反知性主義って何?
反知性主義はもともとアメリカで生まれた概念で、「知性と権威が強く結びついている社会や、知識のあるものが権力を持つという風潮に対する反発」を表しています。「知性そのもの」を否定しているのではなく、「既存の知性主義や権威」を否定するものなのです。
英語の「Anti-intellectualism」を和訳した言葉が「反知性主義」なので、「知性主義に反する」姿勢という意味が正しいはず。しかしその語感から、日本では「反・知性、という主義」という具合に、本来とは別の意味でとらえられているのが現状です。主に日本で語られる「反知性主義」は、「データや根拠、論理性を鑑みず、自分の持つ感情や感覚を頼りに生きる姿勢」のことと考えられています。
本来の意味の「既存の権威への反発」は、見方を変えると、反知性主義が権威を崩壊させ、そこから「新しいものが生まれる」可能性もあります。
メジャーなものに対する反発は常にあるものです。歴史を見ると、徐々に反発する勢力が大きくなって旧勢力をつぶし、それが新しい秩序をつくって大きくなるとまた新たな反発勢力が生まれる、というサイクルが回っています。事実、これを繰り返すことで現代社会がつくられてきましたし、「既存の社会秩序を壊して次に進む」という動きは、時代の中に常に存在することは間違いありません。
また、最近では「ポピュリズム」という言葉も、「反知性主義」と並列で語られることが多くなってきました。ポピュリズムとは、「一般人の不安や願望をあおり、既存の政治や知識主義を批判していく政治姿勢」のこと。政治家が大衆を味方につけるために人気取りのような行動をすることで、社会を間違った方向に導くのではないかということで危惧されている思想です。日本では主に「大衆迎合主義」と呼ばれています。
ポピュリズムの台頭を示す現象としては、米トランプ大統領の当選、イギリスのEU離脱などが代表格とされます。日本でも、安倍政権のやり方は「反知性主義的」そして「ポピュリズム政治」だと揶揄されることが多くなっています。
「反知性主義」を語るときには、その言葉が「本来の(アメリカの)反知性主義」なのか、「日本で使われる反知性主義」なのかをはっきりさせておかないと、誤解を招く恐れがあります。今回ご紹介する本も、本によってとらえ方が分かれていますので、そのあたりを整理しながら読み進める必要があるでしょう。
反知性主義はいかにして生まれたのか?
まずは、アメリカにおいて「反知性主義」がどのように生まれてきたのか、その歴史を考える本をご紹介します。実は、反知性主義が生まれる背景には「キリスト教」が大きく関わっていました。
- 著者
- 森本 あんり
- 出版日
- 2015-02-20
本書では、アメリカにおけるキリスト教の広まりから、反知性主義の成り立ちが語られます。クリスチャンである著者自ら、キリスト教を「ウイルス」に例えるなど、かなり挑戦的かつ冷静に、宗教を客観視しようとした内容になっています。
本来の反知性主義のはじまりとされる「知性と権力の固定的な結びつきに対する反感」は、アメリカのダイナミズムの底流にあると、著者は言います。現存の既得権益を壊し、新しい秩序をつくりたいという思いが、イノベーションの土壌となることもある、ということでしょう。
注意しておきたいのは、副題の「アメリカが生んだ『熱病』の正体」という文言です。『熱病』という言葉から「単なる危険思想」という「日本の反知性主義」に近い形での理解をしてしまう方もいそうですが、本書の内容は「本来の反知性主義」を解説したものです。
日本における反知性主義の捉え方
次は「日本の反知性主義」についての本です。コラムニスト・小田嶋隆氏が「日経ビジネスオンライン」に掲載したコラムに加筆修正を加えたエッセイ集が本書です。
- 著者
- 小田嶋 隆
- 出版日
- 2015-09-15
反知性主義の本来的な意味と日本でのとらえられ方の違いを指摘したうえで、「日本の反知性主義」的指向を論じていきます。紹介される反知性的指向は5つ。例として1つをあげると、「選ばれたんだから諦めて、醜態を見せなさい」という生贄指向があります。
企業の不祥事や有名人の不倫騒動などでは「謝罪会見」が求められますが、これは不祥事の原因解明ではなく、人々の溜飲を下げるために「謝ることが目的」とされているように見えます。これが、感情や感覚で動く「日本の反知性主義」の特徴として表出している事象と考えられます。
他にも「ホントのことを言っているんだから仕方ないだろ? 」という本音指向、「それって、どういう意味があるからやってるの? 」という功利指向など、社会的にありがちな言説を取り上げており、興味深く読み進めることができます。