文学の意味とは何か?
文学を読む時、考えるべき事は、主人公の気持ちがどのようにかわっていったのか、という事や、作者はこの作品を通して何を訴えたかったのか、という事です。著者は、文学に対するこのような考え方に対して一理ある、と説明。その他に幅広い読み方をしていく事も大切だ、と述べています。このように、文学について初歩から分かりやすく説明していくのが本書『超入門!現代文学理論講座』です。
- 著者
- 蓼沼 正美
- 出版日
- 2015-10-05
上記のように、文学の基本的な役割は、そこに表れている感情の機微を察する事であり、作者の意見を読み取ることである、といえるでしょう。しかし、作者の感情を推察する事に何か意味があるのか、と疑問に思うかもしれません。そして、文学のこのような側面が、他の学問と比べて、日常の役に立たないという見方もあります。
確かに、文学には、工学や法律、経済学のような、より良い社会をつくる専門的で技術的な知識はありませんので、その点において、役に立たないといえるでしょう。しかし、人の意図を読み取る、感情の機微をとらえるという文学の意味を考えた時、そこには人と接する時の大切な要素がある事が分かります。
例えば、会社の人間関係でも、相手の気持ちを理解し、適切なコミュニケーションをとるために必要なのは、文学的な素養。また、文学を通して社会問題を学び、問題について見識を深めるという事も、文学のもつ重要な役割であるといえるでしょう。
このように考えた時、文学は、役に立たない学問なのではなく、実際的な知識というよりも、むしろ人間関係や社会という日常の土台となる部分をつかさどる学問であることが分かります。
また、本書の中には文学の理論を取り扱った記述も多く、著者は、様々な文学理論を紹介していきます。そして、その中のひとつが、H・R・ヤウスの「期待の地平」という概念。期待の地平とは、私達が本を読む上で何を期待して、何を判断していくかという部分を予測する手法です。
著者はこの期待の地平について解説。私達が作品に対して、何を基準にして期待するかというと、作者についての今までの知識の積み重ねであり、作品に対しての情報であり、本の装丁であり、端書きやタイトルです。これが、期待の地平の一つ目の捉え方です。
そして、これらが、本を読む前の期待である一方、私達は本を読んでいる間にも期待をする点がポイント。例えば、私達は、物語を読み進めていくうちに、こうなるのではないか、ああなるのではないか、と予測をしながら読んでいきます。このように、読者が作品を読むうちに様々な期待を膨らませていく事は、期待の地平の二つ目として表わすことができるでしょう。さらに考えれば、その発展系として期待を裏切るという手法である「どんでん返し」があるのだ、と分かります。
このように、読者が自身の中に物語を作り上げる上では、様々な反応があるのに対し、期待の地平では、読者の間に物語進行上の共通認識が形作られていくという点がポイント。一方では、ひとつの物語に対して様々な感想が生まれるのに対して、他方では、ひとつの物語について読者の中に共通認識がつくられる、という物語構造の二重性は、面白い部分がありますね。
その他にも、著者による『羅生門』の読解は唸らせられるものがあり、子供の頃何となく『羅生門』を読んで、怖い話だった、という感想しか持っていない人は、著者による解説を一読することをおすすめします。
なぜ面白いかを分析、文学の手法を探る
文学の面白さを理論から読み解いた名著が、この本『はじめての文学講義』。作品の面白さはどのようにして生まれるのか、という点を追求し、文学の手法を細かく分析。普通に読むだけでは気付かないであろうポイントを明確にすることで、優れた視点を提供します。
- 著者
- 中村 邦生
- 出版日
- 2015-07-23
例えば、著者が説明している手法のひとつがダブルインパクトです。これを説明する例として、著者は、太宰治の『富嶽百景』を例示。ダブルインパクトという手法を分かりやすく解説します。
まず、頭の中で富士山を思い浮かべてみてください。多くの人は、画面一杯に大きく映る富士山の姿を思い描くのではないでしょうか。これが、普通に思い浮かべる富士山です。
では、道に咲く月見草の向こう側に富士山が見えるような景色はどうでしょうか。これを思い浮かべようとすると、手前にある月見草と富士山との間に遠近感が生まれ、とたんに面白い構図になるのではないか、と思います。
このように、遠くの富士山と近くの月見草の対比、という構図を用いることで、平面的だった描写に立体感が生まれるという手法があり、著者は、これがダブルインパクトであると言及。このような手法は、文章を通じて、読者に視覚的な印象を与える上で大変効果的です。
著者は、このように、文学上に存在する様々な手法について説明。一度本書を読めば、普段、何気なく読んでいた文章の中に、様々な仕掛けがあった事が分かるようになるでしょう。文学のもつ面白さを、構造の上から把握したい人におすすめしたい一冊です。
文学の面白さを味わい尽くせる名著
70もの作品が掲載され、その面白さを綴っていくのがこの本『高校生のための文章読本』。本文を解説と共に読むことによって深い理解が得られるような仕組みとなっており、優れた解釈の数々も見所です。
- 著者
- 出版日
また、作品を考察する事を通して、人生を豊かにしていく事ができるという点も、おさえておくべきポイント。例えば、掲載されている清水邦夫の『部屋』という文章も、鋭い一面から物事を捉えた面白い作品です。
清水邦夫は、昔の家には普段「使わない部屋」があった、と説明。黴臭いその部屋は、長患いの病人、伝染病にかかった病人などを態よく押し込めたり、しくじりをやるとその部屋に閉じ込められるのではないか、という恐怖を与えるものだった、と指摘します。
そして、現今の家は、普段「使う部屋」ばかりであり、子供が、便所や階段で恐怖心を感じることもなくなった、と述べます。そのようにして「使わない部屋」がなくなり「使う部屋」ばかりになった今、人々は不思議な余裕のなさに悩まされている、と指摘。使わない部屋のもつ役割について論じます。
本書では、荘子の「無用の用」という考えを例示して、清水邦夫の考えを補強。何もないことが、逆にひとつの意味を形成するという概念は、なかなか面白い考えですよね。普通に考えれば、普段使わない部屋は、無駄で必要のないものであると考えられそうですが、実際にはそれが必要なものであるという事実は、物事の不思議な側面を表しているといえるでしょう。
また、ここで述べられている現代的な余裕のなさは、一般的に考えて、昔あった余裕のなさが、形を変えて表れただけなのではないか、と捉える事もできます。
この点について、使わない部屋があったような昔は、物質的な余裕がなく、食べ物にも困る事が多くあったという事がポイント。つまり、余裕のなさが物質的な側面で表れ、日常生活に常に付随していたのだと思います。そして、使わない部屋のない今は、食べ物に困る事は減り、変わりに、より高次な欲求である精神的な余裕に視点が移ってきただけなのではないでしょうか。
精神的な余裕や満足感とは、常に満たされるものではありませんので、どうしても時々は不満や、いらだちなどの余裕のなさが表れてしまいます。そのようにして、昔は常に隣り合わせで日常的だった欠乏や余裕のなさという概念が時々しか出てこなくなった結果、その存在が非日常のものとして際立って感じられるようになったのではないでしょうか。
このように考えた時、現代社会は、不思議な余裕のなさを内包している、と捉えるのではなく、確かな豊かさを持っていると捉えた方が、的を得ているではないかと思います。そして、そのように考えた時、人生の豊かさに思い至るのではないでしょうか。
この書籍では、人間の感情の面白さ、世界の不思議、些細なことに表れる人間の内面の奥深さを的確に捉え詳しく解説します。良質な作品が多数紹介されていますので、興味のある人は是非読んでみてください。