心を揺さぶる歌声がある。ハロルド作石の名作音楽漫画
コユキこと田中幸雄は14歳の平凡な中学生。人並みに正義感はあっても、なかなか行動に移せない小市民的な少年です。ある日、つぎはぎ模様の犬が子供にいじめられているのを見て、コユキは思わず注意します。すぐに飼い主の少年が現れ、その場は収まりましたが、コユキは関わるのを嫌ってすぐ立ち去りました。
数日後、夜遅くまで遊んでいたコユキ達は、外国人の酔っ払いに絡まれます。言葉が通じないまま襲われそうになった彼らを救ったのは、あの犬の飼い主の少年でした。彼の名前は南竜介。借金は踏み倒す、女は泣かせるというろくでなしですが、音楽に賭ける情熱だけは本物の男です。
竜介はロックバンドを組むメンバーを探していました。紆余曲折を経てコユキはサポートとして参加します。バンド名はつぎはぎ犬の名前を取って「BECK」と名付けられました。この出会いがコユキの人生を大きく変えていくことになります。
- 著者
- ハロルド 作石
- 出版日
- 2000-02-15
コユキは当初、平凡な少年でした。どこも秀でたところはない、しかし普通でいることに耐えられない、というとてもリアルな中学生像として描かれています。『BECK』はハロルド作石初の少年誌掲載作品となりますが、本作の人気はこういったリアリティある登場人物の造形が同世代の共感を呼んだことも一因でしょう。
コユキは徐々にギターを覚え、天性のボーカルとして才能を開花させます。『BECK』はメディアミックスの行われた作品ですが、もちろん漫画版には聴覚的に感じられる歌も曲もありません。しかしハロルド作石の圧倒的な作画、迫力ある描写で観客が熱狂するライブに説得力を持たせることに成功しています。
本作はバンドが成功する過程を描く漫画ですが、日常を疎かにはしていません。話は読者にとってリアルに感じられる日常から、スムーズに非日常へと移行します。それによって現実と劇中は地続きになって、読者はBECKというバンドが実在するかのような錯覚に陥り、より深くのめり込んで興奮を呼び起こす作品となっているのです。
バカ空手?いや、空手バカ。
喧嘩が取り柄の高校生、大場一良。格闘技の経験はありませんが、ジャッキーのカンフー映画に心酔しています。成績は悪く、そのため付けられたあだ名がバカイチ。
そんな一良が通う畠山高校へ、関根茂三という老年教師が赴任して来ます。白髪で威厳に満ちた風体ですが、実は教員免許を取ってから一年足らず。彼にはとある目的がありました。それは一良に空手を教えることです。
一良は関根に付き合ううちに、空手の世界的権威・正武塾で将来を嘱望される永射謙二と戦い、惨敗。一良は雪辱を果たすため、本格的に空手の道へと邁進していきます。
- 著者
- ハロルド作石
- 出版日
70年代に空手ブームを巻き起こした劇画がありました。大山倍達をモデルとした『空手バカ一代』です。『バカイチ』は、そのパロディ作品となっています。
本作で描かれる日常パートはコメディそのもの。頭が大きく、等身は低くなっていて、ギャグ漫画調です。一方、アクションパートの格闘については細かく、痛々しく描写されます。
空手未経験ながら確かな才能を感じさせる一良ですが、関根が一良にこだわるのはなぜなのか。一良の出生に秘密があるようで……。一良に対して、執拗に空手を薦めるあまり、コミカルに立ち回る関根のおかしさは必見です。
果たすべきか、果たさざるべきか。
西暦1600年、ロンドン。特別自由区の劇場で、ある芝居の興行が打たれていました。芝居は絶大な人気を得ていましたが、清貧を尊ぶ清教徒や権力者に疎まれています。役人は強権を振りかざし、劇場を閉鎖しようとしました。敢然と立ち向かう男がひとり。役者にして劇作家、今まさに『ハムレット』を上映するウィリアム・シェイクスピアその人でした。
時は遡り、1587年のリヴァプール。弁が立ち、計算高いランス・カーターという塩商人の弟子がいました。まだ何者でもないその青年の風貌は、13年後にウィリアム・シェイクスピアを名乗る男と瓜二つです。彼は幼馴染みのワース・ヒューズ、従僕のミルと暮らしていました。彼はある時、中国人少女リーを助けます。
ランスは教会で演じる芝居の脚本作りに没頭していましたが、重厚な物語がどうしても書けませんでした。しかし、ひょんなことからランスはリーの才能に気付くのです。彼女の言葉は何者にも勝る見事な詩でした。その詩を取り入れた劇は大成功。ランスは自身の過去、そして野望のためにロンドンを目指す決意を固めます。
- 著者
- ハロルド 作石
- 出版日
- 2010-05-28
英文学史に名だたる偉人、ウィリアム・シェイクスピア。『ハムレット』をはじめ、英語で書かれた最も美しい文学と讃えられる作品は枚挙に暇がありません。シェイクスピアには今なお論争となる疑問があります。彼は一体何者なのか。「失われた年月」と呼ばれるシェイクスピアの空白の7年間がその疑問を後押し、別人説、複数人説が唱えられています。
本作はハロルド作石独自の視点で「失われた年月」を補完し、ウィリアム・シェイクスピアの真実に迫る歴史漫画です。計算高いランス、商才に長けたワース、旧教の司祭ミル、本売りの行商人トマス・ソープ、そして運命を見通す少女リー。タイトルの「7人」とは彼ら5人を指すのか、そうだとすれば残りのふたりとは。あるいはもっと他の意味が……?
もちろん、これは作者の創作した物語です。しかし、空白の7年間は誰も知らないからこそ、創作の中に真実が紛れ込んでいるかもしれません。片田舎の青年がどうして英文学最高峰に上り詰められたのか。シェイクスピアの真の姿とは一体。
ビッグコミックスピリッツに掲載されていた本作はしばらく休載していましたが、2016年に掲載誌を週刊ヤングマガジンに変更、『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』と改題して連載が再開されました。今後の展開に要注目です。