利益の上げかたを事例から学ぶ
さて、経営戦略の俯瞰した知識と、戦略立案の基本的な知識は身につけました。では、いざ自社の経営戦略を描こう!という段に知っておきたいのが「どの戦略が勝てそうか」でしょう。
前述した『経営戦略全史』も『経営戦略の基本』も、経営戦略を描くためのフレームワークをまとめていた本でした。それに対して、次に紹介する『プロフィット・ゾーン経営戦略』は、経営戦略による「勝ちかた」をまとめた本だと捉えると良いでしょう。
プロフィット・ゾーンとは、利益を生み出す場所・方法のこと。経営戦略を「他社よりも多くの利益を稼ぐための戦略」と捉えなおすならば、業界や時間の変遷によって異なるプロフィット・ゾーンのあり方を知っておくに越したことはありません。
- 著者
- ["エイドリアン・J. スライウォツキー", "デイビッド・J. モリソン"]
- 出版日
本書がすごいのは、利益の上げ方を、22ものモデル(型)に分類して、詳細に論じたことです。この利益の上げ方を知ることができれば、次のような発想を生むことができるようになります。
「この業界の常識はAの利益モデルだけれど、自社は敢えてBの利益モデルにすることで、後発ながら競争に勝つことができるだろう」
しかも22の利益モデルについて、その一つひとつに、数社の具体的な事例がついています。古い企業や、海外なのでなじみのない企業もありますが、知っている企業も多いはず。それらの企業が「どうして勝っていたのか」、あるいは「何を利益の源泉にしていたのか」を自分のなかに整理できれば、自社の経営戦略を描くときに、複数のオプションが見えてくるはずです。
なによりも、22もの利益モデルを、或る所は首肯しながら、或る所は首を傾げながら、批判的に読んでいけるだけでも楽しい思考実験になるはず。読むこと自体が、知的スリルに富んだ、経営戦略の絶好のトレーニングでしょう。
なお、本書が教科書的に感じハードルが高いという方には、物語調で描かれた『ザ・プロフィット』という同じ著者の本をおすすめします。この本は、物語にページを割いているため1つ1つの利益モデルの言及は少ないものの、流れとして全体像をとらえられる利点があります。また、『プロフィット・ゾーン経営戦略』より後に出版されているため、利益モデルが1つ新たに追加され、23のモデルが書かれている点もおもしろい点です。
経営戦略にストーリーを持たせる
さて、経営戦略の俯瞰した知識と、戦略立案の基本的な知識を身につけ、利益の上げ方も学びました。ここから経営戦略を作り上げるわけですが、その戦略は、競合に真似されないのでしょうか。いつまでも「勝ち続ける」ことができるのでしょうか。
そのような疑問を抱いた人は、逆の考えを持つことでしょう。
「いつまでも勝ち続けているような企業は、どのような経営戦略を描いているのだろうか?」
このような悩みを抱いた人におすすめな本が、この『ストーリーとしての競争戦略』です。
- 著者
- 楠木 建
- 出版日
- 2010-04-23
著者は、一橋大学で長年教鞭を取っている楠木建氏。長年、数々の経営戦略を分析しているうちに、何が良い戦略で、何が良くない戦略なのか、の境界線に気づいたといいます。それが、「経営戦略に、ストーリー性があるのかどうか」ということでした。
ストーリーというのは何も、ただ、戦略を流れるように説明することができる、というものではありません。一つひとつの戦略とそれにひもづく打ち手が、次の戦略に結びつくような、意味のある連鎖があることをここでは指しているのです。
例えば、本書には、小型モーターのトップメーカーであるマブチモーターの事例が登場します。モーターの生産企業というのは、顧客に合わせて少量多品種を作ることが通例でしたが、そのなかでマブチモーターはモーターの標準化を推し進めます。この「標準化」という戦略が、単体ではなく、複合的なストーリーとしての戦略を生んでいくのです。
当初、マブチモーターは他のメーカーの例にもれず、コスト削減、大量生産を進めていました。しかしそのなかで、顧客からの規格注文に応えている限りどうしても大量生産ができないという現実に直面します。ここでマブチモーターは、異例なことに、2種類のモーターを作り、それを使ってもらうことを顧客へ提案してまわりました。
当然ながら、顧客は憤慨します。そんなことは求めていないからです。しかし、理解のある一社だけがその提案に乗りました。標準化ができたことにより、大量生産が可能になり、モーターの価格は下げられることになりました。すると「安いならモーターは同じでいいか」と考える他社が追随してきます。さらに大量生産が可能になり、コストは押さえられ、いつしか注文生産を続ける競合他社とはまったく違うビジネスが生まれていたのです。
それだけではありません。ここからが「ストーリー」の持つ強みです。注文生産に応じた範囲でのコスト削減や大量生産では、競合他社も真似することが可能であり、持続的な差別性が生まれません。しかし「標準化」を進めたことがコアであり、大量生産やコスト削減はその「結果」です。すると「標準化」に伴う、ストーリーとしての「太さ」と「長さ」という強みが派生するのです。
「太さ」とは、横展開。標準化をすすめたことにより、当時の顧客であった玩具メーカー以外にも、ラジカセに使う音響メーカー、ドライヤーに使う家電メーカー、ドアミラーに使う自動車メーカーなど、他業界にも顧客を広げられることになりました。また、標準化を進めることにより、営業の効率化、部品の内製化なども進めることができ、経営効率も大幅に高めることができました。この2つの横展開が、経営戦略を強固なものにしたのです。
そして「長さ」とは、時間です。前述のように他業界へ顧客を広げたことと、また「標準化」という競争の仕方がそう簡単にはマネできることではなかったことから、何十年間も続けて、持続的な競争優位性を築いたのです。
これこそが、ストーリーです。
「太さ」と「長さ」を得られるようなストーリーを生む経営戦略は、そうそう作れるものではないでしょう。しかし、前述する本と実践を通じて、基本的な経営戦略を描けることができるのであれば、競合他社に差をつける、ストーリーのある戦略の立案を、目指してみてもいいのではないでしょうか。
やはり事例から学ぶのが一番!
経営戦略はナラティヴ(物語的)でなければならない。…楠木氏のこの発想を突き詰めてゆくと、結局、経営戦略の根幹にあるのは、各企業が辿った歴史に他ならない、ということに気づきます。
なぜなら、歴史こそ、物語的に綴られた、勝者の軌跡であるからです。
最後はそのような、珠玉の事例から経営戦略を学べる本として、おすすめの一冊を紹介しましょう。それは、『P&G式 勝つために戦う戦略』です。
おむつや、シャンプーで有名なP&G。世界有数の大企業であるこの会社が、危機に陥っていた2000年ごろから10年間、危機打開のために、大きな改革に取り組みました。それを一つの経営戦略の例として、理論化したのが本書です。
- 著者
- ["A・G・ラフリー", "ロジャー・マーティン"]
- 出版日
- 2013-09-06
著者は、P&Gの以前のCEOアラン・ジョージ・ラフリー氏と、トロント大学の経営学者ロジャー・マーティン 氏。この2人が、P&Gの成功の軌跡を辿りながら、企業経営における「戦略」の重要性を指摘します。
著者の2人は、「大当たりの商品を生み出したとしても、戦略を欠く企業はいずれ死ぬ」、「常に企業は、勝つために戦う戦略を模索していなければならない」と言い切ります。また、「戦うために戦うのではない。勝つために戦うのだ」とも。
では、何をもって「勝つ」と言うのでしょうか?また勝つためには、「どこ」で戦うべきで、そして、「どのように」戦うべきなのでしょうか?
P&Gが辿った軌跡を追体験しながら、こういった問いの答えを、本書の中に探してみてください。その試みにより、それこそ抽象的な理論だった経営戦略が、本当に現実的な思考に結びつく最後のステップになるはずです。