強になることが盛りだくさんです。メモの用意をして読むことをおすすめします。