【野球】独創的な実践野球哲学!『ラストイニング』
主人公の鳩ヶ谷圭輔(はとがやけいすけ)は、かつて名門野球部で支柱的役割を担うも夢破れ、今では彼は詐欺まがいのセールストークで営業成績を上げていました。ところが鳩ヶ谷の会社が薬事法違反並びに詐欺容疑で家宅捜索され、責任を被らされた彼は勾留されてしまいます。
そんな鳩ヶ谷の面会にやってきた狭山滋明が保釈人を買って出ます。狭山は鳩ヶ谷が所属していた彩珠(さいたま)学院高校の当時の野球部監督にして、現校長。野球部は現在、取り潰しが予定されており、その撤回には来夏までに甲子園出場の実績が必要なのでした。狭山は鳩ヶ谷の能力を見込んで、彼に新生野球部の監督を依頼しに来たのです。
- 著者
- ["中原 裕", "神尾 龍"]
- 出版日
- 2004-04-30
本作は2004年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた神尾龍原作、中原裕作画の作品。
普通、高校野球を題材とした漫画は選手が主人公に設定されることが大半です。“高校”野球なのでそれが当たり前。しかし本作は、高校野球を題材していながら、破天荒な監督目線でストーリーが描かれます。従って、ストーリー上で重きが置かれるのは従来型のスポ根などではなく、高校野球の常識に縛られない、ある種の経営哲学にも似た実践的な手法です。
高校球児憧れの舞台、甲子園。そこに行けるのはどんなチームでしょうか? 100%勝てる常勝校なら余裕でしょうが、現実的にそんなことは不可能。どんな強豪校でも負ける可能性はあります。100%でないなら、そこに隙がある。例えば100回中1回だけ負けるチームに対して、その1回で勝ちを収め、それを積み重ねれば弱小校でも甲子園に行ける……。
劇中で鳩ヶ谷はおおよそこのようなことを語り、甲子園出場を請け負います。非常に語りが達者な主人公。インチキ商品を高額で売りつける会社で成績優秀、かつ詐欺容疑がかけられるほどだったので、頭の回転と口の上手さは折り紙付きです。元々は有望な選手だったことも合わさって、鳩ヶ谷の理論は机上の空論には思えません。
本番の大舞台で白星を上げられるなら、普段の負けなど問題にならないのです。
この他にも、チーム内で性格と力量ごとに選手を分類するなど、鳩ヶ谷は弱小野球部に独特の指導を行います。特性が異なる人材を混在させるより効率が良いためです。
このような成果主義的、実践的な場面だけでなく、キャラの成長にもフォーカスが当てられます。監督を引き受けた鳩ヶ谷からして、当初はビジネスライクでした。ところが彼もかつて甲子園を目指し挫折した経験が、心の奥底でくすぶっているんです。
あの日、あの時、駄目だったことを今度こそ。若き選手と過ごすうちにそれが再燃し、やがて結束した選手とチーム一丸となって上を目指す展開には心打たれます。
【サッカー】あの輝きよ、もう一度!サッカー人生の再挑戦!『U-31』
2002年、日韓共催W杯に湧く日本。そんな中、東京ヴィクトリーのJリーガー、河野敦彦は代表選手に選ばれずにふてくされていました。20代前半、アトランタ五輪で「マイアミの軌跡」ともてはやされたのも今は昔。現在の27歳となった河野に見る影はありません。ついには所属クラブから戦力外通告を受ける始末。
その河野へオファーを出すチームがありました。半ば強引に辞めた古巣、ジェム市原。移籍時のわだかまり、弱小クラブに戻ることを彼のプライドが許しません。しかし、かつての五輪代表時代のビデオを見て、自分を見つめ直す河野。そして意地とプライドを捨て、ジェム市原での再起を決意します。目指すは彼が31歳となる、次のドイツW杯日本代表。
- 著者
- 吉原 基貴
- 出版日
- 2003-11-19
本作は2002年から「モーニング」で不定期連載されていた綱本将也原作、吉原基貴作画の作品。栄光の輝きを失った男が、自信とプライドを取り戻すサッカー漫画です。
本作の特徴はなんと言っても、持てる者の苦悩でしょう。そこで描かれるのは、向上心以外には何もないという「持てない者の挑戦」ではなく、地位も名誉も経験もある「持てる者の再挑戦」です。
主人公の河野は五輪代表選手で活躍した、言わば成功者です。現在は現役選手として落ち目になっているものの、すでにサッカー選手として名を残し、金も持っています。引退したところでスポーツキャスター、解説者、あるいはサッカークラブの監督やトレーナーなど、働き口に困ることはありません。
それにも関わらず、河野は現役選手として再度の五輪出場を目指します。それは彼が、どこまでもサッカー選手であるからです。成功者である彼にとって、再挑戦するのは栄光を取り戻したいというただそれだけ。それだけに、かえって河野の思いは純粋な動機として際立ちます。
本作の設定やエピソードは実在のチーム、人物の出来事を元に構成されています。見る人が見れば、どのエピソードが誰のものかわかるかもしれません。そういった点を楽しみながら読むのもポイントです。
展開のリアルさについても特筆に値します。サッカー界における高齢選手の境遇、その描写。そしてただのご都合主義に終始しない、きっちんとしたゲームメイク。元日本代表監督オシムをモチーフにしたシニーシャ・クラリィ監督の采配には唸らせられるでしょう。
あくまで現実的に描かれる、サッカー選手の「夢」の行方はどうなるのでしょうか。
【バスケ】自分に挑戦し続ける者達の物語。『リアル』
粗暴な少年、野宮朋美(のみやともみ)。バスケに打ち込んでいた彼は、部員との確執から退部。落ち目の彼は、ナンパした女の子をバイク事故に巻き込み、下半身不随の怪我を負わせてしまいます。それをきっかけに、高校3年生にして学校を退学。
加害者責任を感じる野宮は、怪我させた女の子、山下夏美の元を足繁く訪れます。野宮は夏美を車椅子で連れ出して散歩する途中、体育館でバスケ練習をしている少年と出会いました。その少年もまた車椅子でした。
忘れかけていたバスケの熱が戻って、野宮は思わず車椅子の少年、戸川清春と対戦を始めます。自ら車椅子に乗り、対等の条件にして。必死でプレーする2人に影響されたのか、野宮の見ている前で夏美が初めて笑いました。
これは、若者達が自分にとって大事なものを取り戻していく物語。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 2002-09-18
本作は1999年から「週刊ヤングジャンプ」で連載中の井上雄彦の作品。『スラムダンク』でバスケ漫画のジャンルを切り拓いた井上が挑む、車椅子バスケ漫画です。
障害者を描くことは、大小様々な配慮が働くためか、暗黙のうちにタブー視されているように思えます。迂闊な表現をすれば差別に繋がるという向きがあるからでしょう。しかし、その発想、姿勢自体が差別である、と言えないでしょうか。
本作では特に下半身に障害を負い、車椅子生活を送る人々にスポットを当て、車椅子バスケットを通して彼らの「リアル」を描写しています。
自ら望んで短距離の世界に飛び込むも、骨肉腫を発症して右膝関節から下を切断した戸川。自分ではなく他人を下半身不随にさせてしまったことで、肉体ではなく精神に傷付いた野宮。そして野宮の同級生かつ同じバスケ部員で、交通事故により下半身不随となってしまった高橋久信。
英語では身体障害者の方を「Physically Challenged」と呼びます。「身体的(障害という)困難に挑戦する人」という意味です。決して自分で望んだことではないにしろ、現実としてその困難から目を逸らすことは出来ません。戸川、野宮、高橋の3人は、まさにその困難に挑む者達です。
「俺は何をめざすのかすらまだ見つかってねーや。(中略)俺の道であることに変わりはねえ。俺のゴールにどうやってつながるかは知らねえが、いつかつながることだけは確かだ」(『リアル』より引用)
怪我を負い、体が不自由になっても、それでも動きたい。バスケをしたい――その情熱が彼らを突き動かし、挑戦させていくのです。そのためのリハビリや練習は、誇張ではないリアルな描写。
障害がテーマの1つになっているため、どうしても設定は暗いものになってしまいます。しかし、実際の多くの人々がそうであるように、彼らは現実を受け入れて前向きに生きます。通常のバスケと同じか、それ以上に熱く激しい車椅子バスケの世界。熱く、激しく、諦めない心がひしひしと感じられます。