熱いセリフに酔う!『G戦場ヘヴンズドア』の青春群像劇
ベテラン漫画家・坂井大蔵(さかい・だいぞう)の息子・堺田町蔵(さかいだ・まちぞう)は、父親への反発から漫画を嫌悪しつつも、密かに小説を書き続けていました。町蔵は、父親の存在を隠したまま、同級生で漫画を描く才能のある長谷川鉄男(はせがわ・てつお)と一緒に作品制作をすることになります。
- 著者
- 日本橋 ヨヲコ
- 出版日
- 2016-08-12
『G戦場ヘブンズドア』は、漫画を題材にした青春スポ根ものに分類される作品です。町蔵や鉄男の他にも、鉄男の幼馴染である久美子、町蔵の両親や鉄男の両親、父・大蔵の秘書の裕美子や担当編集者の山田まで、キャラクターの深堀りが前作より際立っています。
また、エキセントリックさは、主に久美子ひとりに集約されていて、そのため、久美子の輪郭が鮮明になり、目立つ存在になっています。といっても、久美子の尋常ならざる言動の根源にあるのは、鉄男への愛情と執着であり、一途さゆえ。そして、他の登場人物は、親しみやすい現実味の強い個性になっています。
父・大蔵と町蔵の関係性が、鉄男とその父親の関係性とリンクすることで、物語は加速度的な展開を見せていくのです。そこには学園ものの名残をとどめてはいるものの、青春スポ根ものの漫画勝負へと突入していき、まるで互いの魂に魅入られたもの同士のように、町蔵と鉄男は漫画をかくことに没頭していきます。
「もしお前がもう一度俺を震えさせてくれるのなら この世界でいっしょに汚れてやるよ」(『G戦場ヘヴンズドア』より引用)
熱量では、前作までを圧倒的に凌ぐ『G戦場ヘヴンズドア』は、読者の感情を揺さぶります。ストーリーも断トツにドラマチックな要素を盛り込んであり、鉄男の母親の死を経て、怒涛の展開を見せるのです。
町蔵も鉄男も、自分には何もないと嘆いては何かを取り戻し、まるで青春そのもののように、獲得と喪失を繰り返し、劇中でも何人もの登場人物が口にするように、「漫画によって勇気や力を得ることができる」物語になっていきます。
特に濃縮されたように中身が詰まっているので、全3巻とは思えないほどです。名ゼリフもまた、てんこもりなので、日本橋ヨヲコのセリフに耽溺してください。
「堺田君、本当にオレになりたい?しんどいよ?」(『G戦場ヘヴンズドア』より引用)口数が極端に少ない鉄男が漏らした本音です。でも、現実世界でも、誰かを羨んでも多分、誰もが鉄男と同じように「しんどいよ?」と漏らしたいのかもしれません。
町田都、三成、ナオミら『プラスチック解体高校』メンバーが登場。『少女ファイト』へと続くことになる雑誌「週刊少年ファイト」の存在も伏線になっています。
少女たちも熱い!悪役を演じることを恐れない『少女ファイト』
幼いときに天才的なバレー選手だった姉・真理(まり)を事故で亡くした大石練(おおいし・ねり)。小学校のときにバレーボール仲間から、彼女のプレーが恐れられていたことを知った練は、牙も爪も隠して平穏な中学時代を補欠として過ごします。
ある事件から中学の半年間を休学した練は、姉の母校で、幼なじみの式島兄弟と同じ黒曜谷高校に入学して、春高大会での優勝を目指す道と新しい仲間たちとの関係が始まります。
- 著者
- 日本橋 ヨヲコ
- 出版日
- 2006-07-21
何かに夢中になったことがある人にしかわからない「眼中になくなる」状態。小学校のときに大石練が「狂犬」とあだ名をつけられたのは、練がバレーに夢中になりすぎて周りが見えなくなるからでした。
バレーで勝つことに没頭するあまりに、キツイ言葉もチームのメンバーに投げつける。猛特訓も苦にならない。それは、姉の真理の死を忘れるためでもあったのですが、子どもだった小学生のチームメートには伝わるはずもありません。
本来、何かに夢中になることは素晴らしいことですよね。しかし、練はバレーへの熱中が原因で仲間だと思っていた友だちに嫌われ、さらに嫌われることを恐れてしまい、バレーから離れていきます。
その不自然な矯正は、黒曜谷に入ることでほぐれ、ほどけていくのです。そこからが、『少女ファイト』の核心へと近づく物語になります。
キャラクターは少女たちが主人公なだけに、前作までよりもややマイルドで、現実味もあるでしょう。そして、必ずしも悪くないはずなのに悪役を演じるという優しさが、説得力十分に描かれます。対戦チームのメンバーの物語も丁寧に描かれていくので、読み応えは十分です。
また、『G戦場ヘブンズドア』からルミコの成長した姿と町蔵とその後の作品を見つけることができます。ルミコはメインメンバーなので、目が離せない登場人物の一人です。
まるで、オムニバスストーリーをつなげて構成したように、黒曜谷高校のメンバーそれぞれが、各々の背景や劣等感、問題を抱えていて、一人ずつ紹介されるように物語が綴られていきます。
「生きている意味が全て噛み合うその瞬間を味わいたいのなら丁寧に生きろ この花のようにな」といった、女子目線の熱いセリフも山盛りです。
日本橋ヨヲコの初期衝動を抱えた短編集『バシズム』
日本橋ヨヲコの初期作品を集めた短編集です。デビュー作「ノイズ・キャンセラー」に加え、書き下ろし作品「CORE[コア]」を含めた、全9作の短編が収録されています。
日本橋ヨヲコのデビュー作「ノイズ・キャンセラー」は、純愛ラブストーリー。この作品で、すでに言ってほしい言葉を言ってくれる喜び、うれしさを描いていて、ファン必見の初期作品です。
- 著者
- 日本橋 ヨヲコ
- 出版日
- 2016-10-21
「花」は、腐土病という治療法のない奇病に冒され、死を待つだけの日々を送る高校生・鈴木と保健医・時田の純愛を描いた短編です。包帯だらけのからだをした生徒に、『極東学園天国』の間宮を連想する読者も多いのではないでしょうか。
強気の少女・五反田と生徒会長に推されるカオルを主役とした短編、「バング スタイル ア ゴー ゴー」。続編2本も『バシズム』に同時収録されている(「インセクトソウル」「ギアボイス」)ので、3本まとめて読むのがおすすめです。
カオルの「学校を利用して楽しんじゃえばこっちのもん」というセリフが、『極東学園天国』の城戸先輩を彷彿とさせます。
続編の「インセクトソウル」では、五反田とカオルの過去にまつわる秘話が明かされます。この辺りまでくると、日本橋ヨヲコ特有の過激な言動が表現されてきて、のちの作品に続く激しさが見られるでしょう。
続編3作目で、サイドストーリーとなる「ギアボイス」は、有島と与謝野先生を中心に描かれるラブストーリー。志賀の「オレは本気を見たいんだよ」は、のちの作品にもつながる名ゼリフで、キャラクターが自然に口にしたセリフが物語のテーマに結びついて開花する展開は見ごたえがあります。
「CORE[コア]」は、『バシズム』書き下ろし作品なので、本作でのみ読むことができる短編です。この作品だけ、線描写が劇中劇のように独特で(筆ペンのようなタッチです)、人物と人物の対比や思考が入れ替わる感覚がおもしろく読めます。最後のナレーションが作者からのメッセージでしょう。
ちょっとしたSF要素を盛り込んだ短編「Id[イド]」では、突然現れたスキンヘッドの男Id(イド)が高校生3人との出会いを描いています。ひねくれているIdと真っすぐな3人の対比、そして、謎の女・エスが女子高生へ放つ小気味のいいセリフも痛快。当時、日本橋ヨヲコがすでに獲得していた、セリフのパワーを感じさせる手法は、さすがの一言です。
のちの『少女ファイト』の練と隆子を思わせる、繭と蝶子、ふたりのハイジャンパーの物語が描かれている「ハイジャンパーズ・ハイ」。ドライでクールなのに、熱を感じさせるキャラクターで、描線も現在のかたちに近づいています。繭の豹変ぶりも見ものなので、ぜひ、見てみてください。
どの短編も日本橋ヨヲコの初期衝動を感じさせる作品ばかりです。