父の言葉で語る数学の世界
数学について熱く語る人につい引いてしまう……そんな人もついつい数学の面白さに夢中になってしまう、それがこの本『数学の言葉で世界を見たら』です。
意外にもこの本の著者は大栗博司という物理学者。数学者ではないのです。東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構の主任研究員として宇宙の謎の解明に挑んだり、宇宙のメカニズムを解き明かす超弦理論という手法を「大栗博司の数学の予想」として独自に発展させたりしています。つまり、物理の分野から数学の分野まで多岐にわたる学問を極める研究者なのです。そんな著者が自分の娘に語りかけるように数学の奥深さ、面白さを伝えています。
- 著者
- 大栗 博司
- 出版日
- 2015-03-18
この本の中で紹介されている面白いエピソードの1つが「ゲーデルの不完全性定理」です。不完全性定理とは、オーストリアの数学者ゲーデルが証明した数学基礎論における重要な定理のことで、簡単に言えば「理屈だけで証明を進めていくと、正しいとも間違っているとも言えない矛盾が生じてしまう」というものです。
例えば「自分は嘘つきだ」とある人が言ったとします。それが本当だとしたら「嘘つきなのに本当の事を言った」と真実が矛盾してしまい、それが嘘だとしても「嘘つきが嘘だということは、正直者だということなのに、嘘をついた」という矛盾が生じてしまいます。これは自己言及パラドックスと呼ばれ、不完全性定理を語る際の例として広く使われているのです。
著者も自身のホームページでこの定理について「深遠な内容のため、広く誤解を受けやすい」と語っていますが、誤解を受けやすい複雑な内容だからこそ、その面白さもひとしおです。縦横無尽に語られるディープな数学の世界をぜひお楽しみ下さい。
高校生が紐解く数学の世界!
『数学ガール』は結城浩というプログラマーが書いた小説です。日坂水柯などによって漫画化もされ、英語、韓国語、中国語にも翻訳されています。原作を書いた結城浩はYukiwiki(ユーキウィキ)というソフトウェアの開発をした事でも知られ、プログラマーの世界でも名の知れた人物です。
主人公は「ぼく」。高校2年生。名前は明かされていません。中学校の頃からずっと放課後図書室で数式を展開していたという数学オタクです。
そんな「ぼく」がミルカ(高2、ぼくと一緒に数学の世界を楽しんでいる)、テトラ(高1、ぼくに数学の指導を頼む)、ユーリ(中2、ぼくのいとこ)と一緒に数学の世界を旅する形で物語は進んでいきます。
- 著者
- 結城 浩
- 出版日
- 2007-06-27
この本の面白さはズバリ登場人物の魅力でしょう。宿題は休み時間に終わらせて、放課後はひたすら数式を展開することに情熱を燃やしている主人公「ぼく」。クールで頭脳明晰なミルカは「ぼく」の数学の思考を共に広げていくキャラクター。余りを求める数式を表す「mod」など「ぼく」の知らない知識まで網羅しています。テトラは素直で優しく可愛らしいキャラクター。実は「ぼく」に好意を寄せています。さらに彼女は「わからない」読者の視線に立って、本の中で疑問を代弁してくれるのです。そして「ぼく」のいとこである中学校2年生のユーリ。「ぼく」のことを「おにいちゃん」と呼び、「ぼく」の出題する数学クイズからどんどん数学の面白さに惹かれていきます。ユーリも「ぼく」に憧れを抱いているのが面白いところです。
構成比は数学70%、恋愛20%、笑い5%、日常5%といったところ。それぞれのキャラクターがそれぞれの思いを抱えながら、数学という奥深い世界を探求していきます。数式の定理の中を、数の規則性の中を、数字が織り成す図形の中を飛び回る彼らは辿り着く先で、一体何を見るのでしょうか。数学の旅を彼らと一緒にぜひ堪能してみて下さい。
紙と筆だけで壮大なプロジェクトに挑んだ男の物語
『天地明察』は冲方丁が囲碁将士で天文暦学者の渋川春海の生涯を描いた小説です。2010年に本屋大賞を受賞し、同じ年の直木賞の候補にもなりました。2012年には岡田准一主演で映画化もされています。
江戸時代前期、人々は中国唐の時代に使われていた「宣明暦(せんみょうれき)」という暦を使っていました。中国唐の時代に71年間しか使われていなかったこの暦を、当時の日本人は800年以上使用していました。その為誤差が蓄積し、正確性に欠けていたのです。そこで水戸藩主徳川光圀や会津藩主保科正之の推薦を受けて、渋川春海がまだ誰もなし得たことのない日本初の国産暦の開発を任されることとなりました。
- 著者
- 冲方 丁
- 出版日
- 2012-05-18
物語の全体を通して渋川春海が様々な人と出会い困難にぶつかりながらも大きな目標に向かって突き進んで行く様子がみずみずしくも壮大に描かれています。登場人物の中には実在する歴史上の人物も多く、読みやすいこともこの本の魅力です。
「星は時に人を惑わせるものとされますが、それは、ひとが天の定石を誤って受け取るからです。正しく天の定石をつかめば、天理暦法いずれも誤謬無く人の手の内となり、ひいては、天地明察となりましょう」
(『天地明察』より引用)
この言葉からも困難を何度も乗り越えていけば必ず成果を手に入れることができるという渋川春海の信念が伝わってきます。何かに向かってがむしゃらに努力をしたことのある経験がある人なら、きっと渋川の強い信念に胸を打たれることでしょう。一意専心任務に励む男の物語としても、歴史上の人物に夢を膨らませる歴史物語としても、江戸時代の政治や暦についての物語としても、しっかり楽しめる作品です。