遺跡発掘に生涯をかけた考古学者の物語『ツタンカーメン』
20世紀に至るまで発見されることのなかったツタンカーメン王の墓を発掘した実在の考古学者、ハワード・カーターを主人公とした、エジプトの遺跡発掘に生涯をかける考古学者の物語です。
- 著者
- 山岸 凉子
- 出版日
- 2002-06-01
エジプトでの遺跡発掘に情熱を注ぎ、探求を行っていたハワード・カーター。しかしほとんどの遺跡や墓は、すでに盗掘されて中の財宝もミイラも盗まれてしまったものばかり。そんな折、未盗掘の可能性の高いツタンカーメンの墓の存在を知り、彼は生涯をかけてその発掘に挑みます。
カーという不思議な少年に導かれるようにハワード・カーターはツタンカーメンの墓を探し続けます。実はこのカーは、古代エジプトの王、ファラオが少年の体を借りて現れていたのです。ほとんどの遺跡発掘に携わる人間たちが私利私欲のために発掘を続ける中、知的探求心のための無欲で純粋な発掘を行うハワード・カーターだからこそ、ファラオに選ばれ、導かれたのでしょう。
何度も壁にぶち当たり、発掘が不可能になりかけてもハワード・カーターは諦めませんでした。その思いの強さが作品を通して伝わってきます。熱い。そしてかっこいい。彼の物語は、まさに汗と涙の結晶のよう。紳士的な人物像がより作品を引き立てています。
史実とフィクションをMIXさせて描き上げられたストーリーは決して派手ではありませんが、いつの間にか読者を引き込んでしまう不思議な魅力があります。読んでいくうちに、ハワード・カーターと一緒になってツタンカーメン王の墓を探している気分になっていることでしょう。彼と共に、知的探求心を満たしてみませんか?
山岸凉子の人気短編集『天人唐草―自選作品集』
山岸凉子の短編作品が収録された1冊。中でもタイトルになっている天人唐草は山岸凉子の代表的作品です。一見少女漫画とは思えないリアルな人間の怖さを感じさせるストーリーが収録されています。
- 著者
- 山岸 凉子
- 出版日
どれも人気の短編なのですが、いくつかある中から表題作「天人唐草」をご紹介します。
ヒロインの響子は明るく快活な少女でしたが、厳格で男尊女卑的考えを持つ父親に、理想の女性像を押し付けられて育ちます。抑圧的な性格の大人になってしまった響子は、社会にでた矢先、植え付けられてきた価値観が通じないことに困惑。そんな折他界した母の代わりに父の世話をしに家に帰り、価値観の通じない他者と関わらずに済む生活に安堵してしまいます。しかし、それも長くは続かず……。
何をしても自分本位に叱ってばかりの父親のしつけから響子はうまく生きてゆけなくなってしまいますが、この作品は親から受けたひどい教育、響子はかわいそうだ、というストーリーではありません。自分自身を変えてゆくチャンスが目の前に何度も現れるのに、それでも楽な方へ逃げ、殻に閉じこもり、努力をしなかった響子の辿る人生を描いた、ある意味教訓的ともとれる内容になっています。
子どものころは親の絶対は絶対だったのかもしれません。でも、大人になってからも響子は自分の殻にとじこもり、逃げ続けます。そんな風に生きる響子を待っているのは一体どんな結末だと思いますか?
結局、自分の人生に責任を持てるのは自分しかいません。辛いことがあろうとも、たとえ親のせいであろうとも、自らの意思で立ち向かわなければ何も変わることはない。響子という女性を通して、そういったことを感じさせると同時に、響子の末路にじわっと恐怖が湧いてくること必至です。
これが少女漫画として描かれているところが、山岸凉子の斬新で革新的な部分とも言えます。リアルで生々しいまでの現実で起きうる問題は、大人になって読むとより一層恐怖を感じるかもしれませんね。人間の狂気を見せつけられる恐怖を味わってみてください。
切なすぎるほどの真っ直ぐな愛『日出処の天子』
1980年代「LaLa」に連載され、講談社漫画賞少女部門を受賞した人気作。一見ぶっ飛んだとも思える斬新な設定とストーリーでセンセーショナルな作品となりました。戦後マンガ史に残る傑作と評されています。
- 著者
- 山岸 凉子
- 出版日
- 2011-11-18
主人公の厩戸王子(聖徳太子)と蘇我毛人(蘇我蝦夷)を中心にストーリーは展開します。この厩戸の少年期から、摂政になるまでの物語です。
この作品の斬新なところは、厩戸が超能力者で同性愛者であるという設定。一見ぶっ飛んだ設定のように感じるかもしれませんが、実際に聖徳太子に関する文献に、超能力を持っているとしか思えないような逸話が残されているのです。そのリアリティさは、読み始めればあっという間に読者を引き込む力があります。
天女と見まごう美しさをもった少年厩戸に、毛人は目を奪われます。自らのもつ特殊な力から母親に愛されず、いつも孤独な厩戸に毛人は心を痛め、そしていつの間にか二人は惹かれあうように。しかし、男同士であるふたりに立ちはだかる大きな壁……。
さすが山岸凉子、繊細な心理描写と画力の高さで、登場人物の感情がひしひしと伝わってきます。厩戸の微妙な表情の変化は緻密で非常に細かく描かれ、ほんの少しでもずれようものならそれは別の表情にかわってしまうというほど。
まるで子どものように純粋で真っ直ぐな厩戸の不器用な愛に、胸を打たれること必至。なまめかしいまでに繊細に描かれた厩戸の気持ちは、紙の向こうの世界とは思えないほどにリアルです。
愛してくれなかった母親の影響か、厩戸が女性を嫌悪するシーンが多く見られますが、男でありながら天女のように美しい彼が毛人への恋心に悩まされる姿は、少女そのもの。女性への嫌悪は、本当は母に愛されたかった、毛人と当たり前のように結ばれたかったという思いによるものなのかもしれません。
斬新でいて基本に忠実な切ない少女漫画でもあるという、稀有な作品。ぜひ一度お手に取ってみてください。