出典:『乙嫁語り』1巻
『乙嫁語り』は、19世紀後半、第1次世界大戦前の中央アジアを舞台にしたマンガである。シルクロードが舞台のマンガは紀行ものが多いようだが、『乙嫁語り』ではひたすらに文化へ焦点があたっているのが特徴だ。
冒頭から、華麗な衣装を身にまとった20歳の花嫁が12歳の花婿に嫁いでくるシーンではじまり、嫁入り道具として持参した弓矢で花嫁が(馬で)狩りを行なうシーンが続く。そして、もてなしのためにたくさんの食皿(美味しそう!)を用意するシーン、結婚祝いとしていただいた豪華な布(細かな刺繍がたくさん施された、絨毯のような布)で部屋を模様替えするシーンなど、生活に密着した光景がたんたんと描かれていくのだ。
そもそもタイトルの「乙嫁」というのは、古語で「若いお嫁さん」「美しいお嫁さん」という意味とのこと。第1巻を読むと、20歳の花嫁アミルが主人公のように思えるのだが、続く巻ではまた違った花嫁たち花婿たちが登場してくる。つまり、「花嫁がやってくる」もしくは「花嫁になる」という視点を中心にすることで、自然と当時の生活が浮き彫りになる作りなのだ。婚礼を中心に据えていることで文化の違いがはっきり分かるのが、読んでいておもしろい。
ドキュメンタリーのような楽しみ方ができる作品だと語ったが、それを支えるのは作者の緻密な、精密で美しい、描写力である。人物から背景までほとんど1人でペン入れしており、そのため、筆が早いと言われるこの作者でも2ヶ月に1話(30-40ページ)のペースが精一杯のようだ。
ただ、2ヶ月を待つ甲斐はある。(私は単行本派なので、いつも約1年待っている計算になる。)一度作品を見てみればそれも頷けるはず。私がこの作品の虜になってしまったのも、言葉のないコマの連続が7-8ページほども続き、「絵だけ」で読ませてしまう(そして絵の世界へ引き込んでしまう)シーンを体験してしまってからなのだ。
- 著者
- 森 薫
- 出版日
- 2009-10-15
※余談だが、この「絵だけ」で読ませる感動を覚えたのは、『スラムダンク』の山王戦のラスト以来だった。このゾクゾク感が分かってもらえるだろうか。