7位:予測不可能なおすすめヒーロー漫画!
生まれつき何らかの能力を持ったものを「祝福者」と呼ぶ世界。ある時から「氷の魔女」と呼ばれる祝福者によって世界中が雪に覆われ、人々は飢餓と狂気に支配されていました。その厳しい寒さから祈りの言葉が「慈悲の炎を」という決まり文句になるほど、人々は暖かさに飢えていました。
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
- 2016-07-04
主人公のアグニは「再生」の祝福者。物語は彼の腕が妹、ルナによって切り落とされるシーンから始まります。彼は再生能力が高く、腕を切り落とされてもまた一瞬で生えてくるのです。彼らが住む村では、人々は彼の肉によって命を繋いでいました。
しかしある日ベヘムドルグ王国の兵士たちのリーダー格の男、ドマがやって来て、「人喰い村を見逃せない」と村を焼き尽くしてしまいます。彼は炎の祝福者で、その火は物体を焼き尽くすまで消えません。
再生の祝福によってアグニは想像を絶する終わらない痛みに悶絶します。肉が焼き尽くされ塵に変わると同時に再生、また炎に焼かれる、その繰り返しです。その中で彼はあることに気がつきます。頭で腕の再生を拒否し続けると塵になった腕は戻らない、つまり死ぬことができるのです。そのことに気づいた時にルナとやっと再会します。彼より再生能力が弱いルナはほとんど塵になっていました。アグニがどうにか手をのばし、彼女の手に触れると、彼女はこう言うのです。
「生きて」
アグニはその言葉を胸に1年目、3年目、5年目と生きながらえ、ついには8年目にしてようやく炎に覆われた体の使い方を学びます。そしてドマへの復讐を決意して進むのです。
「ヤツを… 殺す…
できるだけ残酷に…
殺して… 燃やす…
この拳で塵にしてやる…!!」
物語の始まりは復讐を誓った男のファンタジー冒険譚です。これだけ聞くと王道作品の予感がするでしょうか?この作品はそれだけでは終わりません。
1巻の最後で消えそうになる復讐の炎。しかしそこから物語は予想外の方向へ動き出すのです。ようやく再会したドマにアグニが炎の拳を上げた瞬間、物語の場面は切り替わり、トガタという女がカメラの前で話すシーンに変わります。アグニの容貌に惚れ込み、映画を作ろうとしたと語る彼女。それから物語はどんどん予想外の方向へと変化していくのです。
2巻でトガタがルナに似た再生の祝福者・ユダの頭を切り落とし、追うアグニから逃げ回るシーンがあります。アグニはルナが生き延びていたのではないかという希望から、ユダから離れられずにいるのでした。
ユダの頭を無造作に川に落とし、炎に覆われた手から拾い上げることのできないアグニを脅すようにトガタはこう言います。
「ドマを君の拳で殺せるように私がセッティングする
だからそれまでを撮影させて」
迷いながらも、アグニはユダの為にこう言うのです。
「俺は主人公になる」
この契約こそがアグニの復讐の旅を左右する展開の始まりでした。
そしてこのシーンの中に、この作品をよく表した言葉があります。上記のアグニとトガタが追いかけっこしている様子を、ネネトという少女が見ています。心底楽しそうに追いかけっこをするトガタ、寒さの中彼女を追って必死の形相で追いかけていくアグニ、ユダの生首。なぜか青春の1コマのような爽やかさが画面に溢れています。でも、振り回される生首、そして極寒の中の川への入水というありえない状況。ネネトはこう言います。
「あの人達…まともじゃないんだ」(一重括弧内すべて『ファイアパンチ』より引用)
切り落とされる腕の描写から始まり、復讐劇かと思いきや映画撮影が始まる。そして更に物語は暴走したトガタによってアベンジャーズのようなヒーロー万博的展開になっていきます。まともじゃない。でもなぜか面白い。予測不可能な少年漫画です。カテゴリ分けもできない新しい展開で読む者を楽しませてくれるおすすめ漫画です。
6位:全員主人公の熱い青春サッカー漫画!
- 著者
- 新川 直司
- 出版日
- 2016-08-17
曽志崎緑と周防すみれ、ふたりのサッカー女子は高校入学を目前に控えた中学3年生。すみれの圧倒的な負け越しではありましたが、彼女たちは中学3年間を良きライバルとして過ごしていました。
「と思っているのは曽志崎だけだった(中略)
周防すみれにとっては目の上のたんこぶ
単なる邪魔者
道端の石コロ同然なのである
『どのツラ下げて来た』(石コロめ……)」
モノローグと最後のすみれのセリフからも分かるように、ふたりの意識には少し違いがあるのでしょうか?すみれは無表情で緑を突っぱねます。最初から新川直司のギャグが光って始まるストーリー。このほかにも作者の新川直司ならではのギャグ満載、アクセル全開の展開という盛りだくさんの内容で物語は進んでいきます。ふたりはなんやかんや言いながらも強豪高校・浦和邦成が練習試合をしているという蕨青南高校へ見学に行きます。
7-0で浦和の勝利となった試合。蕨のチームでは負けた後にチームメイトたちが揉めています。部員の3年生たちがやる気のない現コーチに見切りをつけ、クラブチームにいくと言うのです。蕨の2年生のひとりが必死に止めますが、その願いは聞き入れられず彼女は泣きながら居残り練習をしていました。それを見て緑はすみれにこう言います。
「あの人あんたと似てるわ(中略)
あんたと同じ ひとりぼっちだ」
実はすみれは実力がありながらもチームメイトに実力差から疎んじられ、そのせいで緑にも負け続けていたのです。突出した才能がありながらも、その環境のせいで注目を浴びることもありませんでした。さらに緑はこう続けます。
「一緒のチームに行こうよ
一緒の高校でも クラブチームでもいい
私があんたにパスを出すよ
私と一緒にやろう
1人になんてさせないから」
そしてふたりは高校入学。その舞台は蕨青南高校です。そう、なんとすみれは緑の言葉から蕨の7番に共感し、強豪の浦和ではなく、斜陽の蕨を選んだのです。競馬雑誌を読むコーチ 、3年が全員やめてしまったチーム、ミニゲームでは人数不足でマネージャーしかやったことのない部員もいれる始末。当初は不安に思っていた緑ですが、やはりすみれとプレイするサッカーの面白さに魅了され、高校ではなく彼女を選んだことを正解だと確信しました。
また、すみれもこの高校でサッカー人生を大きく変えます。その能力の高さからミニゲームでマークされた彼女はディフェンスにねらわれ、転倒。その時彼女の頭をかすめたのはひとりぼっちだという孤独感でした。しかしそこにチームメイトの恩田希が現れます。彼女はシザースを使った巧みなフェイントでボールをつなぎ、チームは1点を獲得したのです。
恩田希のシザーズのシーンは迫力満載。ドリブル中に左右の足でボールをまたぐというそのテクニックは、巧みな足さばきと躍動感が感じられる大ゴマで表現されています。実は彼女もまた才能がありながらも蕨で埋もれようとしていた少女だったのです。
「部員17人
ボンクラ監督
周防すみれ 15歳
彼女はピッチの中で
もう1人の自分を見つけた」
『四月は君の嘘』で一躍有名となった新川直司の待望作。既刊『さよならフットボール』の恩田希も登場します。『さよならフットボール』は2巻完結ですぐ読めますし、内容も申し分なし。そして本作品に入り込む為にも一読もそちらの過去作もおすすめです。
この作品は新川直司の得意な要素がこれでもかと詰まった作品です。冒頭からノンストップのギャグに、少女たちの青い名言で緩急をつけたストーリー。そして迫力あるプレイシーンには、芸術でもスポーツでも表現者の描写がうまいのだなと感じさせられるものがあります。更に全員が主人公と言ってもいいほど登場人物たちみんなにしっかりとされたキャラ付け。彼の特筆すべき点が盛りだくさんとなった作品に仕上がっています。
また、この作品は女子サッカー界への愛を感じる作品でもあります。すみれの中学時代の才能の埋没とともに物語冒頭に描かれているのは女子サッカーの過酷な状況。過去に世界王者となった日本の女子サッカーチームですが、継続的な人気、業界の体制見直しとはならなかったようです。少ないプロチームの数、年収、協会の体力・姿勢など、その将来性は男子サッカーとは比べ物にならないほど良くありません。
顧問の深津はコーチに就任した能見にこう言います
「女子サッカーに未来はあるのか?」(一重括弧内すべて『さよなら私のクラマー』より引用)
ボールと夢を追いかける可能性に溢れた少女たちと、女子サッカー界の先が見えない苦しい状況を描いた本作品。果たして作品の中の彼らはどんな答えを出すのでしょうか?ただのスポーツ漫画では終わらない疑問を私たちにも投げかけてきます。スポーツの格差やブームに対する疑問、それを新川直司が過去に積み重ねてきた技術を注ぎ込んで描いた意欲作と言えるのではないでしょうか。
5位:謎の女と謎の家で起こるミステリー青年漫画!
主人公の道間慎は殺人犯の父を持つ売れない小説家。素性を詳しく知らない5人の女たちとの同居生活を送っています。彼は毎月女たちそれぞれから100万円を家賃としてもらい、そのかわりに女たちの身の回りの世話をしています。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2016-03-30
本作品は「100万円の女たち」と主人公が織りなすミステリーラブストーリーです。自伝的漫画『スラップスティック』や『俺はまだ本気出してないだけ』が人気の青野春秋の作品。どこか荒廃した人物を描くのが上手い青野春秋らしい、だらしない主人公が美女たちに囲まれて生活を送ります。
1巻ではまだサスペンス要素は少なめ。女たちと主人公の、ちょっと毒がありつつもほのぼのとしたやりとりが良い味を出しています。そして謎の要素が濃くなっていく2巻から物語が動き始めるのです。女たちがここで暮らすようになった経緯、そして素顔が少しずつ見えてきます。
本作品は女たちのキャラクターが秀逸。単調にも見えてしまうかもしれない青野春秋の絵ですが、特徴が際立った性格によって女たちが物語の中でいきいきと動くのです。1巻では特に高級コールガールクラブの経営者である白川美波の魅力がクローズアップされています。
美波は慎のことを「小説」と呼びます。彼がスランプで書けない様子を見て、自分の経営するクラブの待機所に連れていきました。
「いい?『小説』、世の中には人間の数だけ価値観の違いがあるの。 私がそれをあんたに教えてあげるわ」
そして人気アイドルグループのメンバーの女の子がホテルに派遣された後、彼女の一晩の値段を明かします。600万という金額を出せるかと聞かれた時、慎は出さないと答えます。美波はアイドルと寝たい人間が多くいるという事実についてこう言うのです。
「質より人気という付加価値に弱い人間がくさるほどいるのよ……」(一重括弧内すべて『100万円の女たち』より引用)
本作品では表現の質と人気についてや、「殺人」について、人の生きる理由など、様々な重要なテーマが物語に出てきます。しかし、そのどれが一番本作品では描きたいのか、ということは強調されていません。
「強調する」ということはテーマをストーリーに絡めて、その正当性を理屈付けし、感情を揺さぶるように脚色するということです。本作品ではその表現方法について疑問を投げかけているのです。
そしてその疑問の提示こそがこの作品のテーマなのではないでしょうか。慎の書く小説の特徴と、最終話で彼に投げかけられるある女からの言葉には作者のメッセージを感じます。
果たして、あなたはそのメッセージをどう感じるでしょうか。自分の価値観や感受性について違う角度から見る機会をくれる作品です。