3位: 打ち明けられた同級生の黒い秘密『リバーズ・エッジ』
第3位は、『CUTiE』にて、1993年から1994年まで連載されていた本作。主人公は、どこにでもいる普通の女子高生若草ハルナ。物語は、ハルナの元彼氏である観音崎にいじめられている同級生山田一郎を助けたことから始まります。
「ボクの秘密の宝もの教えてあげる。誰にもまだ教えてないやつ。見て欲しいんだ」(『リバース・エッジ』より引用)
いじめから助けてもらった一郎はハルナにこう言って、自分が今までたった1人で抱え込んでいた秘密——河川敷にある一体の白骨化した死体——を打ち明けるのでした。
- 著者
- 岡崎 京子
- 出版日
本作の面白さはどこにでもある日常の風景の中に、心が凍りつくような恐ろしさが隠されている点にあるといえます。一郎は、なぜ死体を自分の秘密として隠していたのか。そしてその秘密を、なぜハルナにだけ打ち明けようと思ったのか……。
登場人物は、皆普通の高校生たち。しかしこの一体の死体を軸にして、それぞれの価値観や考え方、10代特有の狂気が交差していくのです。
「あたしはね『ザマアミロ』って思った。」
「『ザマアミロ』って?」
「そのとおりよ。『ザマアミロ』って。世の中みんなキレイぶってステキぶって楽しぶってるけど、ざけんじゃねえよって。ざけんじゃねえよ。いいかげんにしろ。あたしにもないけど、あんたらにも逃げ道ないぞ、ザマアミロって。なーんてね」(『リバース・エッジ』より引用)
これは「秘密」を共有するもう一人吉川こずえが、ハルナに河川敷にある死体を見つけたときの感想について、問いかけ、語るシーンでの会話です。この会話から、こずえの心に潜む闇が想像できます。こずえは、現役女子高生モデル。スレンダーな身体に、美人にしか決して似合わないベリーショートの黒髪。テレビや雑誌などでも活躍する、同年代女子から見たら憧れの存在です。周りから見たら一見悩みなどなさそうな華やかな彼女が抱える心の闇が、一体何なのか気になってきませんか。
「TVや映画で何回も死体はみたことはある。でもそれは生きている人間が『フリ』をしているだけだ。本物の死体をみるのははじめてだった。でも実感がわかない」(『リバース・エッジ』より引用)
ハルナは初めて死体をみたとき、このような感想を抱いていました。「実感がわかない」。10代後半である登場人物たち。戦争時代からは考えられなかったような「満たされた環境」。生まれた頃から「用意された贅沢な生活」。
明日食う米がなくて困った経験などしたことがないから、わからなかったのでしょう。生きるって何なのか。死ぬって何なのか。ただ目の前にあって、見て、触って、自分で感じることが、すべてであるという感覚。それが10代であるハルナたちのリアルなのではないでしょうか。
10代の頃の純粋ゆえに残酷な、危なっかしいあの頃の毎日が、これでもかというほどリアルに描かれた傑作を、ぜひお手に取ってみてくださいね。
2位: 岡崎京子が描く、愛と資本主義『pink』
第2位に輝いた作品は、1989年より『Newパンチザウルス』で連載された本作。「愛と資本主義」をテーマにして描かれています。
主人公ユミは昼はOLとして働きながら、夜は売春婦として働く女の子。彼女はペットとしてワニを飼っています。
「いいっていいって気にしなくて
オマエは私のスリルとサスペンスなんだから」(『Pink』より引用)
食欲旺盛なワニに向かって、ユミが餌を与えながら言う台詞です。彼女はワニの餌代を稼ぐために、売春婦をしていたのです。一見、ワニを愛しているように思えるその言動。ユミは「愛しているものの為なら身体も売れる」という感覚の持ち主なのでしょう。
そんなユミの実母は自殺しており、この世にはもう存在しません。父親は再婚していますが、継母の結婚は父親の財産目当て。ユミは優しくてきれいだった実母が大好きでした。だから継母の愛人である大学生のハルヲに自ら近づき、ハルヲと付き合い始めるのです。それをきっかけに、物語は良からぬ方向へと進んでいきます。
- 著者
- 岡崎 京子
- 出版日
- 2010-07-29
「あたしは悪いけど立ち直りが早い
それは頭が悪いせいと
目の前の事しか考えないから」(『Pink』より引用)
ある衝撃的な事件が起きた後のユミの心情です。この表現には驚かされます。ユミはなぜ、このような思考回路になったのだろうと考えさせられることでしょう。ユミのワニへの愛は、果たして本物だったのでしょうか。しかしそもそも愛とは何なのか。ここに本作が描く最大のテーマが隠されています。
「愛と資本主義」というテーマを、岡崎京子流に描いたらこんなにも面白くなるのかと感心せざるを得ない作品を、満喫してください。
1位: 究極の美を追求した先に、あるもの『ヘルタースケルター』
第1位には、『FEEL YOUNG』で1996年まで連載されていた本作がランクインです。
主人公はCMや雑誌に引っ張りだこのミステリアスな人気モデルりりこ。彼女には誰にも言えないある重大な秘密がありました。
「化粧品なんてシャブみたいなもんよ
使えば使うほどキクやつが必要になってくる
どんどん強いもんが欲しくなる」(『ヘルタースケルター』より引用)
全国の女子の憧れの的である、りりこの秘密。それは彼女が全身整形で完全に「作られた」美人であるということでした。全身整形という不自然な形で存在しているりりこの美は、そのままにしておくと少しずつ崩れていってしまいます。常に痛みと莫大な金が伴う、メンテナンスが必要だったのです。そしてそんなりりこの全身整形を手掛けた医師、病院は、連続するある事件に関わっていて……。
- 著者
- 岡崎 京子
- 出版日
- 2003-04-08
本作の面白さは、表面的なりりこと内面的なりりこのギャップにあります。彼女は嘘をつきまくって芸能界という荒波を生きているのです。全然幸せではないのに、幸せであるフリをしています。それは現実社会に生きる私たちにも共感できる部分ではないでしょうか。
たとえば、SNSで「リア充アピール」をすればするほど、「まわりの人からこう思われたい自分」と「本来の自分」にギャップが生まれたという経験をしたことはありませんか。そういうことをすればするほど自分を苦しめるのに、「自分は、人より幸せで、充実した人生を送っている」というアピールがやめられない。その根底には、本当は満たされていない思いがあるからかもしれません。そして本作の主人公であるりりこもまた、決して満たされることのない心を抱えているのです。
「カメラがシャッターを押すたびに空っぽになってゆく気がする
いつも 叫びだしたくなるのを必死でおさえているのよ
いつかあたしは叫び出すだろう
その前に……ああ…なんとかしなくては…」(『ヘルタースケルター』より引用)
本作で描かれる、想像がつかないほど壮絶な彼女の苦しみ。こんなに苦しい思いまでして、りりこは一体何を手に入れたいのでしょうか。
映画化もされた本作品は、岡崎京子の真骨頂といっても過言ではありません。りりこが抱える心の叫びは、現代社会を生きるために作った自らの虚像に自らが苦しめられているという、現代人が抱える心の闇を見事に投影しているように思います。全1巻、一気読みしてしまうこと間違いなしです。