戦争と差別のない世界が来ることを信じた、アンネ・フランクとは?
第二次世界大戦中、ナチスドイツからユダヤ人として迫害を受け、収容所で最期を迎えた少女アンネ・フランク。彼女が逮捕前、ドイツ兵から身を隠して暮らしていた時の日記が終戦後、残された家族から発表され、その平和への願いは世界中で読まれています。
アンネ・フランクは、1929年、ユダヤ系ドイツ人の次女として、ドイツ・フランクフルトで生まれます。アンネが5歳のとき、ドイツ国内でのユダヤ人への取り締まりが強くなり、家族でオランダのアムステルダムへ移住しました。オランダでは事業を営む父の下、平穏な少女時代を過ごします。
しかし戦況は徐々に悪化。ドイツはポーランド侵攻を皮切りに世界大戦へと突入していき、遂にはオランドをも占領下に入れます。オランダ国内でもユダヤ人に対して様々な弾圧を行っていきました。アンネの父オットーはこれに危険を感じ、国外へ逃げたと偽装して、自ら経営していた会社に隠れ部屋を作り、家族で潜伏生活を送ることになります。
アンネは、オランダで暮らし始めてから、13歳の誕生日に父からもらったサイン帳を日記帳として書き続けるようになりました。父母や祖母、姉や友人などとの交流を少女らしい模写で書き残しています。隠れ部屋での隠匿生活は貧窮を極め、当時のユダヤ人の恐怖や不安を映し出す一方、希望を捨てず、戦争や差別がなくなるように願う少女の素直な気持ちが書き記されています。
1944年、ナチスドイツ親衛隊(通称ゲシュタポ)に隠れ家を見つけられ、家族全員逮捕され収容所に送られることになります。1945年収容所の劣悪な環境に姉妹でチフスにかかり、姉マルゴーの死から数日後アンネも息を引き取ります。
終戦後、家族でただ一人生き延びた父オットーは、隠れ部屋から発見されたアンネが付けていた日記を出版します。戦争と差別のない世界を望む彼女の思いは『アンネの日記』として60以上の言語に翻訳され世界中でベストセラーになりました。
等身大の少女の想いを読む
『アンネの日記』は、第二次世界大戦中、ユダヤ人迫害の犠牲になり15歳で亡くなったアンネフランクが、生前、その日常を記した日記です。戦後父親の手で出版された本作は、教育上の観点から一部削除されて発表されています。増補新訂版はそのすべてを含む完全版。赤裸々に綴られた少女の言葉は、世代を超えて考えさせられる1冊です。
- 著者
- アンネ フランク
- 出版日
- 2003-04-08
本書は、アンネが日記を書くようになった経緯を記録しているところから始まります。13歳の誕生日に父親からもらったサイン帳を、初めての日記帳として使い始めるのです。架空のキティという相手に手紙を書いている設定で、日記は続けられていきます。
学校の友人やボーイフレンドとの恋、家族との思春期にありがちな衝突など、少女から大人になる前の微妙な心情と行動は、70年以上前に書かれたとは思えないほど共感できる言葉が並んでいます。読む人の世代により、違った感じ方ができるのではないでしょうか。
ドイツの取り締まりが厳しくなり、閉鎖された隠れ家での生活は、相当のストレスを感じたことでしょう。14、5歳の少女には過酷な状況だったと思います。家族内での喧嘩や中傷に、その行き場のない感情が写し出されています。
しかし、過酷な状況で悲壮感漂う少女の日記ではありません。歴史的にも暗黒な時代に、希望を捨てず未来に夢見る少女の姿がそこにあるのです。本作は、完全版ですので性的描写なども含まれていますが、10代の子どもたちと、子を持つ親としても読むべき作品といえるでしょう。歴史の生き証人の少女の言葉は、平和を望むすべての人が記憶しておかなくてはいけないと思います。
1人の少女が残した足跡を追う
『アンネ・フランクの記憶』は、作家小川洋子がアンネ・フランクの足跡を旅したエッセイです。『アンネの日記』との出会いが作家としての道へと繋がったとする著者のアンネ・フランクへの愛情が伝わってくる旅行記的な作品です。
アンネは第二次世界大戦のドイツによるホロコースト被害者として、悲劇の少女のイメージが強いのですが、著者は一少女としてのアンネの感性や文章を愛し、アンネ・フランクゆかりの地を巡ることで少女の等身大の姿を描き出します。
- 著者
- 小川 洋子
- 出版日
- 1998-11-01
ドイツ、オランダ、ポーランド、スイスなど様々な国を、アンネの軌跡をたどり歩きます。関係者へのインタビューも交え、アンネ・フランクの実像が浮かび上がります。特筆すべきはアンネが隠れ家に落としていった日記帳を拾い、アンネの父オットーに渡した人物ミープ・ヒースへのインタビュー。アンネを支えた人から語られる実物大のアンネ・フランクに、涙を禁じ得ません。
また、著者は、アウシュヴィッツなどの収容所も見学しています。過ぎ去った歴史と、過去の悲惨な歴史が交差する特殊な描写は、言葉で言い表す以上のことを伝えているように思えます。悲惨な過去と少女の悲劇を悲観的にならない文章で綴る本書は、『アンネの日記』を読んでいなくても感動できる魅力的な作品です。