『預言者ピッピ』あらすじ
- 著者
- 地下沢 中也
- 出版日
- 2007-05-05
『預言者ピッピ』はもともとギャグ漫画畑の人だった地下沢中也の作品です。それまでとは異なる真面目なSF漫画に、当時多くの人が驚かされました。緻密に張り巡らされた設定と、人間の暗さをリアルに描いた本格SF漫画です。意外と知られておらず、SF好きの人なら一度は読んでほしいもの。技術をもった人間がどうあるべきかを問いかけてくる衝撃作です。
ピッピは地震予知のために作られた人型ロボット。発明者である瀬川博士のもとで、彼の息子タミオといっしょに暮らし、ふたりは兄弟のように育ちます。タミオと遊びながらピッピは「世の中」を学んでいきますが、それは計算と予測、そして人間の予想の範疇を出ないものでした。例えば、いくらタミオに「僕が空を飛べるように祈って!」と言われても、何かの結果のために「願う」という概念すら分からなかったのです。
しかし、タミオが交通事故で亡くなった場面を目の当たりにして、ピッピの人工知能は夢を見ることを知ります。
「もしも願うだけでこの世のすべての災いがなくなるのなら(中略)ぼくはきっとそうする もしもそれで願いが叶うなら」
そして長い停止状態から目を覚ました時、ピッピはそれまでとは異なり、確実に自我を持った存在となっており、その予測も人間の想像を超えるものとなっていたのです。
【ネタバレキーワード1】ピッピの中に生まれた新たな人格、タミオ
出典:『預言者ピッピ』1巻
ピッピは当初、機械学習を行う、地震予測を主とした特化型人工知能でした。特化型人工知能とは文字通り何かの目的に特化して生み出された人工知能のことです。しかしピッピは現実世界で死んだタミオを忘れないために彼を自身の頭の中で生き返らせます。
どういうことかというと、ピッピの中のタミオのデータを集め、それに自己学習能力をつけて日々進化する存在としてタミオを複製したのです。タミオでありながら似て非なる存在。しかしその存在こそがピッピを汎用型人工知能に変えた原因なのでした。
汎用型人工知能とは特化型人工知能とは異なり、人間のように自律的に学習できる能力のこと。例えば地震予測をしながら、それによって起こる津波の被害や経済的影響まで考えられるようになるという、より人間的な考え方ができるということです。
ピッピの頭の中にタミオが生まれたことによって、ピッピは現象や結果に「なぜ」と問うことを学びました。より深い自己学習を学んだ彼は学習意欲を持ち、地震予測だけではない情報をも求めるようになります。そして世の中を救いたいという意思を持ち始めるのです……。
【ネタバレキーワード2】人類のターニングポイント、真田の自殺予測
出典:『預言者ピッピ』2巻
ピッピは地震予知に必要なもの以外にも、すべてのこの世のデータを手に入れることができる、入力制限の許可が与えられます。そのことにより、地震のみならず不治の病なども予測できるようになりました。
さらにその予知能力は「バタフライエフェクト」まで予知できるようになりました。バタフライエフェクトとは、ある出来事が波紋を起こし、表面上まったく関係ないと思われることに影響を及ぼすこと。「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こす」という寓意的な表現がもとになっており、日本でいうならば「風が吹けば桶屋が儲かる」でしょうか。すなわち、ピッピの予知は、個人の意思決定や気まぐれと思われる行動まで予知するのです。
その現象を目の当たりにした記者の真田は、個人の人生の結末まで予測可能なのかとピッピに問いかけます。ピッピの中の意思、タミオはそこから始まるであろう悲劇の流れを感じ取り、必死に彼を止めますが、運命の歯車は回り続けます。ピッピは真田がその日から99日後に自殺するという予測を告げるのです。そしてピッピは、真田は死ぬことによって人類の進化の起点となるために生まれてきたとも告げます。
それをあざ笑う真田でしたが、まさにその99日後、彼は自殺してしまいます。それはピッピが予測した画像通りの方法、姿のように見えました。しかし予測画像には不確定要素がありました。真田の腕がはっきりと写っていないのでした。それが予測写真の時から気になっていたタミオ。そしてそれこそが真田の死因となるのです。予測写真では映らなかったものが、真田が実際に自殺した写真には写っており……。