3位:大人の初恋は割り切れないし、痛い『初恋の世界』
主人公の薫が40歳を迎えたところから始まります。それまで30代だったのにいきなり「加齢感」がある40代に突入した彼女。改めて人生を考えはじめた彼女ですが、運命は思わぬ方向に転がっていきます。
もともと雰囲気が売りのチェーンの喫茶店で店長を勤めていた彼女に、営業不振の店舗への転勤の話が出てきたのです。しかもそこは彼女の地元。押し切られる形で転地した彼女ですが、そこにあったのは本社の指示とは違うお洒落とは言えない「ランチ」の文字。コンセプトと異なるその営業をしているのは薫の知っている鈴木店長ではなく、「お手伝い」の小鳥遊で……。
- 著者
- 西 炯子
- 出版日
- 2016-09-09
当初は小鳥遊を毛嫌いしていた薫ですが、徐々に機動力のある彼に惹かれていく、というキャリアウーマンの恋を描いたストーリーです。
西炯子のキャラクターの核に「変態性」があるというのは先述の通りです。その「変態性」とは何か。それは彼らの「飛躍力」。彼女の描く変態的な男性たちはみな、「普通」やボーダーラインを軽々と飛び越えて主人公を動揺させます。その歩み寄りは独特で、どこか美しいシーンとして彼女の作品を彩るのです。
本作品では第6話にその象徴的なシーンがあります。どこか浮ついた様子の薫は小鳥遊とふたりで歩いた帰り道でのことを思い出しています。帰り道の話の途中で毛虫に首筋を噛まれてしまった薫。慌てふためく彼女に、小鳥遊は彼女の腰を抱き寄せ、そのまま首元に唇を寄せ、吸い付きます。毒を吸い出し、あとで薬を塗るようにあっけらかんとして言う小鳥遊に、呆然とする薫。
言葉だけで説明するとただの少女漫画的シーンに思われるかもしれません。しかし前述の通り西炯子の癖のない線の細いタッチで描かれたそれは、まるで絵画のように美しいシーンとなります。また、ストーリーでの官能的なアクセントとなるのです。果たして大人の女はそんな常識を飛び越えて接してくる男性にどうほだされていってしまうのでしょうか?怖くて、でも身を任せたくなる恋を描いています。
2位:実写映画化もされた、西炯子の大ヒット作!『娚の一生』
つぐみは東京の大手電機メーカーに務める30代の会社員。初めてとった長期休暇で、祖母が入院していて誰もいない田舎の家にやって来ていました。しかしそんな中、祖母が急逝。そのまま祖母の家に住むことになるのですが、そこには離れの合鍵を生前からもらっていたという50代の海江田という男がいて……。
榮倉奈々と豊川悦司で実写映画化されたことでも話題になった西炯子の人気作品です。その西炯子らしい、海江田がつぐみの足にキスする美しいシーンは、実写映画化のキービジュアルとして多くの人の注目をあびました。
- 著者
- 西炯子
- 出版日
- 2009-03-10
本作品は50代という設定でもあまりある色気を見せる海江田が話題になりました。ロマンスグレーの人物が好きだという「枯れ専」以外の女性たちをも虜にしたのです。それはやはり西炯子の画力によって、現実から少し浮遊したようなファンタジー感がありつつも、妙齢の男性の渋さが表現されているからでしょう。
話題となった足にキスをするシーンも、水を滴らせながらタバコを吸うシーンも、ほおを赤らめるシーンもグッとくるようなセクシーさがあります。そんな色香をまとった男性と、こちらも妙齢のつぐみが織りなすラブストーリーはスローで官能的。その年齢の設定だからこそ出てきた哀愁があります。
ひたひたと少しずつ水が浸透していくように心を通わせていくふたり。まさにオトナ女子のための甘い恋愛漫画です。
1位:変態的で身近な彼ら。西炯子のおすすめ恋愛漫画!『姉の結婚』
ヨリは図書館に務めるアラフォー女性。館内で本を盗もうとしていると勘違いしてしまった男性と流れで一晩を共にしてしまいます。そして実はその彼は中学時代の同級生でした。
しかしその見た目は太っていて生っ白く、「ポーク」と呼ばれていた冴えない少年とは似ても似つかぬイケメンになっていたのです。そしてなぜかそれからその男、真木はヨリにつきまとってきます。しかし彼は既婚者で……。
- 著者
- 西 炯子
- 出版日
- 2011-05-10
昔冴えなかった男性が一途に自分を思い続け、歳を重ねてからもう一度会いにくる。なんともロマンチックな展開ですが、それだけで終わらないのが西炯子の魅力。
まずは真木のその変態性が西炯子作品ピカイチと行っても過言ではないところが魅力。物語にコミカルさと独特の雰囲気をつくりだしています。イケメンではありますが、ヨリへの執着が激しく、彼女を困らせるほどにつきまとい、彼女に容姿が似ているという理由で他人の女性と結婚し、果ては彼女の私物やイメージで頻繁にヌきます。そうしてただひたすら彼女を愛すのです。
そんな真木が無性の愛をそそぐのが40代手前で、長女そして女をこじらせたヨリなのです。西炯子は作品の主人公は自分を投影した人物なので嫌いだと語ります。自分の不満に思うところがどうしたら救われるか、それをテーマにして描かれた物語なのです。そのストーリーの中で動き回る彼女のキャラクターたち。ヨリは特に作者の影響が現れた性格となっています。
臆病で、恋に踏み出せず、自分に言い訳をしながら真木と接する彼女。そしてもう恋で自分が変わるような年でもありません。読者は割り切れなくて優柔不断な主人公にイライラすることもあるかもしれません。
しかしそれこそが物語を読む理由ではないでしょうか。そんな感情移入できるキャラクターが成長する物語を読むと、自分も救われているかのような体験ができるのです。作者も、そして読者も身に覚えがあり落ち着かない気分にさせられるヨリの物語は私たちに感動を与えてくれます。