ベランダ越しのライフ・リング『うきわ』
2012年からウェブコミックサイト「やわらかスピリッツ」で連載されていた野村宗弘の作品。
家事着姿のまま洋上でぷかぷか浮かんでいると、通りがかったヨットから顔見知りが浮き輪を投げて――うたた寝していた中山麻衣子は、そんな夢を見ていました。浮気をされてるのに浮き輪なんて、と自嘲します。夫の携帯にあった「車修理110番」からの数え切れない着信履歴、熱烈なメール。彼女はそれを偶然見てしまったのでした。
午後7時過ぎ。麻衣子は廊下の掃除をして「あの人」の帰宅を待ちます。やがて夫の上司で、隣家に住む中山が帰ってきました。簡単に挨拶をして、2人は別れます。夢の中で彼女に浮き輪を投げかけた「あの人」、それは中山の姿でした。夫に浮気されている妻と、妻に浮気されている夫。似た者同士の密やかでささやかな関係。
- 著者
- 野村 宗弘
- 出版日
- 2013-11-29
麻衣子はマイペースで、どこから抜けている可愛らしい奥さん。ですが、なぜか夫の「たっくん」に浮気されています。彼女はある日、夫が忘れていった携帯を偶然見てしまい、裏切られていたことを知ります。表面上、夫婦関係は良好で、両親との仲も悪くありません。誰にも相談出来ず、ましてや夫を糾弾することも出来ない麻衣子。
彼女が安らぎを得られるのは、お隣の中山を一緒にいる時間だけです。中山も妻に浮気されており、麻衣子の苦悩を察します。浮気されている同士とは言っても、麻衣子と中山自身はそういう関係にありません。純情な中高生のように、ただただ寄り添ってお互いを労るだけです。
麻衣子も中山も、本来はそれぞれのパートナーと深く愛し合っていました。それがどうしてこのような結果になってしまったのか。夫婦はどこですれ違ってしまったのか。2人の事情と関係が、過去と現在のそれぞれの視点で交互に語られていきます。2人はなぜ裏切られたのでしょうか。
似た境遇の2人は、心を通わせて徐々に惹かれていきます。ベランダ越しに佇む、“偶然”の出会い頭に挨拶する、そのささやかな関係はどのような結末を迎えるのでしょう。
悩める人妻達は、なぜ一線を越えたのか。『金魚妻』
本作は2016年から「グランドジャンプ」、「グランドジャンプPREMIUM」で連載されている黒澤Rの作品。「人妻シリーズ」と銘打たれた不定期連載の短編集となっています。
専業主婦の平賀さくらは、最近冷たくなった夫とマンションで2人暮らし。金魚に魅せられた彼女は、金魚専門店の「とよだ」に足繁く通ううちに店長の豊田と親しくなりました。ある日、夫の許しを得て金魚の水槽を購入しますが、身勝手な夫は返品しろと怒鳴りつけます。夜半に水槽を返しに行ったさくらは豊田とそのまま……(「金魚妻」より)。
蕎麦屋を経営する夫の実家を手伝う岡崎杏奈。店にはかつて夫の敦と付き合っていた祥子が出入りし、義妹からは祥子の方が兄とお似合いだなどと嫌みを言われます。肩身の狭い杏奈は客から出前のクレームをつけられ、慌てて飛んでいきます。実はその客、五味田と杏奈は関係を持っていて……(「出前妻」より)。
- 著者
- 黒澤R
- 出版日
- 2017-01-19
各短編はそれぞれ、形は違えど夫やその周囲から冷遇される妻が、不満の発散先として不倫に走るというもの。物語の開始時点ですでに浮気している妻がいれば、開始後にひょんなことから関係を持ってしまう妻もいて、事情はまったく異なります。
夫に不倫され、証拠も掴んでいる平賀さくら。望んでも子供が出来ず、家族から冷たくされる岡崎杏奈。夫の変わった性癖のために、夫の部下と関係を持たされる保ヶ辺朔子(ほかべのりこ)。小学生の息子の担任を誤って車で撥ねてしまった河北真冬は、詫びのつもりで服をはだけたことがきっかけに。
4者4様の不倫模様がそこにはあります。妻がなんらかの形で不遇に置かれており、肉体的快楽に逃避するのも仕方ないと思えてしまいます。果たして彼女達は夫の元へ戻るのでしょうか。それとも不貞の先に新たな幸せを見付けるのでしょうか。
身勝手不倫男の自業自得の受難!『ぬけぬけと男でいよう』
本作は2005年から「漫画アクション」で連載されていた内田春菊原作、イワシタシゲユキ(現・月島冬二)作画の作品。同名タイトルの原作小説を下敷きに、漫画版ではアレンジが施されています。
主人公の十布(とぬの)は広告代理店「電凰堂」メディア事業部勤務の敏腕サラリーマン。元女優の妻ちづる、娘の橘香(きつか)と3人で暮らしています。特に一人娘の橘香は可愛くて仕方がありません。
そんな十布ですが、家族愛と個人の恋愛を分けて考えており、若くて美しい萌実(もえみ)という愛人がいます。家族に知られることなく、自由に性を謳歌している……はずでしたが、勘のいいちづるは十布の浮気を把握しており、橘香のためにやめるよう迫ります。
十布は娘のために愛人関係を清算しようとするも、萌実がストーカー化する事態を招いてしまいました。あれだけ愛し合った女への情が急速に覚めていきます。ちづると萌実、2人の関係のごたごたから逃れるべく、十布は懲りずに癒やしを求めて……。
- 著者
- 内田 春菊
- 出版日
- 2006-06-28
十布は主人公でありながら、本作における悪役的存在として描かれます。実際、自ら望んで不倫に手を出しているので、諸悪の根源と言っても間違いありませんが。身勝手な快楽、事情を優先させて、自らどん詰まりに飛び込んでいくので同情の余地はまったくありません。
通常、主人公は大なり小なり読者にとって感情移入出来る存在として設定されるものですが、ここまでゲスだと共感しようがないでしょう。ただ、十布の視点から見た、情を失った女達の行動については「男から見た最も恐ろしい女」像として理解出来るかも知れません。
広告代理店勤務という恵まれた立場で、マイホームもあって、大事な家族もいる。それでも浮気をやめられない男のさが。愛を失った妻から、若い愛人へ、それが駄目なら別の新しい女。十布はまったく懲りません。
最も不憫なのは娘の橘香です。父に浮気され、母にはそれを示唆されます。十布も一応、人の親としての自覚はあるようですが、「父親」よりも「男性」が先に立ってしまう優柔不断さ。
この下半身のだらしない十布という男には、一体どのような顛末が待ち受けているのでしょうか。