「可愛い」はよく聞く言葉です。動物やファッション、人間の容姿、行動に起因するものなど、「可愛い」は世にあふれています。あえてワーストでご紹介する、「可愛い」とは真逆の「トラウマ可愛い」世界をご紹介します。

『恋の超時空砲』は、美少女を集めた短編集です。線の細かい絵画的な少女が書かれた表紙絵に、まず目を奪われます。特徴的ではありますが、少し見ただけでも女性の身体を正確に描くデッサン力の高さがうかがえます。
- 著者
- 駕籠真太郎
- 出版日
- 2015-05-30
ねこぢる『ねこぢるうどん』にはにゃーことにゃっ太の白猫姉弟が登場します。白くて目が大きくて、見た目は子供の絵のように可愛いのに、黒い目が感情を映さないところが少々不気味。5歳と3歳である2匹の無邪気な行動は、不条理に満ちています。
- 著者
- ねこぢる
- 出版日
- 1992-07-25
ちーちゃんの幼馴染で、同じ団地に住む小林ナツは、気弱で内向的な性格。他者に対する強いコンプレックスを抱えていますが、自身を変えようと努力はせず、ちーちゃんのように、自分を「足りない」存在だと考えています。
- 著者
- 阿部 共実
- 出版日
- 2014-05-08
- 著者
- 阿部 共実
- 出版日
- 2012-03-08
『空が灰色だから』でとにかくインパクトのある作品は、第34話『ただ、ひとりでも仲間がほしい』でしょう。虫と人間を融合させたような、奇抜な絵を描く来生さんは、気味悪がられ、クラスに馴染めないでいる少女です。本来は心霊画像をみて電気を消して眠れなくなってしまうほどのビビリ。誰からも理解されない、特別な自分でいるために「自分を解放しなきゃ」(『空が灰色だから』より引用)と大げさに狂気を演出してしまいます。
そんな来生さんを自分の別荘に誘った佐野さんは、自己を解放した姿を見せました。本物の狂気にふれ、悲鳴を上げて逃げ出す来生さん。作られた狂気が本物の狂気を呼び寄せるという構図の本作は、視覚的な気持ち悪さが読者の心をえぐります。
しかし、虫を全身にはわせながら「仲間がほしい」と泣く佐野さんは、来生さんと同じ、誰かに認められたい普通の少女なのです。
本作には、自分の保身のため転校してきた少女を手ひどく裏切ってしまう『歩み』や、母子家庭の母娘のすれ違い気味の愛に涙が誘われる『空が灰色だから手をつなごう』など、泣ける作品も多く収録されています。
彼女たちは他者の言葉に傷つき、息苦しい気持ちを味わっている中で人の痛みを知り、また愛し愛されていることを確認し、成長します。語り手である少女たちを傷つけ、他者を蔑みいじめることで安楽を得る少女たちにたいする救いは、欠片も用意されていません。一つ一つの物語の中に、当たり前のように他者を傷つける存在がいる。そんな世界であることが、恐怖でもあるのです。
10代の頃の自分を忘れたいと願っても、不意に思い出しては未熟だった自分を恥じ、痛々しい過去に悶絶することがあります。しかしその行為は、他者や自分の痛みを思い出す行為。『空が灰色だから』は、あの頃を忘れてはいけないと強く印象付ける、そんな痛々しさを内包する作品集です。
『空が灰色だから』については<『空が灰色だから』5分でわかる解説!刺さるトラウマエピソードベスト10【ネタバレあり】>の記事で解説しています。
- 著者
- 浅野 いにお
- 出版日
浅野にいお『おやすみプンプン』は、プンプンという主人公の成長を描いた作品であり、その内容からは少しだけ離れたところで風変わりな作品でもあります。
タイトルはかわいく、エピソードも初恋のもだもだ感を想像させますが、そんなことはありません。プンプンはひよこだったり三角形だったりと、記号や動物の形で表現され、人間の顔や身体を持ちません。それは読者にだけわかる表現で、作中では人間として認識されています。
同じようにプンプンは、モノローグでだけ話します。作品世界では意思の疎通もはかれているので問題はないのですが、その姿と話し方という表現方法が、プンプンを現実世界にはいない、どこか地に足のつかない、普通ではない存在という印象を抱かせます。
プンプンはいたって普通の少年で、いたって普通の青年になります。愛された経験の不足からくる不器用さは人として当たり前で、南条幸との恋人関係も、幸せになるはずのものでした。
しかし、過去に体験した愛子との初恋と、約束を守れなかったという2つの記憶が、プンプンを普通ではない方向へと走らせてしまいます。「普通でいいの。普通で…映画観てお茶して買い物して…」(『おやすみプンプン』より引用)自分の境遇から抜け出せず、誰よりも普通を望んでいた愛子を守るために、普通ではない方向に走らざるを得なくなる展開に、胸が痛みます。
愛子を守るため、結果的に愛子の母を手にかけてしまうプンプン。本作はプンプンが救われない物語です。プンプンにとって死は救いであり癒しでもあるのですが、それは許されず、法の裁きを受けて生き続けます。それは読者にしこりを残す、後味の悪い物語として記憶に残るものとなりました。
しかし、作品世界から離れてみると「人を殺した人が裁きを受ける事」が、当たり前なのだと気がつきます。普通であることは、実はとても難しい。小さなかけ違いや選択の違いで、破滅にたどり着いてしまったプンプンに、息苦しさを覚えます。
もっと詳しく知りたい方は<『おやすみプンプン』5分でわかるあらすじと魅力!鬱すぎるプンプンの人生【13巻完結、ネタバレあり】>の記事もご覧ください。
トラウマは強い衝撃によって生まれます。作者の熱と感情をこめられた作品は、それだけ強く読者の心に傷を残すのでしょう。残された傷は、強く記憶にとどまり続ける作品となるのです。