対極的な二人が織り成す!斎藤けんのラブコメディ
- 著者
- 斎藤 けん
- 出版日
- 2010-06-04
『ねじまき真野さん』や『天堂家物語』とは一転、明るくコミカルな『プレゼントは真珠』は英国を舞台にしたラブコメディです。
主人公のエドワードは貴族のローベル家の一人息子で、女性との接し方も分からないヘタレなお坊ちゃま。ダンスパーティーで女性の足を踏んでしまうなど、とにかくダメダメなエドワードを見かねた使用人たちが、女性に慣れさせるために一人の少女を連れてきました。使用人が言うには奴隷として売られるところを助けたとのこと。少女は可憐でエドワードの好みのタイプでした。真珠が似合うことから真珠と名付け、プロポーズまでしてしまったエドワードですが、実は真珠の正体は由緒あるキャデリッシュ伯爵家の令嬢。そして何でも完璧にこなす超ドSな性格だったのです。
見どころは何と言っても真珠のエドワードに対するドSな扱いです。ヘタレと完璧人間という対極的なふたりが繰り広げる物語はまるでコントのよう。ちょっとかわいそうだな、と思いながらも笑えてしまうような作品です。
真珠はドSと言ってものその中に愛を感じるセリフや行動が多く、仲が良いからこそのコミュニケーションだと分かるので、微笑ましい気持ちで読み進めることができます。また、とても仕える身とは思えないほど鋭いツッコミをする使用人や、個性がありすぎるエドワードの友人たちも笑いを誘ってくるキャラクターで印象的です。
この作品ではエドワードがいじられている場面が多いのですが、みんなが彼を可愛がっているからこその態度であり、決して不快な気持ちにはなりません。夫婦漫才などが好きという方には特にオススメできる作品です。
心の闇との向き合い方は?斎藤けんの文学的な世界
- 著者
- 斎藤 けん
- 出版日
- 2005-06-04
『花の名前』はいままでとはまた違う静かなラブロマンス。高校一年生で両親を亡くした水島蝶子は、父親の従兄弟で小説家の水島京に引き取られました。ショックで心を閉ざしていた蝶子でしたが、京との生活を送る中で人間味を取り戻していくのです。また京も心に闇を抱えており、少しずつ蝶子に救われていく様子が描かれています。
見どころは、所々に挟まれている文学的な表現。例えばそのひとつと言えるのが家の庭です。蝶子が京に引き取られたばかりの頃は、家の庭は何もなく、全く手入れがされていない状況でした。
しかし蝶子が花を植え、手入れをすることによって花でいっぱいになり、美しい庭になっていくのです。これがまるで京と蝶子の心の中を表わしているようで、作者のセンスを感じます。直接的な説明がなくても隠れたところに文学的に表わされている部分を感じ取れるので、それを見つけるのも楽しみ方のひとつではないでしょうか。
また、心の闇をテーマにした小説ばかりだった京が、蝶子に出会って初めて「花名(はな)」という恋愛小説を書きました。これは彼なりの蝶子への愛の告白だったのです。しかし京のファンは今までとは系統の違う作品に腹を立て、蝶子のせいで京の魅力がなくなったと嫌がらせをしてきました。そこで蝶子はファンに平手打ちをして強く言うのです。
「闇の中から這い上がるために必要なのは自分の両腕ですから!」(『花の名前』より引用)
自分も絶望から這い上がってきた経験から発せられた、蝶子のこの言葉には重みを感じます。誰の力でもなく、自分の意志が大切だと教えられる言葉ではないでしょうか。闇から這い上がろうとした京を励まそうとする言葉にも聞こえ、落ち込んでいる時に言い聞かせたい一言です。
静かで落ち着きのある『花の名前』。読めば読むほど新しい発見ができる不思議な作品なので、ぜひ二度三度と繰り返し読んでもらいたいです。
幸せを分けてもらえるほのぼの日常を斎藤けんが描く
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2015-05-01
『かわいいひと』は花屋で働く青年と女子大生カップルの日常を描いた穏やかなラブコメディ。主人公の花園森也は目つきが悪く死神顔と呼ばれています。そんな彼の恋人は大学のミスコンで1位を取ってしまうほどの美女、鈴木日和。二人のピュアでほのぼのとした日常に幸せを感じる優しい物語です。
花園は優しく純粋な好青年ですが、顔が怖いことで何かと損をしながら生きてきました。しかし顔よりも中身を見てくれる日和に出会い、今までの人生を取り戻すかのように幸せな日々を送ります。日和にとっては花園の顔もカッコよく見えています。
そんな日和はただ顔が可愛いだけでなく、優しくて芯のある女の子。花園がなかなかリードできずにいるときは日和が率先して行動してくれる頼もしさも持ち合わせているしっかり者です。
この作品は斎藤けんの漫画にしてはめずらしく、ほとんど毒気がありません。楽しそうなふたりとそれを取り巻く賑やかな友人たちに思わずほほが緩んでしまう作品です。付き合いたてのカップルによくある小さな「あるある」が笑いを交えて描かれているので、共感できる方も多いのではないでしょうか。
タイトルの『かわいいひと』というのは一見日和のことかと思いますが、日和と花園の両方のことを差しているのではないでしょうか。お互いに赤面したり、満面の笑みを見せたり、ちょっとドジだったり……。読者に「かわいいなあ」と思わせる工夫が盛りだくさんで、思わず応援したくなるカップルです。嫌な登場人物も特に出てこないので、安心して読める作品です。
『かわいいひと』は幸せな描写が多く、とにかく癒されます。そのため疲れて現実逃避したくなった時にはぜひ読んでみてはいかがでしょうか。