3位: 駆け抜けていった青春物語、紡木たく最大のヒット作『ホットロード』
「もしかしたら一生のうちで なにも見えないで走ってしまう時は ほんの一瞬かもしれない」(『ホットロード』より引用)
連載期間1年5か月、単行本全4巻で公称売上は累計700万部。少女漫画史上、単行本1巻あたり150万部以上を売り上げた漫画は指折り数えるほどしかありません。本作『ホットロード』は、とてつもない勢いで世間を席巻した作品といえるでしょう。
- 著者
- 紡木 たく
- 出版日
- 1995-08-18
主人公は、14才の和希。ママの誕生日に万引きで捕まるところから物語は始まります。父親はもうおらず、ママは高校時代から好き合っている男と不倫関係。自分は好きじゃなかった人との子どもなんだ、と自己肯定できずにいる和希は、あまり良いとはいえない家庭環境の中で、心は荒み、まるで投げ割ったグラスのように尖っていました。
そんなある日、和希は横浜からの不良高校生絵里に連れられ、地元湘南の集会に出入りするようになります。ママと衝突しながら、一歩ずつ今まで知らなかった世界へ足を踏み入れていく和希。そこで出会ったガソリンスタンドで働く暴走族春山から、こう誘いを受けます。
「オレの女にならない?」(『ホットロード』より引用)
春山に反発しながらも、どこか気にかけてしまう和希ですが、春山には他に好きな女である美穂子の影がちらついていて……。周囲からの影響もあり、付き合っていくことになった和希と春山の恋の行く末はいかに。
最初はただのやり場のない心の棘を抱えていた和希が、髪の脱色に始まり、自虐的に徐々にグレていく様子は、紡木たくの繊細な描写によって、グレに共感を持てない方の心にもすっと入ってきます。人気があるからと物語をずるずる引き延ばしたりすることもなく、青春を走り抜ける若者たちを一気に描き切った紡木たくの最大のヒット作を、ご堪能ください。
2位: キレイなうたにあこがれて『机をステージに』
『別冊マーガレット』1985年8月号から11月号まで連載された本作。何かに熱中にすることもなく、夢もなく、他人には悩みはないと言いつつも、そこそこ悩んでいる高校1年生佐藤真紀がこの物語の主人公です。
- 著者
- 紡木 たく
- 出版日
真紀が目で追ってしまうのは、入学式でケンカ騒動、新入生歓迎会で先輩の機材を奪ってゲリラライヴを敢行した高屋くん。真面目なクラスで、過ぎていく日々に何か物足りなさを感じる真紀は、高屋くんのバンド「マーガレット」のキレイなうたが忘れられないのでした。
「高屋くんをはじめて見たとき こわれそうなひと…って そんな感じがしました」(『机をステージに』より引用)
特別距離が縮まる訳でもなく、真面目なクラスの中で浮かんだ状態の高屋くん。そんな折、ある日突然、高屋くんの相棒で、真紀に冗談ばかり言ってくるようになったカンサイから、ピアノが弾けるということで「マーガレット」に誘われて、物語は急速に始まっていくのでした。マーガレットに誘うカンサイと、マーガレットに女はいらないという高屋くん。真紀の人生はどう変化していくのでしょうか。
主人公は真紀ですが、高屋くんの描写も多く、特にカンサイとの友情シーンは恋愛とは違う憧憬ものです。人が人を理解するということはどういうことか、今を生きるとはどういうことか。刹那的な今を生きることを選んだグレの世界観とは異なる、ただ少し反抗的な高校生が今を生きる姿に光を当てた不朽の名作です。
1位: 人生の友になりうる、紡木たく渾身の作品『瞬きもせず』
舞台は海と山に囲まれた、山口県のとある町。そんな町にある少しのんびりした県立高校に、自転車で40分かかるもっとのんびりした町の中学校から進学してきた、かよ子。テニス部にも入り、少しずつは慣れてきたものの、どこか気恥ずかしさも持ったままの高校生活でした。
ある日、何の変哲もない手紙を授業中に回すやりとりの中で、かよ子宛に好きな人がいるかどうか、恋バナの手紙が届きます。手紙のやりとりが数度行なわれた後、屋上に呼び出してきたのは、クラスで気になっていた紺野くんだったのでした。
サッカーに、バイトに、頑張っている紺野くんを見て、男の子に慣れていないこともあり、毎日緊張するかよ子。送ってもらったり、夏祭りに行ったり距離は縮まるのに、2人の隙間は縮まりません。そうしているうちに、かよ子は紺野くんを誤解させてしまうのです。「かよ子にフラれた」と。
- 著者
- 紡木 たく
- 出版日
こんな始まりの第1章(単行本1巻相当)と、その後高校3年間+αを描いた第2章(単行本2~7巻相当)に分かれる、かよ子と紺野くんの恋愛物語。2人の距離は、離れては近づき、寄せては返していくかのように揺れ動きます。2人付き合うことへの迷いと不安。そして、この山口の小さなまちで暮らす生活を終えるか、続けるか。常に終わりを意識させられながら進む物語は、どこに終着するのでしょうか。
「いつか このせまいところから 出る日がくることも 口には出せないけど なんとなくわかりかけてきました 夢はおわるのではなく きっと変わりながら続くもの」(『瞬きもせず』より引用)
本作は舞台が山口ということもあり、全編セリフは山口弁で描かれています。どこか愛らしく、透き通っていて、西日本の言葉に馴染みがなくとも心に染み込んでくる会話。かよ子と紺野くんだけではない、魅力的な友人たちや後輩たちとの人間ドラマも必見ですよ。青春を生きる読者には理解と共感を、青春を生きた読者には淡い暖かい感情を。様々な感情を惹起させる本作を、紡木たく作品の中で1番手とさせていただきました。