古谷実と聞いてあなたが思い浮かべる作品はなんでしょうか。『行け!稲中卓球部』?それとも『ヒミズ』?両者はまったく正反対の漫画ですが、どちらも古谷作品。今回は作品間のギャップが激しい古谷実作品のベスト6をご紹介します。

主人公の富岡はとにかく冴えません。そのダサさはデフォルメされたものではなく、本当にこんな人いそう、てゆーか気持ちが分かるぞ、となってしまう生々しいリアルさがある人物。だからこそ読んでいて共感でき、彼の辛い境遇に感情移入して辛くなってしまうのです。
富岡は流れ星に祈ります。「友達をください」。32歳、彼女なし、友達なしの中年童貞は学生時代からほとんどの時間を眠ることに費やしてきました。
学生時代ならいざ知らず、大人になってからもとにかく眠るというのは何か見たくない現実があるから。彼はいつのまにか孤独を感じないように感覚を麻痺させ、睡眠に逃げていたのでした。
そんな富岡の今一番の心の叫びは「寂しい」。冴えない主人公というのはよく少年漫画でも登場しますが、少年ならまだいいもの。おっさんが冴えないとそこにあるのは可能性ではなく孤独死の恐れなのです。
しかしそんな富岡の日常がいきなり急展開を迎えます。流れ星にお願いし、職場を後にしようとした彼は閉店後の店の入り口に挟まれた1通の手紙を見つけます。そこに書いてあったのは「お前は一年以内に頭がおかしくなって死ぬ」という文字。
慌てて周りを伺いますが、誰もいません。そしてその後彼のアパートの横に美人の女性・羽田が引っ越してきます。
そこからは急展開の嵐。借金まみれのホームレスの代わりに200万円を肩代わりしたり、ヤクザの女が事務所から金を持ち逃げした事件に巻き込まれたり、友人になった男が盗んだ車に全裸の女性が積まれていたりと、とにかく事件に溢れていきます。
始まりからの展開の変化がすごく、先を読む暇もないほどの速さで物語が進んでいくのです。スピード感ある作品が好きな方には特におすすめです。
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2013-06-12
本作は人の心の闇の描写がリアル。ダークな作品を得意とする古谷実の良さが発揮されたシーン描写が魅力となっています。
例えば富岡が借金を肩代わりするホームレスの性格。調子のいいことばかり言って嘘をつきまくり、挙げ句の果てに借金は必ず返済すると言いながらもう一度富岡に金の催促をするのです。
彼のだらしない様子は派手ではない分とてもリアル。読んでいると今まで出会った人物の面影や自分の嫌な性格などが思い出されるような身近さがあります。
そんな身近さを感じられる雰囲気でありえない事件が進んでいくので、フィクションとはいえそこに自分もいるかのような臨場感があるのです。
単行本版で4巻、文庫版で3巻完結という気軽に読めるものなので、古谷実のシリアス作品を読んだことのない人には入門編としてもおすすめです。
耳慣れない語感の本作タイトルですが、『ヒメアノ~ル』とは古谷の作った造語です。アノールとはトカゲの1種で、ヒメアノールは「ヒメトカゲ」を意味します。沖縄周辺に生息する非常に小型のトカゲです。天敵のヘビに為す術もなく飲まれてしまう絶対的弱者をイメージしたのでしょう。
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2008-11-06
本作は一見すると、ダメ男が一念発起する青春恋愛漫画のようです。幸福と不幸の波が交互に押し寄せる展開などは、恋愛漫画ではお馴染みのプロット。しかし、ドラマチックな恋愛漫画と違ってとても地味で、それだけにリアリティがあります。
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2013-02-08
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2011-12-20
古谷は本作までギャグ漫画を描いてきましたが、これを契機に作風が一変します。物語の根幹は不条理なギャグから、不条理な社会へ。転換第1作の本作は人間の心の暗部を浮き上がらせるサスペンスホラーです。
「笑いの時代は終わりました。これより、不道徳の時間を始めます。」というのが本作のキャッチコピー。
住田は当初、貧乏な自分に悲観することなく、平凡な日常を望む中学生でした。それが怒濤のような転落、不幸を経て父親を殺してしまうことで、「普通の人間」から殺人犯という「特別な人間」になってしまいます。絶望した住田は、まともな人生を送れないのなら、せめて命を有効活用しようとします。そうして辿り着いたのが、悪人殺し。
住田は良くも悪くも、生きることに意味を見出したかったのでしょう。普通の人間が平凡な人生を送るのなら、特別な人間はそれに相応しい振る舞いをしなければならない。そうでなければ生きる意味などないと。
タイトルの「ヒミズ」ですが、これはモグラの1種。非常に小さく、日光に当たると死ぬことから「日見ず」となったそうです。他には「ひずみ」のアナグラムとも考えられます。いずれも社会からはみ出してしまった住田を象徴するかのようです。
住田の友人達、そして住田に惹かれる少女、茶沢景子は彼をなんとか日常生活に引き留めようとします。果たして住田は日の当たる世界に戻ってくることが出来るのでしょうか。
本作は古谷の2度目の連載作品です。実の母を亡くし、家なき子となった兄弟が主人公ですが、悲壮感はほとんどありません。お調子者でおバカなすぐ夫とイトキンが毎回何か問題を起こし、周囲の人間が巻き込まれるナンセンスギャグ漫画となっています。
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2012-06-12
本作は古谷の初連載にして1番の長期連載作品。連載終了してから20年以上経ちましたが、いまだに根強い人気を誇る伝説的ギャグ漫画です。誇張された男子中学生の日常を笑い飛ばす怪作。卓球部が舞台なのに卓球をほとんどしないのも特徴の1つですね。
- 著者
- 古谷 実
- 出版日
- 2011-04-12
いかがでしたか。古谷実ほど活動時期が長く、初期と現在とで作風が違うと、読者の世代で印象がかなり異なっているのではないでしょうか。ギャグもサイコも古谷の一面です。是非この機会に未読の作品に触れて、古谷の懐の深さを体感してください。