村上春樹の新作『騎士団長殺し』の主人公は肖像画家ですが、今回は美術と小説の関係について考えられるようなものを選びました。だんだん脇道をそれていくような感じもしなくもないですが、それもまた読書の楽しみというやつです。。。

現代アメリカを代表する作家と言われるドン・デリーロですが、彼の著作にはときどき現代美術の作品が登場します。ゲルハルト・リヒターの絵画を大胆に解釈した短編もあれば(「バーダー=マインホフ」)、主人公が数多くの現代美術の作品を購入するコレクターである場合もあります(「コズモポリス」)。資本、グローバリゼーション、現代の崇高についての熟考を重ねるデリーロにとっては、現代美術は不可欠な存在なのでしょう。本作『墜ちてゆく男』は9/11直後のアメリカを描いた傑作ですが、そこでも象徴的に描かれる現代美術の作品があります。ジョルジョ・モランディの卓上静物画です。
- 著者
- ドン デリーロ
- 出版日
ポール・オースターもまたアメリカを語る上でなくてはならない小説家です。ニューヨーク三部作と言われる1980年代の秀作も素晴らしいですが(『幽霊たち』はとりわけ好みです)、現代美術との関わりで言えば1992年に発表した『リヴァイアサン』です。本作は、アメリカ中の自由の女神像のレプリカを破壊して回るテロリストが爆死するところから始まります。彼の態度がすでにコンセプチュアルと言えなくもないですが、この小説には実際にマリアというコンセプチュアル・アーティストが登場してます。マリアは道端で見つけた人を尾行して撮影する、という作品を作り続けていますが、これはソフィ・カルという実在する現代美術家の作品(「尾行」)が元になっています。元になっている、というよりもそのままです。
- 著者
- ポール オースター
- 出版日
- 2002-11-28
フォークナーはノーベル文学賞も受賞している押しも押されぬ大作家ですが(彼もアメリカ人です)、彼の小説はびっくりするくらい読みづらいものです。オススメしておいてなんですが、オススメしづらいです。なぜかと言えば一行あたりが超絶長い独特の文章にあります。あるいはまた、誰かの会話中唐突に( )が登場して、別の人物の心中が語られ始めます。これがまた超絶長くて、岩波文庫版ではわざわざ「この )は××ページの(を閉じている」と注釈が入るほどです。これは「意識の流れ」という20世紀の小説において試みられた手法で、小説内の時間を静的なものとせず、複数の視点が絡まりあいながら(同時進行しながら)絶えず変化し続けるものとしてそのまま記述することを目指したものです。
- 著者
- フォークナー
- 出版日
- 2011-10-15
複雑化する小説、というと本当にたくさんの本が挙げられるのですが、今回はイタロ・カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』を紹介させてください(ちょうど最近新装版が出ました)。この本を初めて読んだとき、本当になんなんだ...とびっくりしたものです。なぜなら書き出しが、
- 著者
- イタロ・カルヴィーノ
- 出版日
- 2016-10-06
さて「読み進められない小説」に続いては、時間のかかる読書です。時間のかかる、と聞いてどれくらいの時間を思い浮かべるでしょうか。1ヶ月。半年。1年。あるいは読み通せぬまま本棚にしまったままにされた本もあるかもしれません。宮沢章夫は、横光利一の『機械』という短い小説を、なんと11年かけてちびちびと読み進めていきました。この本はそのおそるべき停滞と蛇行の記録です。毎回毎回、一行一行に、一語一語にこれでもかというくらいにこだわり、考え、疑い、そして横道へとそれていきます。読み進める、という表現はふさわしくありません。その都度その都度全部確かめていくという感じです。消費への抵抗だとか、「メタ文学」の脱構築、といった紋切り型も意味をなしません。ある種の狂気がそこには宿っています。
- 著者
- 宮沢 章夫
- 出版日
- 2014-12-08
最後の一冊ですが、唐突に思われるかもしれません。ともあれ、新田次郎の『聖職の碑』を直接知るきっかけとなった論文があり、先にそちらを紹介させてください。
- 著者
- 新田 次郎
- 出版日
- 2011-06-15