松本大洋の虚ろな青春が切り取られた作品「青い春」
本作は、松本大洋が初期に発表した全7編からなる短編集となります。タイトル通り青春がテーマとなっていますが、スポーツや恋愛に打ち込む姿や、そのような中で芽生える友情といった、明るく健全な青春とは少し異なります。
- 著者
- 松本 大洋
- 出版日
- 2012-01-14
どちらかというと、青春時代に感じていた鬱屈感、閉塞感が感じられる、不良少年達の「日常」を描いた作品となっています。
今回は、準決勝で敗れ、甲子園に出ることができなかった野球部員たちが部室で麻雀に興じる「夏でポン!」をご紹介します。まるで甲子園の試合とダブらせるかのように、試合の場面と、麻雀をする部員たちの姿が、同時進行で描かれます。
他の生徒が、「よっぽどこたえたんだな。準決勝」「甲子園終わるまでやる気だぜ」(『夏でポン!』より引用)と噂するほど、部室にこもって麻雀を続ける部員たちですが、そこには明らかな悔しさや悲しみの言葉はありません。
むしろ、「麻雀ばっか強くってもな、野球で負けてちゃ仕方ねぇ」(『夏でポン!』から引用)などと、自虐的な言葉を発しています。自分たちを茶化しながらも、やり場のない喪失感が感じられます。
栄光も無ければ達成感も無い、ある日常の一コマが描かれます。妙にリアリティを感じさせるのは、青春時代に感じていた、生々しい感情をそのまま切り取った作品となっているからでしょう。
松本大洋流・静寂のファンタジー『ナンバーファイブ―吾』
本作については、じっくりと腰を据えて読むことをお勧めします。ファンの間でも、難解な作品であるといった声を多く見かけるほどの作品なのです。ストーリーの流れや、キャラクターの発するセリフから、読み手は感性を駆使して、秘められた意図を受け取らなければならない作品といえるでしょう。
- 著者
- 松本 大洋
- 出版日
舞台は遠い未来。崩壊した世界を救うため、特殊な能力を持つメンバーで構成された「虹組」を頂点として「国際平和隊」が結成されました。世界に平和を取り戻すかと思われていましたが、メンバーの一人、No.吾(ナンバーファイブ)が逃走します。マトリョーシカという名の少女を連れ立って。
他の虹組のメンバーは、彼を追跡し、裏切り者を始末すべく動きます。吾(ナンバーファイブ)の目的とは?世界は一体どうなるのでしょうか?
あらすじに簡単に触れてみましたが、これだけで、これまで紹介した松本作品とは、若干毛色が異なることが理解いただけるでしょう。しかし、ただの戦闘や謎解きに留まらないのが松本大洋の作品です。
まず、主人公を始めとするキャラクターがどれも丁寧に、緻密に描かれています。ファンタジーの世界でも、やはり生々しいほどに、人間が描かれているのです。
虹組メンバーのそれぞれのバックグラウンドや性格もさることながら、虹組リーダーであり、吾の最大の敵とも言えるポジションに居る、No.王(ナンバーワン)ですら、確固たる目的を持ち貫き続ける姿に一概に「敵」として片づけることのできない魅力があります。
週刊誌の増刊号である第一号目から、目玉作品として掲載されていたことからも、松本大洋らしさを十二分に発揮しながらも、新境地として読者に衝撃を与えた本作は、見事な完成度と言えるでしょう。
また、ファンタジーという非現実的な設定の中で、非常に淡々と生死について描かれているという点が、本作品に重みを与えているのではないでしょうか。
まさに松本大洋の代表作!ヒーローと才能を卓球を通して描く『ピンポン』
持つ者、持たざる者。それぞれの苦悩と葛藤を、圧倒的なスピード感と人物描写で描いた本作は、松本大洋の作品を語るうえで欠かせない代表作となっています。
クラスに一人はいるようなお調子者・ペコと、何を考えているかわからない暗い感じの男の子・スマイル。この二人が物語の中心となります。
- 著者
- 松本 大洋
- 出版日
一見すると、共通点の無い二人。この二人を繋ぐものが、卓球です。もともと才能に恵まれたペコと、それに魅入られたスマイル。いつしか、ペコは努力を怠り、自分より格下だと思っていたスマイルや、同じ卓球道場に通っていた幼なじみ・アクマとの差を目の当たりにすることになります。
卓球選手として立場が逆転しても、スマイルは決して安易な言葉でペコに努力を強いることはしません。淡々と、「嫌ならやめたらいい。無理して続ける事はないよ。」(『ピンポン!』から引用)と言います。
しかし、スマイルにとってのペコは、絶対無敵のヒーローなのです。いつだってピンチの時に現れ、自信満々で相手を吹っ飛ばすヒーローを、スマイルは待っているのです。
では、そんな期待を一身に受けたヒーローは、一体何を思うのでしょうか。勝って当たり前、できて当たり前……常人には計り知れない、ヒーローとしての苦悩。
スマイルにとってのペコ然り、インターハイ常勝校の主将である、風間然り。彼らのヒーロー(勝者)に対する概念が、対極であることもまた、二人の試合のシーンを楽しむ醍醐味と言えるかもしれません。
また、ライバル校の選手であり、ペコとスマイルの幼なじみである佐久間ことアクマも、苦悩し、挫折を味わった末に、卓球から離れたペコに対してこう投げかけます。
「血反吐吐くまで走りこめ、血便出るまで素振りしろ、でなきゃ、お前に憧れたスマイルや俺が報われねぇ」(『ピンポン!』から引用)。
才能とは全てを凌駕するのか。才能の無い者は、その世界を去ることしかできないのか?答えは是非、作品の中で見つけて欲しいと思います。