安倍晴明といえば式神を自在に操うなど、どこかファンタジーめいた人物という印象で「あ〜、好きな人は好きだよね。」と少し距離を置いてしまう方もいるかもしれません。しかしこの5冊を読むと縁遠いと思っていた陰陽道の面白さがわかります。

1:呪術だけでなく、風水や漏刻、租税の計算も行った
陰陽師が呪術を職掌とするようになるのは平安時代になってからとされています。本来の仕事は風水による土地の吉凶占い、漏刻と呼ばれる水を使った時刻管理、遷都の際の方角計算等でした。平安京遷都の頃に呪術を掌る部門が陰陽頭に統合されたことから、呪術・陰陽師の歴史が始まります。
晴明も本来の仕事は土地関係に関するもので、もちろん現代とは全く異なるのですが理系に属する人間だったのです。 晴明はのちに出世が認められて主計寮という部門に配属となりますが、ここは租税の把握・徴収が主な仕事であり、経理の知識が必要です。晴明は算術に長けていたのでこうした仕事は現実的にも可能だったのでしょう。
2:母はキツネ?そのカリスマ性を物語る逸話について
晴明の伝説は早くは生前から伝えられてきましたが、その中でも有名なのが彼の不思議な力の由来が人間と妖怪のハーフだということです。
そのは落語でも有名な『信太狐』にあります。 狐の生き胆を得ようとした男に負傷させられた狐は人間に化けて阿倍野に住む安倍保名に匿われ、恋仲になりました。そして生まれたのが晴明ですが、彼が5歳の時に葛の葉は自分の正体を知られてしまい去っていきます。その時晴明に力を授けました。
やがて宮中に入った晴明は葦屋道満と術比べをすることになり父も殺されてしまいますが、最後は晴明が勝ち父の汚名を晴らし道満は打ち首となり、晴明は天文博士となりました。 以上の話はもちろん架空に過ぎませんが、晴明の母はキツネという話は後世の捜索では定番の設定となります。
3:原因不明だった花山天皇の頭痛を治した
晴明は花山天皇が病気になった時に治療をしています。 花山天皇は若い頃から頭痛持ちでした。多くの医者に診せても一向に原因がわかりません。そこで晴明を呼び出して治療を試みます。
彼いわく、花山天皇の前世はとても徳の高い行者でしたが、路上で死にその頭蓋骨が今岩場に挟まっていて来世の自分に痛みが伝わっているのだというのです。 側近達はさっそく指示した通りの場所に行き、挟まってあった頭蓋骨を取り除きます。すると花山天皇はすっかり元気になりました。
もちろんこんなことで頭痛の病巣が取り除けるわけはないのですがこれは要するに花山天皇の頭痛がストレスから来ていることだと見抜いた晴明が、安心させるためにやった一種の芝居だと言われています。当時は陰陽師らが行う占いが世の政治や政治家の行いを決めていました。そのため、何かあったら占いを行い、彼らが思うような結果を出して心を落ち着かせるという心理カウンセラーの役割もあったのです。
4:蛙を葉っぱで殺した
晴明はある時、広沢の僧正に会うために遍照寺を訪れました。その時に若い僧達が彼に「あなたは式神を使うそうですね、人を殺すことはできますか?」と聞きます。晴明は虫を殺すことは簡単にできるが人を殺すのは簡単ではない。生き返る術を知らないから無益な殺生はしたくないとその場で試すことを拒否します。
しかしそれで僧達は彼の能力を疑います。そこで晴明はやむなくその場にいる蛙に葉っぱを投げつけました。すると、蛙は葉っぱの下で潰れてしまい死んでしまいました。これに若い僧達は何も言えなくなり、震えてしまいます。
式神を使ったといわれますが、これも代表的な伝説の1つで本当にあったこととは思えません。いったいどのようにしてこんなことを演じたのかはわかりませんが、晴明は演出力にも長けた人物だったのでしょうか?
5:畿内だけじゃない、日本全国にある晴明の痕跡 について
晴明は死後100年頃経った頃はすでに伝説と化していました。彼の本籍地は大阪にあるとされていますが、その墓は当然平安京のあった京都にあります。
晴明を祭った神社や晴明の名を冠した名跡は、西日本を中心に全国各地に存在し、「晴明神社」と名の付くものだけでも、大阪・京都はもちろん、愛知、福島、岡山、福井、東京とあちこちに存在します。各地に伝わる伝承によると、それらは彼が全国を巡礼した際にそれぞれの自然災害等の問題を解決していったとする話が元となっているのです。
寺社仏閣に限らず、晴明にはそうした痕跡が数多く見られます。これは安倍晴明という人物をプロバガンダにして朝廷が全国的にその影響力を及ぼさせようとしたのではないかと思われます。
6:晴明の創作作品はむしろ現代の方が多い
安倍晴明がテーマの創作は平安~鎌倉時代の古典の他には江戸時代の人形浄瑠璃や歌舞伎がありますが、現代の小説や漫画もかなりの数があります。特に有名なのが1986年刊行の夢枕獏氏の小説『陰陽師』です。こちらはテレビドラマにもなり、稲垣吾郎氏や市川染五郎氏が主演しています。
もっと最近ではフィギュアスケートの羽生結弦がドラマ『陰陽師』のサントラを使っていますね。実は陰陽師関連の創作が増えてきたのは1990年代に入ってからです。2000年代になってもしばらくは陰陽師がテーマの作品がいくつか作られています。
さすがに2010年代になると減少してきますが、そのキャラクターから安倍晴明はすでに欠かせないキャラクターになっています。
350ページ程の本ですが、物語は一貫して十二神将を召喚して橘の姫君を救うというシンプルなストーリー。十二神将を使役するにあたって、一人一人の神将が、安倍晴明が主人にふさわしいかどうかを試していきます。その過程で神将の性格や見た目を詳細に知ることになります。
- 著者
- 結城 光流
- 出版日
- 2013-03-23
夢枕獏『陰陽師』等では若々しいイメージの安倍晴明ですが、実はその活躍が顕著に見られる期間は60歳代〜80歳代と老齢であったようです。陰陽寮の中の天文博士について天文道を学び「天文得業生(成績優秀な学生)」となったのが40歳、52歳でようやく「天文博士」となって重要な職務にも携わるようになります。
- 著者
- 斎藤 英喜
- 出版日
「生まれたのは延喜二十一年の頃、醍醐天皇の世らしいが、この人物の生年没年は、この物語とは直接関係がない。」(『陰陽師』より引用)
- 著者
- 夢枕 獏
- 出版日
夢枕獏『陰陽師』を原作としてはいますが、岡野独自の世界観が楽しめる漫画です。陰陽師とはどのような仕事なのか、私たち自身にも深く訴えかけてくる作品で、特に最終巻では「そういう終結の仕方をするのか!」と驚きつつも爽快な読後感を与えてくれます。
- 著者
- 岡野 玲子
- 出版日
古代人の考える暦は現代の私たちが考える無個性な時間の感覚よりももっと季節に即しており、また神仏・鬼神とも密接に関係し合っています。
- 著者
- 藤巻 一保
- 出版日
安倍晴明は怪奇な事件を何でも解決できるスーパーヒーローであり、また史実と照らし合わせれば地道な勉強を積み重ねて陰陽寮のトップに上り詰めた官僚だという一面もあり、解釈の仕方は読者に任せられています。
もちろん現代の私たちの暮らしは平安時代とはうって変わって夜も明るいものですし、目には見えないだけで空間を神仏や鬼神が動いているのだと考える人も滅多にいないでしょう。しかしだからこそ「安倍晴明」にまつわる本を読んで、私たちの目には見えないものを見、人生をかけて取り組んだ晴明に思いを馳せる時、きっと心に潤いを補給できると思います。